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フェティッシュの火曜日
 
渋谷ど真ん中にある銃砲店


銃を(それなりに)身近に感じれるお話です。

比較的安全な日本において、あまり「銃」を意識して生活することはない。警察官が持ってるといっても手にしてる所はまず見ないし、せいぜい一番身近で映画やゲームくらいだ。持ってもエアガン。とにかく実銃に触れる機会はまずない。

それだけに、前々から気になってるお店があった。渋谷のど真ん中にある「渋谷銃砲火薬店」。エアガンじゃない、本物の銃を扱うお店。どんな歴史があり、どんなお客さんが来るのか?普段聞けない、知ることのない銃の話をいろいろ尋ねてきました。

大坪ケムタ



渋谷のど真ん中すぎるど真ん中

百貨店やファッションビルが立ち並ぶ街、渋谷。週末なんか来ると東京の他の主要地区・新宿や池袋に比べても圧倒的に平均年齢は若い。そんな街のこんな場所にホンモノの銃を売ってる店がある。


いわゆる渋谷駅前のスクランブル交差点。


上の写真をそのまま真っ直ぐ正面に行けばタワーレコード。
ちょいと斜め左に上がっていけばパルコ。


そのタワレコとパルコを繋ぐ道の一角に…。


渋谷銃砲火薬店はあります。ひっそりしてるけど文字がインパクトあります。



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周辺はパルコ・マルイ・西武…とまさに渋谷ど真ん中。


周辺は洋服やらスニーカーやらのお店がゴロゴロ。その中では地味な店構えだけども、頭上に書かれた文字は「銃砲」そして「火薬」!気にならない方がおかしいでしょ。ということでこちらの二代目店主・佐藤三弘さんにお話をうかがってきました。

 

そう簡単に撃たせません&開業させません

現在日本において実際の銃を使う機会というと、オリンピックなどでも行われてるクレー射撃などのスポーツ、それと鳥や動物を狩る狩猟のふたつ。こちら渋谷銃砲火薬店さんはどちらかというと狩猟目的のお客さんが多いとのこと。

銃のお店ということで、勝手に脳内に「店長=『グラントリノ』のクリント・イーストウッド」的なイメージがあったんですが、佐藤さんはさすが100人以上の猟友会を束ねているだけに物腰柔らかい店長さんでした。


店内は雑然としつつも風格があります。


当然ですが全部本物の銃ですよ。
丁寧に教えていただいた佐藤さん。

−−2代目ということはこちらのお店はけっこう長いんですか?

「今年で48年ですね。一番多い時期は渋谷だけでも3軒あったんですよ。昭和40年頃、そのうちの1軒で乱射事件なんかも起きたりしてね。今『渋谷 銃砲』でネット検索してもその事件が出るんだけど、警察の人でさえウチの事件と思っちゃってたりするから心外なんだけど(笑)」

−−今は都内だと何件くらい銃砲店ってあるんですか?

「こういう形で店をやってるのは40軒くらいかな」

−−すごい初歩的な質問させてほしいんですけど、今日本で一般の人が実際の銃を持つ場合はどういう用途で持ってるんですか?

「日本の場合だと狩猟か標的射撃かどっちかしかないです。あと狩猟の中に含まれるのに有害鳥獣駆除とか。ごくまれに『世の中物騒だから持ちたい』って人がいるけど、そういう人は持てないですよ(笑)」

−−そういう人の方が物騒ですね(笑)。

「大昔の話だと空気銃や散弾銃もデパートで売ってたりしたらしいですけどね。今は所持許可も厳しいので」

−−「銃を持つための許可」って何が必要なんですか?

