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ひらめきの月曜日
 
蕎麦屋のひっそりメニュー「天ぬき」を食べる


 

蕎麦を食べようと蕎麦屋に入ってメニューを眺める。食べたいのは蕎麦なのであくまで蕎麦を注文するのたが、心の中で気になるのは、実は蕎麦以外のメニューの方だ。

焼海苔や板わさといったラインナップは、基本的には酒の肴にするためのものなのだろう。個人的にお酒を飲まないので、妙にああいうメニューが気になるのだ。

ある日入った店のメニューのお通し欄に、見かけないメニューを見かけた。「天ぬき」とある。

こんなの見たことあったかな?というメニュー。果たしてそれはなんなのか。実際に食べてみました。

小野 法師丸



字面から考えてもイメージが浮かびにくい「天ぬき」

その日入ったその店は、構えからしてしゃれた感じの漂う雰囲気。店内の照明もかなり暗めにされていて、街のおそば屋さんというよりは、大人っぽいムードを味わえる店だ。


埼玉県草加市の「ふか川」
実際の雰囲気は写真よりも暗めです

注文を決めようとメニューを開く。まずは普通にもりそばを頼もう。それだけでいいかなと思いつつメニューをめくると、出てきたのは「お通し」とあるページ。

板わさ、なめこおろしあたりはわかる。天種っていうのはかきあげみたいなやつだったか。その隣にあったのが気になった。


一番左に「天ぬき」
お値段は900円

「天ぬき」である。これはなんだろう。

「天」はたぶん、天ぷらの「天」だと思う。これは予想がつく。ただ、そこに「ぬき」と続くからよくわからない。仮に、「天ぷらの入った蕎麦から天ぷらを抜いたもの」だとしたら、それはただのかけそばではないか。

名前にも謎が漂うこのメニュー。実際に食べてみよう。店主に「もりそばと、天ぬきで」と告げると、「もりそばと、……天ぬきの方で」と確認してきた。その言い方のニュアンスに、「へえ、天ぬき頼むんだ」というような感じが受け取れた。

厨房から油がジュッという音が聞こえてくる。しばらくしてやってきたのたがこれだ。


「天ぬき」の正体

これが「天ぬき」。かき揚げが蕎麦つゆに浸っているもののように見えるだろう。それで正解だ。「天ぬき」を言葉で説明すると、そういうことになる。

調べてみたところ、「天ぬき」とは「天ぷらそばのそばぬき」であって、それが略されて「天ぬき」となったものだそうだ。

説明の最初と最後を取って「天ぬき」。言われてみればわかるが、知らずに字面を見てもなかなかそうは予想できない食べ物だと思う。


中身はエビがゴロゴロ
飾り切りしたかまぼこも蕎麦屋っぽい

ウィキペディアにもしっかりと項目があった。このメニューの発生の由来は、「酒のつまみに天ぷらそばを食べると麺が伸びてしまって店主に失礼だから」というものの他、いくつか謂れがあるようだ(参考)。

食べてみる。カリカリの衣にそばつゆが浸ったあのうまさは、天ぷらそばでもおなじみのもの。そこにそばがない分、天ぷらとそばつゆのハーモニーだけを純粋に味わえる。


これは大人の食べ物だ

エビが6つも出てきて満足。もりそばを口にしたあとに、油のしみ出した天ぬきのつゆをすすってもうまい。蕎麦については全くの素人だが、こうした通っぽいメニューを食べてなんとなく背伸びしたような気持ちになった。

違うタイプの「天ぬき」も食べたい

個人的には初耳だった「天ぬき」。でも、ウィキペディアにも項目があるくらいだからみんな知ってるものなのか。試しに編集部のメンバーや知人、あわせて10人ほどに聞いてみたが、知っていた人はゼロ。サンプルとして偏りはあるだろうが、あまり知られていないメニューなのかもしれない。

他の店ではどんな天ぬきを出しているのだろうか。やってきたのは浅草。


仲見世はスルーして蕎麦屋探索

ここならいくつも老舗の蕎麦屋があるだろう。先ほどのかきあげタイプとは違う種類の天ぬきはないか探してみよう。


雷門近くの「尾張屋」
天ぷらがでかい!

