文香というものをご存知だろうか。 人の名前ではなく「ふみこう」と読み、手紙に添えて使うもので文章と共に香りを伝えるためのお香の一種だ。
実際に見て、香り、感じ、作り、使って、とても良いものだと知ったのでご紹介したい。
(尾張 由晃)
手紙に香りを添えるなんて考えたこともなかった
手紙は書いたことを伝えるもの、香りは自分が感じるものだと思っていた。だが、文香の用途を知った時にハッとした。読むときの香りにまで気が配られたその手紙、想いが込められた手紙。
それはもう伝えるものではなく贈るものではないだろうか。 送るものを贈るものに変える文香。一体どんなものなのか。
そんな文香を知るために京都御所の程近く、閑静な住宅街にある老舗の香木店を訪れた。こちらの山田松香木店さんは香木やお香、そして文香を製造、販売しているお店だ。
老舗というので古い木造建築を想像していたがとても綺麗で明るく見やすい店内。そしてお香なのか、木のような香りがふわーっとして取材前の緊張がほーっとほぐれた。
想像以上にかわいらしい
香木店というお店。物凄く簡単に言うと良い匂いのする木やお香のお店だ。初めて見る物ばかりで色々なものが気になるがやはり文香が気になった。
これが文香。4*2センチくらいの小さな包み紙。香りの元がティーバッグようなものにがつめられ和紙で包んである。季節に合わせて四パターンの絵柄で夏は京都の風物詩、祇園祭や大文字焼き。
こちらは和紙で挟んで糊で留めたタイプ。香りだけのためと思っていたので可愛らしい絵が書かれているとは思わなかった。他にも色々な絵柄があって香りだけでなく見た目にも楽しい。
実際に封筒に入れてみて、手紙を受け取った時を想像する。手紙を送ってくれたことに喜び、開くと良い香り。そして出てくる可愛い何か。これ、嬉しいわ。
あんまり、匂いしない?
あー、良いな文香!と、喜んで触っていたがそんなに香りを感じない。ありゃ、と鼻に近づけ嗅いでみるとほのかに木や甘いお香の香りがする。
あぁ、このくらいのものなのか。するかしないか位が粋な感じなのかなと思っていたらお店の方が「文香は名刺入れに入れておいても良いですよ。実は私も入れてるんですよ」と教えてくれた。
へぇ、と思い名刺の香りを嗅がせてもらって驚いた。文香を直接嗅ぐよりも香りが広がる感じがする。香りが移った部分の面積が大きいからなのか、理由は分からないが不思議な感じだ。
プライベートな手紙でも、仕事で使う名刺でも相手を気遣う文香の香り。今僕はこの香りをかぐと貰った場面を鮮明に思い出す。香りは記憶と結びつく。ビジネスシーンでも有効だ。
昔の人の香りへのこだわり凄い
聞くほどに文香は奥が深い。防虫効果もあり、衣類と一緒に入れておくと虫に食われず香りを移すという使い方も出来る。
起源は平安時代と言われていて、手紙に梅の花などを添えて送っていたのが始まりと言われる。そこからお香を手紙に焚き染めて送るようになり、今は文香という形で残っているそうだ。
梅の花を送ってまで香りを伝える。昔の人の香りに対するこだわりは驚く。今では声や写真、音楽や動画まで送れるが香りだけは平安時代を超えられていない。
この文香、実際に作ることが出来るそうなので作らせて頂いた。