「まずは銃の免許ですね。毎月一回ペーパーテストやってまして、それに受かったら本人の身辺調査が行われるんですよ。表だってはやらないですけど、前科とか調べられるわけです。傷害事件や薬物中毒の前歴があるとまず取れないですね」

−−扱うモノがモノですからねー。

「それが通ると実際の教習で、射撃の仕方とか安全な取り扱いとかを学ぶわけです。その後、ここが車の免許なんかと違うんですけど、まず最初の一丁を必ず買わなきゃいけないんです。自分用の特定の一丁を持たないとダメ。ペーパードライバーみたいなわけにはいかないんですよ」

−−へー!自分の銃しか撃っちゃダメなんですね。

「そう。ライセンス出てるからって他人の銃を使っちゃダメなんです」


こちらがライセンス。中には所持銃の詳細も。

佐藤さんのライセンスの中を見せてもらうと、佐藤さんの個人データ+所持銃の詳細が。さらに射程距離の長いライフルは10年以上の散弾銃所有歴がないと持てないとか、銃自体の規制でいえば口径の大きさや弾倉の制限など、日本の規制や取得条件はアメリカに比べるとかなり厳しいそう。


散弾銃は打つと小さな弾が出るもの。射程が短い。(写真は模擬弾)
ライフルは皆イメージするこういう弾。射程が長い。


いただいた所持許可への初心者パンフ。
銃だけどイラストはファニー。


さらに狩猟をするとなると、東京都で狩猟したければ東京の、埼玉なら埼玉の…と各都道府県ごとの狩猟許可が必要になる。こちらのお店のお客さんだと静岡が多いのだとか。ちなみに東京都内で狩猟って出来るんですか?と聞いてみると「極端にいえば東村山とか奥多摩にいけばできますよ。でもうちのお客さんだと東京の登録はひとりいるかいないかですね」とのこと。

うーむ、映画やゲームで得たレベルの銃知識とはぜんぜん違うもんだなあ、当たり前とはいえ。とにかくそう簡単に持てないのがよくわかる。このくらい厳しいおかげで銃の事件なんかが少ないのだろうけども。


−−あとこういう銃砲店って開店するのってやっぱり大変なんですか?免許とか。

「そうですねー。条件が多いんですよ。10年くらい前に北海道で始める業者さんの開店の手伝いしたんですけど、2年くらいかかりましたね」

−−オープンまで2年!

「火薬関係の免許はもちろん、設備がいろいろ必要なんですよ。たとえばこういった店とは別に『火薬庫』を持ってなくちゃいけない。うちだと埼玉の山奥にあるんですけど」

−−全部ここにあるわけじゃないんですね。

「そしてこの店の奥に『庫外貯蔵庫』っていう金庫があるんですけど、そこに売る分を補充すると。それも量が決まってるんです。弾なら何発、火薬なら何キロとか」

−−それも在庫を多く置きすぎないように決まってると。

「あとはシャッターとか警報機とかももちろん条件に入ってます。それで年1回警察とお役所の両方で検査もありますし。それだけ手間かかるし、やる人口も増えてるわけじゃないからお店はそんな増えてる感じじゃないですよ(笑)」


閉店中は表プラス銃のウインドーにもシャッターが。

−−あとこんな街中だと、銃を狙った事件なんかもあるんじゃないかと心配しちゃうんですけど。

「今はないですね。それこそ僕が小さいころ、学生運動とか思想的な動きが強い頃はちょっと心配もありましたけど。デモ隊がこの前の道を通る、って聞くと先代の社長が泊まり込んだりね」

−−そういう時代ならたしかに心配ですね…。

「現在は警備会社が夜間巡回して、警報機も2種取り付けてあります。あとそれに素人の人が来ても、この銃にどの弾を使うとかわからないですよね」

−−あ〜、弾も種類ありますからね。

「それに日本は銃と弾を一緒に置かないように決められてるんです。アメリカの銃砲店だとワゴンセールみたいに店先に弾が積んでたりするんだけど(笑)」

−−悪党が狙うのにしても銃砲店を狙うのはリスクが高いと。

「たまに空き巣が個人宅から銃盗んだとかありますけど、最終的に処分に困って川に捨てた、とかが多いらしいです」


なるほどなー。「警察官が銃奪われる」なんて事件もたまにあったりするし、こんな街のど真ん中にあると物騒なことも…と思っていたけど、たしかに現実的に考えるとハードルが高い。低くてもやっちゃダメですが。

 

変わる射撃人口、料理目的も!