目に付いたのは雷門近くにあった店。ガラスの向こうにメニューのサンプルが並んであるのだが、天丼や天ぷらそばといった天ぷら系メニューのエビ天がずいぶん大きいのだ。

これは迫力がある。しかし、ショーケースの中に天ぬきは見当たらない。それはそうだろう、サンプルを置くのはあくまで主力メニューであって、サイドメニューは店内のおしながきでしか確認できないのが普通だ。

でも、この天ぷらで天ぬきが出てきたらうれしい。挑戦してみようではないか。


むむむ…

店内でメニューを開く。そば類のところはとりあえずスルーして、「お酒のおさかな」のページに目を凝らす。天ぬきの文字がない。

どうしよう、今さら店を出るわけにもいかないし…。しかし調べたところによると、メニューに天ぬきを載せていなくても、注文すれば提供するという店も中にはあるらしい。

それに賭けてみよう。店員に「もりそばと、…天ぬきってありますか?」と注文。「はい、もりそばと天ぬきですね」と、あっさりオーダーが通った。珍しそうな風も見せないのは老舗だからか。


期待を裏切らない天ぬき

そしてやってきたのは、店頭のサンプルで感じた期待を裏切ることのない天ぬきだ。大きなエビ天が、ドン、ドンと2本。ドボンとそばつゆに飛び込んでいる。

あったかいつゆがしみ込みすぎないうちに食べる。約束されたうまさがそこにある。

実際、蕎麦屋に入って冷たいそばにしようか温かいそばにしようか迷う時があると思う。そうした場合の解決策として「もりそば+天ぬき」のコンビはあり得るのではないか。

大きなエビに満足。ただ、ひとつ気になることがある。メニューに載っていなかったこともあって、値段がわからないのだ。その答えは、伏せておいてある伝票にあった。


ボールペンで「ぬき」の表記が
レシートに天ぬきの文字はなし

「天ぷらそば」とある部分の「ぷらそば」の上に「ぬき」と書かれている。そしてその横には「1300」。つまり1300円ということだろう。老舗、観光地、でかいエビ2本。そういうものだろう、という値段と言えるか。

レジでお金を払ったあと、受け取ったレシートを確認すると「天ぷらそば \1300」との印字が。メニューにないだけあって、レジでの登録的には天ぷらそば扱いなのか。

ということは、天ぷらそばも1300円なのか?と思って、店頭のサンプルを確認。


正直、ちょっとショック受けました

間違いない。天ぬきと同じく大きなエビ天が2本乗った天ぷらそばが1300円ではないか。

さすがにこれには微妙な気持ちになる。蕎麦の分を損したような……などと考えるのは無粋なことだろう。天ぬきとは、蕎麦屋に行く人の中でも通人が注文するものとも言われているらしい。「こういうことなら麺があった方がよかった…」と、くよくよしてはならないのだ。

 

リーズナブルな天ぬきの創造を求めて

天ぬき付きだったとは言え、空腹時にそば一枚では少々もの足らない。もっと食べたいのだが、これまで食べてきた天ぬきは、懐にやさしいとは言えない値段のもの。

もう少し手軽に天ぬきを食べられないだろうか。そう考えてやってきたのは、先の店から程ないところにある違ったタイプの店。


さっきの店から数百メートルの「せんねんそば」
こういうスタイルの店です

手頃な価格でそばやカレーを食べられる、椅子こそあれど立ち食い系と言ってよいタイプの店。注文するのも食券式だ。

店頭にはたくさんのメニューの写真が並べてあってわかりやすい。しかし、こうしたスタイルの店に天ぬきがあるべくもないというのは予想通りのこと。そこをなんとかできないか。


この組み合わせにアレンジを加えて

購入したのはもりそばと海老かき揚げの食券。

この組み合わせで、店の人に渡すときに「もりそばのつゆを温かいかけつゆに替えてもらえないか」と頼んでみる作戦だ。出てきたかけつゆにかき揚げを投入し、セルフ天ぬき化するという算段というわけだ。


慣れ親しんだ雰囲気の店内
オーダー通りました

店内がそれほど混んでいなかったこともあり、作戦を依頼。あっさりとオーケーしてくれた上に、ものを出してくれたときには「つゆが足りなくなったら言ってくださいね」とも言ってくれた。

これであったかいつゆとかき揚げを手に入れた。あとは自らの手で天ぬき化すればよい。


自力天ぬき、ここに完成

250円のもりそばと、160円のかき揚げを組み合わせて「天ぬき+冷たいそば」というコンボが完成。合計410円というお手ごろ価格だ。

それでもエビは三つ入っていて、価格を考えれば十分に満足できるもの。温かいつゆに浸ったかき揚げと、冷たいそばを交互に口にするという食べ方もおいしい。今後注文するときに、定番的にありにしてもいいかと思うくらいだった。

あると思います

二軒目天ぬきのかまぼこ

個人的には謎のヴェールに包まれていた「天ぬき」。実際に食べてみることで、蕎麦屋っぽい文化に少しだけ触れられたような気もする。

おいしさとともに心に残るのは、天そばも天ぬきも1300円だったときのショック。今後は、冷静に空気を読んで注文していきたいと思う。


 
 

 

 
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