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ひらめきの月曜日
 
輪ゴム嗅ぎながらワインを飲む


 

ワインの専門家であるソムリエ。彼らがワインの香りを例えて使う表現には、様々なものがあることが知られているだろう。

木イチゴの香り、グレープフルーツの香り、ヘーゼルナッツの香り…というあたりまではまだわかる。想像してみてもおいしそうに思える。ただ、調べてみると中にはそれが本当にワインの香りなのかという表現もある。

いろいろな香りのワインを実際に味わうのは少々難しいだろうが、例えてるもののにおいを嗅ぎながらワインを飲むことなら割と簡単にできる。そういうわけで、やってみました。

小野法師丸



ワイン文化に対する逆からのアプローチ

普段からお酒を飲まないのでさっぱりわからないのだが、数あるお酒の中でも奥深い文化がありそうなワイン。今回はその香りを例えて言われる表現を、実際に嗅ぎながらワインを飲んでみる。


納戸の奥から出してきたワイン
申し訳ない気持ちになるバックストーリー

テイスティングに用いるのは、2006年産のボジョレー・ヌーボー。人からもらってずっとしまっておいたものだ。

瓶の裏にはいろいろと価値を高めるような説明書きがあるが、読めば読むほどその思いを受け止めきれないな、という印象が強くなる。


全身からにじみ出る嘘っぽさ
開栓も超おぼつかない

ワインをたしなむということで、正装で臨んでみよう。ただ、どうも私が蝶ネクタイをつけると、それはふざけようとしている合図のように見えて仕方がない。

妻とああだこうだ言いながら、10分ほどかかってなんとか開栓にこぎつけた。さっそく香りの表現に使われるものを嗅ぎながら味わってみよう。

 

ニセソムリエだけど、挽きたてにはこだわりました

まず始めに試してみるのは「黒胡椒の香り」。ローヌ地方のワインに現われる香りと言われているらしい。全く知らないローヌ地方の様子を、自分の中にあるざっくりとしたフランス観を元に思い浮かべてみる。

かなりぼんやりとしたそのイメージ。ともあれワインから胡椒の香りがするというのは意外だ。


よろよろしてるなー
これが自分なりのソムリエ

鼻に近づけた胡椒の香りを嗅ぎながら、ワインを味わってみる。…これはなかなかおもしろい。

もともとのワインの香りと、胡椒の心地よく刺激的な香りとが混ざって、新鮮な味わいになる。ワインの香りを胡椒に例えた人が私のこの様子を見たら「そういうわけじゃないんだけど…」と思うとはわかっていても、これはいい感じだと思わされた。

 

たまにそのまま食べたくなる
あー、これもいい感じ

続いては「バターの香り」。ブルゴーニュ地方のワインのひとつの特徴であるらしい。果実のお酒から乳製品の香りがするというのが意外。

頭の中で描くブルゴーニュ地方がさっきのローヌ地方と全く変わらないのはさておき、これは芳醇で心地いい。考えてみれば、バターをたっぷり使ったムニエルと一緒にお酒を飲んでいるような感じと言えるのかもしれない。

思い出されるのは、バターを使った料理を出す度に「バターは高級品だから」と念を押してきた母の言葉。そういうイメージを子供の頃から植え付けられている私にとって、実に豊かな気持ちにさせられる飲み方だ。

確かに独特のにおいがあるかも
そろそろ言葉にしがたくなってきた

次に試したのは「茹でキャベツのにおい」。別に悪いにおいというわけではないと思うが、確かに少々個性のあるにおいとは言えるかもしれない。

しかし、この言葉はワインから硫黄系のにおいが出ているときの表現として使われるもののらしい。つまりはうネガティブな意味合いを表しているわけだ。

嗅ぎながら飲んでみる。…これまで試したものとはちょっと違う印象。どうもマッチしない。硫黄とまでは思わないが、ネガティブに使われるというのはわかった気がする。

ついに食べ物以外に突入

続いては「ゴム臭」。やはり硫黄系のにおいとして例えられるものらしく、ネガティブな意味合いの表現だ。

ただ、「ゴムのにおい=悪いにおい」という感覚には異論もあるだろう。いわゆるよい香りというものではないとは思うが、輪ゴムを見るとついクンクンしたくなる人も少数派ながらいるのではないだろうか。

