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ロマンの木曜日
 
大物監督にコケる芸を習う

うそ、二人とも死んでない

圧がすごい

予想に反して、前面の北野監督からはやさしい雰囲気が醸し出されていた。こちらの話もふむふむ、と聞いてくれる。

だが後方に控えるちゃんとした人たち。マネージャー、宣伝の方、なんだかわからないがえらい人、その他10人くらいいる。

圧が!背中の圧がすごい!人一倍、圧に敏感な私は、「へんなこと聞くなよ…」後方からの無言のプレッシャーを感じていた。

そしてその圧をすべてマイナスに受け止めてしまったダメな私の質問。その速度、その内容、まるで愚鈍な牛のようではないか!


不自然な階段とマイクスタンドの横でインタビュー
この後めちゃくちゃ痛い (c)2010『アウトレイジ』製作委員会
ちなみに林さんの胸のバッチは、ホテルの搬入口から入る用の業者バッチ。段差を運んだため業者扱い。

一連の絵として考える

―予告編(※公式サイト上の)で出てくる最後のシーンがめちゃくちゃかっこよくて感動したんですが、ああいうものって先にこういう画を撮る!って決めてるんですか?

あそこはあれ一連の絵だと思ってるからね。そのためにはまずゴーンといかなきゃいけない(※ここでのバイオレンス描写)みたいなとこがあって。

シーンいくつ、って台本には書いてあるけどそういうシーンは全部まとめて一つなんで、ちゃんとそういうとこロケハンして、ここではこう撮らなきゃって、先にあんだよね。あのシーンはおれも好きなシーンなんだけどね。

俯瞰で遠くに風力発電のぐるぐる回ってるのは、ああ、なかなかいい、と思って、じゃあクレーンをもっと上げよう、ってなって。だからあそこで、一連のものは大体あるんだよ。絵的にはあれいい絵だなあと思うね。

―黒塗りの車が特にカッコよかったんですが、タイトルのシーンも強烈でした

黒塗りの車ガンガン行かせて、一台だけ遅れてきて、ハイスピード使って屋根撮ったときに『アウトレイジ』って入る。文字がぴったり屋根に入るかどうかは、事前に問題になったんだけどね。だから赤と黒にしといて、ってのはまあ一応それ用に作ったね。

(映画の)頭はかなりカメラマンも気を遣って撮ったけどね。ピンぼけさせて、横移動もさせたりなんかして、あそこはバリエーションもあるんだよ。

暴力映画なんて屁みたいなもんだよ

―ヤクザ映画ってカッコイイ!と思ってしまったんですが、同時に、あ、不謹慎かも、と思ってもしまうんです。今そんなヤクザ映画離れした世代にバイオレンスをぶつける不安はありましたか?

まあ「今度の暴力映画で社会に対する影響は?悪影響があると考えませんか?」って海外でもよく聞かれるんだけどね。

よく答えるのは「逆に言うと、愛と感動の映画が社会に対してどれだけいいことしたんだ」って。暴力映画よりも圧倒的に数が多いのに、相変わらずベトナム以来、アフガンもなにもイラクもなにも、あんなめちゃくちゃなことが起きてんのに、映画の影響がどこにあるんだよ、って。

だから暴力映画なんて屁みたいなもんだよ、って言ったらみんな納得してたみたいだけど。映画にそれほど期待してちゃいかんよ、って。


これだけ聞いておいて上の空!

上記の質問は、いいように切り詰めていて、実際はこの3倍くらいまわりくどい聞き方をしている。

「ヤクザ映画でかっこいいって不謹慎だなと思っちゃうんですよ…」なんて言った瞬間に背中から感じる大人たちの圧、圧、圧!

私はこの瞬間から原稿を書く今にいたるまで、まだ独り言が止まっていない。


もうこのままじゃいかん、ズッコケ芸を見てください!と切り出した

そして私は段差に向かい、一歩、また一歩、ふつうに段差を上がったのだった(※ここ写真撮り忘れによりイメージショット)

いかん、もう行く!

このペースでいってたら無理だ、質問はもう切り上げて、「『監督・ばんざい!』で見た江守徹のズッコケ芸がおもしろかったんですが、練習してきたんで見てもらえないでしょうか…?」と切り出した。

なんだろなーこの質問、の後に、ズッコケ芸見ろ、のインタビュアーである。北野監督はああ、あれね、と照れくさそうに笑っていたが、もう会場の圧といったら、もう、である。

だが北野監督は笑いながら、いいよ、と。来た、第一段階は達成できたのだ。やるのか、あ、おれがやるのか!

うわー、こんなに圧の高まった部屋ってないなー、と思った瞬間に、逆にこれでコケなかったらおもしろいかなと思ってしまった。

そして私はそのまま段差を上がりきった。

 


ちなみに写真を撮り忘れていた安藤カメラマンはこちら「動画ばっかり撮ってたよ、ハハハ〜」私たちは3/3人とも緊張、緊張パーフェクト達成だった。

けつまづくズッコケ芸敢行。この空気でそりゃウケはしない。

ほぐれてきた…これはいけるかも!

すいません、緊張で素通りしてしまいました…と言ったら、ハハと監督も笑ってくれて、ああ、何かやっと居心地がよくなってきた。

少し緊張のほぐれた二回目。練習したズッコケを披露したら「…ま、基本的にはそうだよね。」と認めてもらえた。よ、よかった。まだものすごい重たい空気ですが、とりあえずはよかった。教えてもらった、とかろうじて言える範囲だ。

「もう一つ踏み外すパターンがあると思うんですが…」と林さんが切り出す。そうだ、畳み掛けよう。林さんもズッコケたら乗ってくれるかもしれない。


踏み外すパターンをする林
どうだ…

いよいよか

ヒャッヒャッ、と北野監督の笑い声が響く。今日一番高い笑い声だった。そしてつづけざま「その前にね、こういく前にね…」

動いた、ついに山が動いた!


来た!

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