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はっけんの水曜日
 
自宅の琉球建築のリフォームをイベントにしてしまった話

おまつり感覚のセルフ改築についてききました


経緯からはじめさせてもらうと、先週、特別企画で沖縄に行きまして、そこで読者の方と会って話をしたんですよ。

そのなかでたまたま住んでる家の話になったんだけど、「古い琉球建築に二人で住んでる」、「自分で改築しながらどんどんいじってる」、「二人で工事やるのが大変だったからイベントにした」みたいな話がボロボロ出てきて、えっ、それちょっと見せてよ、って感じで始まったのがこの記事です。

(text by 石川 大樹


 

いわゆる古民家の沖縄版です

伊東さん・池田さんのお二人は那覇市内にお住まいで、古い琉球建築の一軒家をルームシェアして暮らしている。


登場人物1:伊東さん

登場人物2:池田さん


工房とか兼ねてるので物が多いのもあるのですが、散らかってる部分のは主に僕のせいです
(会ったその日に「じゃあ家見せてよ」っていきなり上がり込んだので…。大変ご迷惑おかけしました…。)

いきなりだけど、琉球建築の紹介がてら、ざっくり間取りの説明をさせてほしい。

左の写真が、家の中を玄関から撮影したところ。手前の黒い床の部屋が、琉球建築で「一番座」とよばれる部屋で、リビング兼客間みたいなところ。右側が「二番座」で、生活スペース。


キッチンは過去に増築されたもので、もともと外だったらしい

上の写真から左にパンしたのが、左の写真。左の方がキッチンで、右奥が「裏座」と呼ばれる、本来寝室などに使われる部屋。琉球建築は様式が決まっていて、だいたいどこの家もこんな部屋の配置になっているそうだ。

で、写真中央に4本の柱があるのだけど、ここにはもともと収納スペースや仏壇があった。ここが、問題だったのだ。

 

第1期・シロアリとの戦いをイベント化

池田:住み始めて最初の6月ですね、ちょうど今ごろの季節に、シロアリが出たんですよ。もともとヤバイかなーと思ってたんですけど、ある日、照明の下に羽アリの柱が発生して。

よく調べたらこのへん(収納スペースがあったところの壁)が全部食われてるのがわかりました。もう退治とかそういうレベルじゃなかったんで、とりあえず壊すしかない、と。大家さんに相談もしたんですが「自分たちでやって」ということになりました。

けっこう大がかりな作業だったから、どうせ二人じゃ無理。じゃあってことで、イベントにしちゃったんですよ。日取り決めて、フライヤーとかも作って。


そのとき作ったフライヤーのデザイン。家のリフォームとは思えぬ不穏さですが


壁の取り壊しをイベント化。そしてつけた名前がwhite aut project。名前の由来まできいてないけど、「白いアイツ」を追い出せ!ということだと思う。たぶん。

開催期間は3日間。集まった猛者は入れ替わり立ち替わりで、のべ20人近く。お借りした写真でその様子を見ていただきましょう。


崩す前。右の壁面がターゲット。

武器はハンマーとバール

 

壁崩しにはリンドバーグがあう

バールとハンマー片手に、音楽かけながらひたすら破壊活動。

いろいろ試した結果、壁の破壊に一番合う音楽はリンドバーグだったそうだ。どう考えても二人の世代を考えると曲のチョイスがおかしいんだけど、誰にでも通じる閉店のテーマが蛍の光なのと同じように、世代を超えて通じる壁崩しのテーマ曲がリンドバーグなのかも。

三日三晩かけてみんなで壁を壊したり床を剥がしたり。それに加えて飯食ったり酒飲んだり、がはいるので3日ではやっぱり終わらず、工期延長してなんとか虫食いの壁を取り払った。


アイツにやられた木はこんなふうにスポンジみたいになってしまう


入れ替わり立ち替わりで壁を壊していく

貫通した。木のうろからのぞくモモンガのように池田さん

 

いや、むしろランボーか

そんなこんなで、再掲になりますが、完成図(現在)


ここで取り壊した壁はいまもそのままで、柱だけが残っている。お二人はこの戦いを「第一期」と呼んでいた。

…ということは、当然第2期もある。

 

第二期・朽ちた床をとりもどせ

それからしばらく経ったある日、もしやと思い床の畳を剥がしてみると床板も朽ちていた。

畳を剥がし床板をはがす。そして床は壁と違って、はがしたままでは生活できないので、張り直しもしなければいけない。

あのホワイトアウトプロジェクトから約8ヵ月、かつて集まった有志たちがここで再招集され、ふたたび工事が始まった。


畳もボロボロだったそうで


ノリで「自分でやってみようぜ!」みたいな感じだと、このあたりまできて猛烈に後悔しそう

床下からはゾウリとかカップ麺のカップとかいろいろ出てきた


伊東:建物が歪んできてるのか、規格ものの床板が入らなかったんですよ。

池田:どうするよ、ってなったときに、実家から送られてきたかつお節の削り機を発見して。それをカンナがわりにして削りました。

伊東:かつお節削り機の刃の調節とかめちゃくちゃうまくなりましたよ。

キッチン用品で家を造る。衣食住の境目すら越えてくるDIYぶりだ。


これが素材ならかなりリアルなかつお節ができそう

畳の代わりにパネルを貼って、完成


そんなこんなでインディーズ感あふれる改築はまだまだ進行中。このあと壁にしっくいも塗って、現状は最初に写真でお見せしたとおり。それでも手付かずの箇所はまだまだある。つぎはバスルームへのモルタル流し込みに着手するそうだ。

