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フェティッシュの火曜日
 
バスが好きでバス会社を作った男の話


小さい頃からケーキが好きで、大人になってケーキ屋さんを開いた、というのは聞いたことがある。
小さい頃からバスが好きで、大人になってバスの運転手になった、という話も、きっとそういうこともるだろうなと思う。
ではそれが、小さい頃からバスが好きで、大人になってバス会社を作った、という話だったらどうだろう。
またまたそんな、と思われるかもしれないが、実際にそういう人がいるのだ。

工藤 考浩



たぶん世界一のバス好き 山本宏昭さん

というわけで、バスが好きなあまりバス会社をつくって、路線バスを走らせてしまった人、山本さんに会ってきた。
山本さんは銀河鉄道株式会社の代表取締役つまり社長さんである。
銀河鉄道は東京の西部、東村山市を中心に路線バスを走らせている。


今朝も運転してました

そして山本さんは社長でもあり、現役のバス運転手でもあるのだ。
おじゃましたこの日も、「早朝勤務の仮眠明けで…」と眠い目をこすりながらのインタビューとなった。
「今朝も路線バスを運転していましたよ。」とおっしゃる山本さん。社長なのにほぼ毎日のようにハンドルを握っているそうで、なるほどバスが大好きなのだろう。


実家の酒屋さん裏が本社

遠足はどんなバスに乗れるのかが楽しみ

山本さんは子供時代からバスが好きで、バス遠足などのときは、こんどの遠足ではどんな車種が来るのかを楽しみにしていたという。
「うわー、遠足だ!お弁当はなにかな!」と遠足の前日に眠れないという子供は多いが、山本さんは「三菱かな、日野かな、いや日産かな」で眠れなかったのだ。
さすが栴檀は双葉よりというやつである。


銀河鉄道の車庫


そんなバス大好きの山本さんも大学生になった。
大学生なんていったら、女の子にモテようとスポーツカーに憧れるお年頃であるが、山本さんはバスの運転免許をとってしまうのである。
大型二種免許を取れるのが21歳。運転免許試験場では最も若い合格者だったそうだ。
そして大学を卒業。
就職先の希望はもちろんバス会社。観光バスの運転手さんになりたかったのだが、どのバス会社からも雇ってもらえなかった。
当時のバス業界は「運転手に大卒なんてとらないよ」というのが常識だったのだ。
それに独身の運転手を雇うと、バスガイドさんとくっついちゃったりなんだりと、問題になるので、既婚の運転経験者しか観光バスの運転手にはなれない時代だったそうだ。


東村山駅前にも
バス停がありました


そんなに運転したかったら自分でバスを買え

夢がかなわず思い悩む山本さんに、酒屋を経営するお父さんは「いいからお前は店を継げ。そんなにバスが運転したかったら、自分で働いた金でバスを買えばいいだろう」と叱ったそうだ。
ここで親不孝をするわけにもいかず、お父さんの言葉通りに家業を継ぎ、こつこつと働いた。
そして贅沢をせずに貯めたお金で、ついに中古のバスを購入するに至るのである。
山本さん24歳のころの出来事だ。


「好き」が結晶したバス

いまでこそ「鉄道趣味、バス趣味」というのは一般的だが、山本さんがバスを購入した1988年ころはまだそういう時代ではなく、個人でバスを所有するにはいろいろな困難があった。
そのなかでも一番大きな困難は、バスのナンバープレートを取得することだったという。
一般個人がバスを購入するというのは、営業許可を得ずにモグリでバスを運行(要するに営業用の緑ナンバーではなく「白バス」というやつだ)するに違いないと思われ、陸運局になんども足を運んで係官を説得したそうだ。


山本さんが最初に手にしたバス(銀河鉄道株式会社HPより)


時代が見方をする

念願のバスを手に入れた山本さんに、大きな転機となったのが「規制緩和」である。
それまでバス会社を作るには、バスの保有台数や車庫の整備など厳格な規定があり、事実上新規参入は不可能だったのだが、政府が進めた規制緩和により、新しくバス会社が作るのが容易になったのだ。
そこに山本さんは目をつけた。

山本さんは自分のバスを購入し、自由に運転することができるようになったが、山本さんが憧れていたのはバスを運転することではなく「バスの運転手」になることだったのだ。
そんな山本さんにとって規制緩和は渡りに船ということで、正式に書類(と認可が降りるギリギリの台数の中古マイクロバスを)を揃えてバス会社を設立した。


運賃箱が乗合い路線バスの証し

とはいうものの、いきなり路線バスを走らせることができるというものではなく、まずは貸切バス事業からのスタートだ。
夢にまで見たバス会社を持つことができた山本さんに、また追い風が吹いた。
山本さんの地元である東村山市が、コミニュティバスの運行を計画したのだ。
その業者の選定に参加したところ、山本さんのバス会社「銀河鉄道バス」が選ばれるのである。
…と書いてしまうと、トントン拍子に事が運んだようだが、実際には地元を走る、超がつく大手路線バス会社「西武バス」との調整など、大変な苦労とドラマがあったといいうことだ。
そのあたりのお話しは、それこそ本一冊分くらいになってしまうので残念ながら割愛するが、それを乗り越えるだけの情熱が、山本さんにはあったのである。


乗合バスの免許がおりたときが一番うれしかったです

究極のバス好き

「バス運転手は職人ですよ」という山本さん。
僕は「バスマニアが高じてバス会社を作った」というストーリーをイメージしていたのだが、山本さんが好きなのはバスだけではなくて「バスの運転手さん」という職業なのだ。
だからただバスを所有するというだけではなく、いろいろな困難や責任が伴う「乗合バス」という、バス好きにとっては究極の所にまで手を伸ばしたのだろう。
僕もかなりバスが好きだとは思っていたが、山本さんの前では恥ずかしくてそれが言い出せなかった。
好きこそものの上手なれというが、これほどバスのことが好きな人が経営しているバス会社が走っている街に住む人がうらやましい。。

HPの「乗務員指導マニュアル」がじんときますよ


銀河鉄道株式会社
http://www.gintetsu.co.jp/index.html

 
 

 

 
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