一体なんの素材になるのかという疑問
シンプルな写真での直球勝負で傷ついたあとは、もう少し動きのあるポーズをまねることで、ごまかしごまかしそれっぽ さを出したい。おっさんゆえに、失敗を次に生かす姿勢は柔軟なのだ。
次のまねるのはこの写真。言われてみれば中学生くらいまでは、ときどきなんとなくパンチを繰り出していた記憶がある。無意味にパンチをしなくなって、もうどれくらい経つだろう。
思い出されるのは、部屋で一人意味なくパンチ出してたあの頃。気持ちを遠い昔にもっていって、自分たちもやってみよう。
被写体そのものを除いて考えれば、先ほどのものと比べ、これはかなり元写真に近づけたと思う。2人の勝負としては互角というところか。
ただ、自分でも「被写体そのものを除いて考える」というのは相当難しい。だってこんなにでっかく写ってるんだ、それは無理があるだろう。
そして、中学生くらいまでの男子のパンチにはかわいげがあるが、おっさんになるとただただ訳のわからない感じになるということが判明。それ を明らかにしたという点に、この写真の価値を見いだすしかない。
比較的シンプルながらも、ポージングに女の子っぽさがにじみ出ている一枚。挑戦することの意味はわからなくても、そこにチャレンジングなことがあるならば、人は立ち向かいたくなるものなのだ。
この写真では櫻田さんのチャーミングな感じが光る。じっくり元写真と比べるとよくわかるが、雰囲気が妙によく出ている。隣にダメムード漂う私の写真がある こともあって、さらに櫻田さんの愛らしさが引き立つ。
かませ犬としての私。いいだろう、それで櫻田さんの輝きが増すならば、私は喜んで影になろう。
闘犬のかませ犬というのは、引退した老犬がしばしばその役目として使われるらしい。いや、ちょっと待て、まだ引退はしたくない。続いてはこれだ。
素材集にあった写真の中でも、意味のわからなさではトップクラスだったこの一枚。これまでの私の人生において、こんなシーンは記憶にない。
みんなこんなおどけたことして楽しんでるのか。ならば今からでもなりきって、そこにある楽しさを手に入れよう。青春の素晴らしさは、いつでも取り戻すことができるところにもある。まずは櫻田さんにモデルになってもらい撮影だ。
さすがにふたりぼっちで今回の撮影をしているのは社会的にも心配なので、ダブルワイフにも同行を依頼。妻が撮った撮影風景の写真を見て改めて思う。俺たち何やってんだ。
それでもモデルに対するディレクションは真剣そのもの。ポーズや表情に対する指示の語気がつい強くなる。
櫻田さんと私と、それぞれがモデルになった写真を並べてみる。よし、これは初めて私が勝ったと言えるんじゃないか。
写真そのものに意味はなくても、ライバルに打ち勝つということに意味がある。何が勝ち負けの基準なのかは自分でもうまく説明できないが、これまで水をあけられていたのを、やっと拮抗するところまでもっていけた気がする。
次、リンゴかじります。
また負けた。完敗だ。結構なそっくり感が出ている櫻田さんの写真。それに対して私の写真のふがいなさは何だ。
とは言え、これにはわけがある。櫻田さんの写真を撮っているのは私であって、何度も元写真を確認しながら撮っているわけだ。それに対して、私の写真の撮影者は妻。画像を確認して「なんか違うな…」と思いつつも、すでに疲れてきている妻に撮り直しを要求することができなかったのだ。
カメラを確認すると、たまに関係のない花の写真とかが混じっている。妻に聞くと、「たまにはきれいなものも撮りたい」とのこと。
被写体としての勝負には負けたが、櫻田さんの魅力を引き出せたことはうれしい。写真というのは被写体とフォトグラファーとのコラボレーションなのである。
小道具系の二つ目として選んだペットボトル編でも、また私の負けだ。どういうわけなのか、櫻田さんはお手本の被写体の雰囲気になりきるのがうまい。表情まで結構再現できている。
櫻田さんの写真を撮っているのは私なのだが、そばで様子を見ている奥様からも指示が入る。「もうちょっと右」「もっと笑って」などの言葉で、写真の完成度が高まっていくのだ。
それに対して私のはどうだろう。涼しげなシチュエーションの写真であるはずなのに、受け取られる印象は真逆。目をがっちりとつぶりすぎていたり、口が開きすぎていたりするところに、うざったさのポイントがあるのだと思う。
こちらのスッキリポーズ勝負では再現度そのものはいい勝負か。にじみ出ているものの微妙な差異で、人それぞれ感じ取れるものが違う面白さも味わっていただきたい。
いろいろなポーズを取って楽しく撮影していると、施設の人らしき方から声がかかった。
男二人で今回の撮影をしていたらメンタル面の緊迫感も高くなるのだが、今回は男女四人での集団行動。周囲から見たときの怪しさを軽減するのにとても役立つ。
私たちの様子に関心をもった施設の方の質問に対応してくださったのは櫻田さんの奥様。説明しづらいことをお願いする形になって、モデル二人の恐縮 度はますます高まる。