かく言う私も、なんとなくいじっていた輪ゴムをいつの間にか嗅いでる派の人間だ。試してみようではないか。


いよいよ説明できない感じに

やってみてわかりました。輪ゴムはワインに合いません。

ワインの香りとゴムのにおいとが全くの別物。別々に嗅ぐ分にはそれぞれの角度で魅力的なのだが、両者は決して調和することはない。ワインを飲むときには、いたずらに輪ゴムをいじらない方がよさそうだ。

中身ではなく箱を嗅ぎます
写真だけでもなぜかよみがえるにおい

非食べ物の第2弾は「濡れたボール紙のにおい」。確かにボール紙というのは、うっすらとだが独特のにおいがする。

そして濡れることでパワーアップするあのにおい。いつどこで嗅いだか記憶になくとも、「濡れたボール紙のにおい」と聞けば、なぜだか「ああ、あのにおいね」と思い浮かぶ方も多いのではないだろうか。

 


この写真の意味をフランス人にはわかってもらえると思う

試してみる。…必ずしも嫌なにおいというわけではないと思うが、ワインからこのにおいがしたらちょっと嫌かもしれない。

他のものには例えにくく、言葉で表すのが難しいこのにおい。よくよく考えると、ワインを飲んで最初に「これ、濡れたボール紙のにおいじゃねえ?」と言った人がすごい。そんなピンポイントによく気付けたもんだと思う。

私がしてるのは暴走行為というのとは違うと思う
ソムリエの道は厳しい

ワインの香りに例えられるものは屋外にも多々ある。右の写真で試しているのは「土のにおい」。単に妙な格好でワインを飲んでいるだけというわけではないのだ。

否定的にも肯定的にも使われるらしいこの表現。自分で試してわかったのは、否定も肯定もできない、つまりはよくわからないということだ。

はっきりしているのは、人の視線が気になるということ。「これもソムリエとしての修行なんだ」と、自分に嘘の言い訳をして乗り切るしかない。


紳士かつ不審者

こちらの写真では「枯れ葉のにおい」を実践中。よく熟成したワインに見られる複雑な香りを表現するのに使われるらしい。正直なところ、こちらもよくわからない。

正装の上に片手にワイングラス。あからさまに紳士なのだが、しゃがみ込んで枯れ葉嗅いでる。においがわからないのと同時に、ビジュアルとしても説明しがたいのがリンクしている。

ラストトライアルの舞台
ボンジョルノ!

最後に試すのは「馬小屋のにおい」。ワインを醸造する場所が不潔だった場合に出てくるにおいであるらしい。思いっきりネガティブな評だ。

馬にワイングラスを傾けてみたところ、なんだか不思議顔をしているように見えた。いでたちを見てもらえればわかると思うが、決して怪しい者ではない。


数ある馬の中からドリーをチョイス
胸によみがえる思い出の味

いざ馬小屋の中に入って、ワインを口に含んでみる。何頭もの馬の名前がある中からドリーを選んだのは、出入り口から最も近かったからだ。

…確かに畜舎のにおいはする。ただ、見た感じとても清潔に保たれていて、鼻を突くようなにおいの強さがあるわけではない。そんな状況でワインを飲む。これは悪くないんじゃないか。


心によみがえる懐かしさ

思い出したのは牧場で飲んだ牛乳。牧場に特有のにおいが漂う中で飲む牛乳は、味そのものに加えて郷愁を感じられることがあるだろう。あの感じと似ている。

気分はフランスの片田舎。勝手に想像を膨らませて、のんびりとワインをたしなむ。そんな旅気分が湧いてきたのは意外だった。

 

「濡れた犬のにおい」という表現もある

ワインを味わう舌はないけれど、気分だけでも味わってみるという今回の試み。素人でも実際にやってみると、それぞれ思うところが湧いてきておもしろかった。

他に気になった表現としては「濡れた犬のにおい」。濡れた犬をどうしても手配できなくて今回は試せなかったが、今後濡れた犬と接する機会があったらぜひクンクンやってみたいと思う。


 
 

 

 
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