しかしゲームや映画の世界では幾度も見ても、周りに実際銃持ってる人はいない。実際のところ、射撃人口というのは増えているのか減っているのか?


−−−狩猟や射撃を趣味にする方ってのは増えてるんですか?

「やっぱり今は高齢化が進んでまして、20代から始めるってのはまれですよね。ある程度経済的に余裕がないと。でも思われてるよりは値段は高くないと思うんです。たとえば銃一丁、クレー射撃用なら30万とか。下は7、8万とかもあるけど初心者にはあんまり勧めないですね」

−−まぁ安くはないですけど、ゴルフでクラブ揃えちゃうのとあんまり変わらない感じですかね。

「クレー射撃なら、射撃用の弾が一発40円、お皿が40数円。1ラウンドやるのに2500円くらいですね」

−−そう聞くとゴルフの打ちっ放しみたいですね。

「あとゴルフに近いのは郊外にいかないと出来ない。都内に作ろうって案もあるんですけど、このご時世ではね…」


値札もついてます。上は数千万クラスも扱ったことあるとか。

−−−クレー射撃がスポーツなのはわかるんですけど、狩猟もある意味スポーツ感覚なんですかね?

「今は生業でやる方はいらっしゃらないけど、うちのお客さんは少なくとも取ったもの食べてますね」

−−えー!じゃあある意味釣りに近いんですかね。

「やる方の意識も昔に比べてずいぶん変わって、一昔前だと剥製にしたいとか自己顕示欲の部分が大きかったりしたんだけど、今は食べる人が多いです。あと、うちの場合は土地柄のせいか、お客さんにシェフさんが多いんで」

−−あ〜、なるほど!

「ミシュランに載ってるようなシェフさんもいらっしゃいますよ。たとえば鹿肉とか、北海道から流通もしてるんだけど処理が甘いから自分で最初からやりたいって。フランス料理には文化的に『ジビエ』って狩猟の獲物を使った料理もありますしね」


あまり流行らない剥製。かわいいけどねえ。
こうした狩猟雑誌も。中には女性の銃免許チャレンジ記事が。

なるほど…。料理、もしくは本格的アウトドアの流れという見方も狩猟にはある。そのために越えるハードルは高いけれど、その価値を認めた人だけが踏み込める文化のセカイ、ということか。

−−やっぱり佐藤さんとしてはもっと一般的に広まってほしい、というのはあります?

「広がってほしい…っていうのはあるけど、バランスが難しいよね。簡単に持たれても、っていうのもあるし」

−−その辺の居酒屋で銃持ってウロつかれても困りますしね。

「射撃や狩猟をしたあとは・・・法律では。食事するならまだしも、飲みに行くなんて論外だよ!(苦笑い)」


佐藤さんによると、銃に関する規制は年々厳しくなっているそう。その分安全の確率が増えるということはいいことかもしれないけども…正しく扱った上でその楽しみを満喫してる人が縛られているというのは不憫だ。何の法律でも。無駄に法律厳しくするんじゃなく、免許の段階でマナーを意識出来る人をきっちり選別して楽しめればよいよね。

ちなみにこういうのも見せてもらいました。


狩った動物の体内から出た弾(スラッグ弾)。

発射前はもっと弾らしい形してるんですが、当たって獲物の体内に入るとこんな形に。こんなん撃たれちゃうのか…。そう思うと尻の周りがヒー!となるなあ。自分は海外の射撃場でお金払って撃つくらいがちょうどいいかな…。手軽ではないけど、銃という文化、銃によって知れる文化に興味ある人の参考になれば何よりです!

これなら安全。ロゴがグッと来る!

グッズなら手軽に着れます

ちなみに「銃使えない人でも買える品ないですか?」と聞いたら、ベレッタ(銃メーカー)のTシャツやグッズ類を紹介していただきました。今年で代理店が変わるそうで、最後のモデルになるかもしれずレアかも、とのこと。ロゴ好き&銃の世界を手軽に味わいたい人はぜひ!


取材協力:渋谷銃砲火薬店

東京都渋谷区神南1-20-15
TEL 03-3461-5576


 
 

 

 
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