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フェティッシュの火曜日
 
おばあちゃんと作る箱寿司と五平餅
こちらは五平餅

愛知県の春日井市に住む義理の祖母をたずねた。

用事はなくただ久しぶりに会いたいねえということで、けれど私の住む東京からは遠いのでせっかくだから3泊というスケジュールで家族で押しかけた。

家で一緒にご飯を食べたり、祖母が庭で育てている野菜を採ったりしてすごしていたら、突然祖母が物置からなにやら大きな木の道具を取り出したのだった。

「箱寿司でもやろう」

箱寿司? そ、それはまさか郷土料理というやつですか!

さらの次の日もおばあちゃんは五平餅を作ってくれた。箱寿司も、五平餅もおばあちゃんが昔から食べている故郷のお祭り料理だ。

(text by 古賀及子



縁側に座っておもむろにビニール袋から寿司箱を取り出した祖母(右)

寿司を入れた箱を積んで、つまみを差し込んで押すという仕組み

箱寿司ってなにさ

箱寿司というのは、その名のとおり、箱を使って作る押し寿司。

調べてみると「箱寿司」と呼ばれる押し寿司がある地域は全国的にいろんなところにあるようだが、おばあちゃんが持っているタイプの木の寿司箱を使うのは愛知や岐阜に多いようだった。おばあちゃんも、もともと岐阜県の瑞浪市出身だ。

岐阜や愛知の郷土の食事の文献を見ると、同じ器具を使って作る同じような寿司を「押し寿司」と記述している本もある。

いろいろあるようだけど、義理ではあっても自分の祖母が作ってくれる郷土の料理なのだから、これが私にとっての郷土料理ということで間違いない。

憧れの郷土料理

私は東京出身の両親のもと東京で産まれ、神奈川と埼玉で育った。住んだのはいわゆるベッドタウンでありその土地の歴史や文化を肌で感じる育ち方をしなかった。

だからか、土地の料理というものに対する憧れがやたらに強いのだ。郷土料理の本は大好きでよく読んで、これまでの記事で取り上げたことも多々ある。

それがなんとここへ来て自分の祖母が目の前で作ってくれようというのだから自分としては人生レベルでのまさかの展開である。

「箱寿司?! それはこのあたりの料理なんですか?!」

と思いっきりかぶりついて、あとはねじり鉢巻である。おばあちゃんと揃いの浴衣を着ているつもりで、「ぜひともお手伝いさせてください!」と言ったら、なんかすごい大声が出て慌てた。

箱は底も取れるようになっている
押し蓋をしてぎゅ−っと押すんですな
   
おばあちゃんがぐんぐん冷蔵庫から取り出した物々

貝をボツにした理由は「色がタケノコと似てるから」だった

採りそろった具! きれい!

ほかっても壊れない箱寿司

おばあちゃんによると、箱寿司は近所のお祭りなんかで持ち回りで作るらしい。

「こないだの祭りのときは誰が作ってきたんだっけな。ご飯詰めすぎて、石みたいになった箱寿司が出たよ。あんなに固かったら、ほかっても壊れんだろ」

おばあちゃんの喋る言葉は、愛知の言葉なのか岐阜の言葉なのか、そのミックスなのか、私には分からないのだが独特の言葉まわしだ。

「ありがとう」のイントネーションが小津安二郎の「東京物語」に出てくるおばあちゃんのそれと全く同じでおお、と思う(映画の方のおばあちゃんは尾道の人なのだけど)。

これぞ郷土料理というアバウト

箱寿司作りは寿司飯と具を用意して詰め、半日から1日押して寝せて作る。この日は晩ご飯に食べる箱寿司を朝に仕込んだ。

「具はね、タケノコとー、あとはいろどりがよければ何でもいいよ」

何でもいい、というのは本気のことらしく、おばあちゃんは思いつくままに冷蔵庫からあれこれと具を取り出していく。

あらかじめ煮ておいたタケノコ、貝の剥き身(結局これは「なんとなく」のおばあちゃん判断で使わなかった)、でんぶ、紅しょうが、シーチキン、にんじん、野沢菜の漬物、しいたけ……。見ると本当に適当だ。シーチキンて。

さらにそれぞれ、刻んだり煮たりして味をつけるのだが、味は「砂糖と醤油を使って濃い目」というルールしか存在しないようだった。おばあちゃんの目分量が炸裂する。

「塩ひとにぎり」という郷土料理の世界

そういえば、郷土料理の資料を読むと「聞き書き」というのがほとんどだ。土地の食べ物の歴史に詳しいおばあさんに、記者が話を聞いたり、実際に作っているところを見て書き起こしている。

勢い、レシピの分量も「片手で2ふり」とか「塩ひとにぎり」とか「茶碗一杯」とかおおよそ数字らしい数字は出てこないのだ。

おばあちゃんの作る箱寿司もまさにそんな具合。これぞ土地の料理という感じがひしひしして、実際は巻いていないはずのねじりはちまきの下が熱い。

おばあちゃんは非常にせっかち。ぼんやりしていたら知らない間に表に出て
箱に敷くハラン(葉っぱ)を採ってきて、で、もう洗ってる!

いよいよ箱に詰めます!  >
 

 
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