…って書いてて思ったんだけど、壁壊し→床張り→しっくい→モルタル、ってどんどん作業が専門的になってきてる。池田さんは会社の自己紹介で「趣味は内装工事です」って言ったそうだ。


伊東:ここ折れたらどうなるのかな、この屋根落ちるのかな
池田:折れたら、その時はもう考えるかな
伊東:いつ落ちてもいいように、ドリフの音楽の用意しておこう

 

 

70年代(?)ぽいイラストのシール

前の住民の足跡

家を見せてもらっておもしろかったのが、前の住人の痕跡がいろいろ残されていること。

池田:柱に背比べの傷がついてて、日付が66年なんですよ。この家は少なくともその頃にはあったことになりますね。

壁情報からかつての住人の名前もわかった。あとは壁の一カ所に電話番号がいっぱい書いてあったりとか。電話台をおいてた跡だ。


これは60年代とかかな

二人が一番ドキッとしたという落書き。壁に貼ってあったバルサを剥がしたら、「ほしい」って文字が出てきた(マウスオーバーで文字でます)


ヤンバルクイナブームのときのシールでは。81年だそうです。


痕跡といえば、住人だけでなく、この家がどういう経歴をたどってきたかもわかる。

改装作業に慣れてくると、前回のリフォームのあとや、木材の善し悪しなんかもだんだんわかってくるものらしい。

池田:僕らが住む前にこの家、3回改築してるんですよ。回数を増すたびに材料がどんどん安いのになって…。

伊東:見事にあとからつくったとこからくずれてきてますね。

 

技術も上達

そんな感じで目利きが上達すれば、もちろん手先の技術も上がってくる。見よう見まねでやってた作業だが、回を重ねるうちに「はやく、うまく」なっちゃうのだそうだ。


たとえばしっくい塗り。さいしょはこんなにガタガタだったのが

水加減や塗り方もわかってきて、いまではこんなになめらか


池田:自分で解体したり修繕したりしてみると、どのくらい労力がかかるかわかるんですよ。そういうのって大事だと思います。

今後お金払って人にやってもらうことがあっても、自分がなんにお金払ってるか、っていうのが実感としてわかりますし。

 

 

家の外観。未改装のバスルームがツタに覆われてる

古い家だからできること

そもそも、そんな苦労までしてなんでここに住もうと思ったのか。

池田:安かったんですよ。家賃3万で、二人で払えば一人1.5万。

それが家の老朽化、白いアイツの襲来、などいろいろあって、「問題が起きて、対処して、のくりかえしでここまできてます。(池田)」 

ただ、手はかかるけど、そういう家だからこそ好き勝手できる部分もある。だってバリバリ壁壊してるけど、いちおう賃貸なんですよ、ここ。新しい家じゃ絶対そうはいかないだろう。(もちろん大家さんの許可済みですよ)

 

作りたかった空間に

池田:一軒家もったらパーティーとかやりたいし、工作とか興味あったから工房も作りたかった。楽器も持ってるから練習場所ほしいし…。

最初はそんな夢を持ってこの家に住むことにしたそうだけど、その後、この家では、そのほとんどが現実となっている。

例の改築プロジェクト以外にも、この家を会場にしていろんなイベントをやっていて、交流の場にもなっているのだ。


電子工作のワークショップをしたときの写真。作っているのは

僕も前に記事にした、POV!沖縄に同志がいた


レコード盤で灰皿を作るワークショップとか

居合い抜きのステージにも


文字通り、自分たちの力で「作った」場所だけに、愛着もひとしおだと思う。過程をイベント化したことによって、その愛着を人と共有できているというのも、またいい。

池田:改築に参加してくれたそれぞれの人が、「ここは自分がやった」っていう部位を持ってて、家に来ると、「ここは大変だったよねー」、みたいな話をしながら飲むんですよ。

伊東:工事現場のおっさんの飲み方だね。

 

 

古い建物への愛情の注ぎ方

池田:最初にアリがでたとき、引っ越そうとも思ったんです。でも古い家だし、僕らいなくなったら、大家さんここ見放して取り壊しちゃうだろうから。それじゃおもしろくない。そこに自分が住んで、自分の力でやっていけるんだったら、住んじゃえばいいじゃん、って思って。
伊東:いいこと言ったねえ
池田:だってそうだったじゃん
伊東:言い方しだいだけどね

普通に、「古民家の再生」「琉球建築の保護」みたいな話だったら、たぶんもっとうまいやり方はいくらでもあると思う。でもそういう話とは別に、こういうやりかたも、古い建物への愛情の注ぎ方のひとつだと思うのだ。どうせいつか取り壊されるなら、最後にこんなエネルギーあふれる使い方をされて、(ありきたりな言い方ではあるけど)家も幸せなんじゃないだろうか。

あ、いま「最後に」なんて書いたけど、それが遠い未来のはなしであることを、今の空間がずっと続くことを祈っています。また遊びに行かせてくださいね。

 

工事は「剛鉄荘プロジェクト」という、彼らの住み開き活動の最初の一手です。
本腰のイベント活動にはまだまだこれから着手していきます、とのことです。

剛鉄荘
https://gts.hp2.jp/



 
 

 

 
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