覆水盆に返らず
「取り返しのつかないこと」を言い表すことわざとして、「覆水盆に返らず」というのがある。
仕事もせずに暮らしていて妻から離縁されてしまった太公望が、後に出世し、妻から復縁を迫られた。そのときに、彼は器から水をこぼして「水を戻してみろ。できないだろ。そういうことだ」と言った故事から生まれた言葉らしい(参照)。ひどい。
ニュアンスとしては、「ダメになったらもう戻らないんだ、がっかり」という感じだろうか。まさに「取り返しの付かないこと」である。やってみよう。
コップ一杯の水をテーブルにこぼしてみた。これが今回のファースト取り返しつかないことだ。
水がこぼれた。それ以外に表現しようがない単純な現象を目の前にして、なんと思えばいいのか僕はよくわからない。
が、落ち着いて考えてみれば、これは取り返しのつかないことではない。取り返しがつくような気がする。水を拭きとって戻したら、どうだろう。
何が水を濁らせたのかわからないが、約半分くらいの水がもとの器に戻った。覆水盆に返った!
…返ったらダメなのである。太公望がこぼした水は地面に染み込んだのだろうか。とは言え、水ならまた汲んでくればいい。取り返しのつかないことをしようとしたものの、やはり取り返しのつかないことになってない。
服にコーヒーをこぼす
ただ水をこぼすだけ。それは取り返しの付かないことにはならなかった。もっと取り返しが付かないことでなければ、あのカタルシスは得られない。
ではコーヒーを服にこぼすというのはどうだろうか。これはそう簡単に取り返しはつかないだろう。
高校生の時から着ている気がする年季の入ったTシャツだ。これが汚れてしまうのは大変惜しい。とか言いつつ、コーヒーが口の横からこぼす。
急いで洗わないと!
洗わずにそのまま乾かしてみた。普段はしないようなことをしている。すごく臭い。この日はすごく暑い日だったのだが、汗をかくと、もわっとコーヒーの匂いがしてくる。
外に出ても匂いは収まらない。外でこれって相当だぞ。
相当なことをしてみたが、どうもそれはイコール「取り返しの付かないこと」ではないらしいのだ。あーあ。臭いし気持ち悪いし……単なるがっかりだ。
これでは「取り返しの付かないこと」からは遠いところで何かわからないことをしているだけだ。単なる奇行だ。というわけで外に出て別のパターンの「取り返しつかないこと」にチャレンジしてみたい。