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はっけんの水曜日
 
1000万円のマイクで立体録音を体験した


僕が普段使っている自作のバイノーラルマイクとICレコーダ。ICレコーダは、リニアPCM(無圧縮)で録音できるのが必須条件。

もう3年以上前になるが、「168円で立体的に録音する」という記事を書いた。バイノーラル録音という録音方式で、後ろや上などから立体的に聞える音を録ってみようという内容だ。

記事を公開してから3年。先日、あるオーディオ関係の会社から「高価なバイノーラルマイクを持っていますので見に来ませんか?」というお誘いを受けた。なんでも1000万円はするものだという。僕が作ったバイノーラルマイクは材料費168円。およそ6万倍だ。

是非見に行きたいし、ちょうど良い具合に関西に出かけるので見せて貰おう、という事で大阪に行って来ました。

松本 圭司



耳の位置で録音して、耳の位置で再生すればその場の音をそのまま再現できるよね、という方式です。画像は使い回しですみません。

まず、バイノーラル録音とはなにか?から

前述の「168円で〜」にも書いたが、バイノーラル録音とは、「耳の位置にマイクを付けて録音した音をヘッドフォンで聞くと、音が立体的に再現される」録音方式だ。

そうやって録った音を実際に聞いてみると、例えば山なら山にいるかのような音の広がりや臨場感を感じられる。左右のヘッドフォンから音が出ているだけなのに、上から聞えたりするのが面白い。

僕も色々録ったので聞いてみてください。立体録音部や、そのiPhoneアプリ版などの形で公開しています(素人が格安の機械で録ったので音質はアレですが)。


僕はお金が無いので自分の耳にマイクを入れて録音しています。

普通はダミーヘッドを使って録音します

通常、バイノーラル録音にはダミーヘッドと呼ばれる人形を使う。人形の耳にマイクが付いていて、それで録音するのだ。でもダミーヘッドは高い。最低で100万円程度であり、僕は到底買えないから、僕の場合は自分の耳にマイクを入れて、リアルヘッドで録音してる。

リアルヘッドで録音する場合の利点は、

・お金が掛らない
・自分で歩けるので持ち運びが楽
・録った本人が聴くとそのままの臨場感を味わえる(自分の耳と頭で録るので、いつも聴いている音そのものだから)

などがあり、欠点は、

・呼吸音や心音、衣擦れなど余分な音が入ってしまう
・本人の頭や耳と大きく違う人、例えば子供や女性は音の臨場感、立体感を感じられないことがある

など。ダミーヘッドは万人の頭や耳の特徴を標準化した物なので、誰が聞いても臨場感を感じられる音を録ることが出来るわけ。つまり、業務用としてはダミーヘッド無くしてバイノーラル録音は出来ないと、そういう事なのだ。

今回は、そのダミーヘッドのすごく良いやつを見に大阪まで行ったと、そういう話です。

 

社長さんと名刺交換。社長さんは一級建築士で、家の設計からホームシアターまで色々手がける。

ホームシネマ&オーディオ株式会社さんにお邪魔した

さて、そういう事で話が進んで、大阪市の新森にあるホームシネマ&オーディオ株式会社さんにお邪魔した。どういう会社かというと、ホームシアターやホームオートメーションの会社だ。

ホームシアターってのは家庭で映画を見るための部屋で、大きなプロジェクターに5.1chの音響設備を揃えたりする。この音響設備ってのが難しいのらしい。単に高い機材を使えばいいって訳じゃなく、正しくセッティングしたり電源のノイズをカットしたり、僕にはうまく説明できないくらい難しい世界なのだ。その難しい音響設備のセッティングやホームシアター自体の設計などをやっている会社だそうだ(社長が建築士なので)。いわばオーディオのプロ。


メールをくれた山田響さん(名前からして音関係)。なんで7upを持っているかというと、あとでそういう音を録ったからです。

ホームオートメーションは、例えば暑くなったら屋根に水を撒いたり、冷房が勝手に入ったり、カーテンが開けたり閉じたり、犬に自動給餌したり、家の中の様子を外から見られたりという、ハイテクな家を作る事を言う。SF映画で主人公が目覚めるとカーテンが開いてテレビが点いてニュースを流して、みたいなシーンがあるが、そういうのを想像して貰うと良いと思う。

ホームシアターとホームオートメーションの組み合わせで、iPadで「映画」ってボタンを押すと映画用にスクリーンやプロジェクター、BDプレイヤーなんかが動き出して勝手に映画が再生される、なんて事も出来るそうだ。そんな家に住んでみたい。

という様なホームシネマ&オーディオ株式会社さんなのだが、オーディオ方面に大変強いということで、そこら中にハイエンドオーディオな物が置かれていた。ちょっと凄かったので、本題に入る前にちょっと紹介させてください。見て来ただけの僕が自慢したくなってしまう品揃えだった。

 

1本約180万円のスピーカー。

噂に聞いたハイエンドオーディオの世界

ハイエンドオーディオの世界はすごいすごいと聞いてはいたが、何気なく置かれていたスピーカーが1本180万円だった。B&Wの「800 Diamond」というスピーカーで、ステレオの為に2本買うと360万円だ。なんだそりゃ。車か。

その場で聞いてビックリしたが、帰ってきてネットで調べたら本当に1本189万円だったので本当に驚いた。なんかもう、丸さとか艶とかが、僕が知ってる普通のスピーカーとは全然違う。


1台で250万円のアンプ。ステレオで使うには2台必要。
更に、シアタールームの横に置いてあった真空管アンプ。真空管はまだ入れてないんです、なんて言っていたが、1台250万円のモノラルアンプだという。モノラルなのでステレオで使うには2台必要で、更にコントロール用のアンプも別に必要だという。音響システムの一部が、250万円だ。全体でいくらかかるんだ(もちろんこれが無ければホームシアターが作れないという訳じゃないですよ)。

驚いたのが、このアンプ、今回のメールをくれた山田さんのお父さんであり会社の取締役である山田和利さん(父)が作った製品なんだという。

海外でも高い評価を受けている、Zanden Audioを作ったのがこの山田さんなのだそうな。一瞬ドイツ語かと思ったんだけど、「山田」で「ざんでん」ね。確かに山田さんのだ。

そんな凄い人と知ったのは、帰りの車の中。取材中は自分の製品の自慢とかしない、それがZandenの山田さん(父)。


そういえば会社の入り口、左にZandenって書いてあってなにかと思ってたんだ。
オーディオの鬼、山田さん(父)。この場ではZandenオーディオの話とか一切しない奥ゆかしい人。

 

矢印の先が高級電源ケーブル。1mくらいかな?

電源ケーブルが予価7万円

さて、高級オーディオの世界でよく言う、電源と音の関係。やっぱり電源がノイズの原因になる事は常識らしく、ここではノイズを吸収する素材で出来た電源ケーブルを使っていた。自社製品でまだ発売はしていないそうだが、1本7万円〜10万円くらいだそうだ。

よく、シールドしてノイズを反射する素材を使った電源ケーブルがあるそうだが、反射したらノイズは元に戻るだけで意味がないので吸収しなきゃダメなのだとか。

そして接点は金メッキ。信号の通りが良いという。とにかく電源へのこだわりがすごい。


高級電源タップ。接点は全て金メッキ。
僕の指ほどの太さの電源ケーブル。

レコーダーはTASCAMのDV-RA1000HD。25万円なり。

録音用のレコーダーも凄い。僕が使ってるSANYOのICレコーダーなんて足元にも及ばない業務用のレコーダーが用意されていたし、ヘッドフォンもコンデンサ型という、聞いたことがない方式だった。オーディオ愛好家にはその音を好きな人が多いらしい。普通のヘッドフォンみたいに磁石は入ってなくて、静電気を使って音を出すそうだ。

左下の写真のヘッドフォンは、ダミーヘッドとセットの物だそうだが、同様のコンデンサ型ヘッドフォンでは、国産のSTAXとかドイツのゼンハイザーが有名らしい。Amazonで値段を見て驚いたので興味あったら調べてみてください。

値段にも驚くと思うけど、実際に聴くと音にも驚くので、家電量販店などで視聴する機会があったら試してみてください。

オーディオメーカーというとオーディオテクニカくらいしか知らない僕は全然聞いたことがないメーカーの名前がポンポン出てくる。

ハイエンドオーディオの世界は深すぎる。


コンデンサ型ヘッドフォン。音のクリア加減が凄い。
Zandenの真空管アンプ。真空管って格好いい。

以上の様なハイエンドな器機も使いつつ、バイノーラル録音をさせてもらおうかと思います。次のページではそう、今日の主役ダミーヘッドくんを紹介しましょう。


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