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ひらめきの月曜日
 
胃薬はカレーよりチャイに入れるとうまい

この成分がカレーに合うの?

漢方薬の胃薬をカレーに入れるとうまい、という話をきいたことがある。

漢方薬とスパイスは用途が違うだけで似たような物だときくし、カレーに合うというのもありそうな話だ。(ちなみに出典はマンガ「美味しんぼ」だそうだ)

ところで、胃薬が良質のスパイスになるとすると、カレーだけに使うのはもったいないのではないか。他の料理にも使ってみればいいと思う。

(text by 石川 大樹


 

薬局で買えるスパイス

薬局で「漢方の胃薬ください」と言ったところ、2種類の薬を渡された。薬剤師さんは薬の成分やパッケージ(何包入りのがいくら)についてやさしく教えてくれたが、「食間に飲むように」という時だけなぜか目がマジであった。薬の説明を聞いてるときと、買うとき、買い終わってからの去り際、3回言われて3回とも目がマジであった。

もしかして、食事に混ぜて使おうとしていることに感づかれたのか。


それはさておき、まずは単体で味見をしてみます


買ってきた胃薬は2種類。順番に舐めてみよう。


薬局で最初に勧められた、大正漢方胃腸薬。「食間に飲むように」と念を押されたのはこれである。

チョコパウダーみたいな色。成分はケイヒ、エンゴサク、ボレイ、ウイキョウ、シャクヤク、カンゾウ、など


匂いをかいでみる。薬臭いかと思いきや意外と清涼系

味見。あれ、意外ととまずくない…?


漢方薬はとにかく苦くて飲みにくいイメージがあったのだが、実際なめてみるとそれほどでもない。むしろほんのり甘い。東北あたりにこんな味の和菓子があったとしても、「個性的だなー」くらいで受け入れられそうな気がする。

ちなみに一番多く入っている「ケイヒ」というのはシナモンのことだそうで、そう言われればお菓子っぽいのもうなずける。ニッキ味のお菓子にちょっと似てるかも。

これ、けっこういけるんじゃないの!と思って調子に乗って一気にたくさんなめてみたら、なんだか古い木造建築みたいな味がして後悔した。(木造建築舐めたことないけど)


もうひとつは太田胃散。生薬にくわえて、制酸剤が入っている(ので正確には漢方薬ではない)

駄菓子のココアシガレットの色だ。成分はケイヒ、ウイキョウ、ニクズク、チンピ、など。あと制酸剤に炭酸水素ナトリウムとか、合成ケイ酸アルミニウム、ほか。


匂いは薬っぽい。風邪シロップの匂いだ

舐める。おおうっ…


これは薬だ!(あたりまえだけど)

薄じょっぱくて、なんか金属みたいな味がする。不快なんだけど、「まずい」とは違う感覚。重い、と言えばいいだろうか。舐めた瞬間に口の中にじわじわ闇が迫ってくる感じ。

そのかわり水を飲むとすっとした清涼感があり、二日酔いの時に胃薬を飲んだときの感覚を思い出す。が、それはそれでテンションの下がる記憶ではある。

 

まずはセオリーどおり

そんな感じでどちらも単体でペロペロ舐めたいタイプの味ではなかったが、噂によるとカレーには合うらしいのだ。

カレー以外の料理で試すのが今回のテーマだけど、まずは基本ということで、いちど試してみよう。


カレーの材料。間違い探しみたいな写真だ

そしてできあがったカレーがこちら


カレーを作る過程も紹介したかったが、1ページ記事なので省略させていただいた。

1ページ記事なので、という言い訳はなにかと使えるかもしれない。1ページ記事なので写真は省略しますがカレーを煮ている間に太平洋を泳いで渡りました。1ページ記事なので詳しく書きませんが先日5000人の軍勢をたった一人で撃退しました。

…いや、カレーはほんとに作ったんですよ。


小鍋に分けて、追加スパイスを投入

黄色いパッケージ&茶色い粉末、驚くほどカレーと見た目の相性がいい


2種類のスパイスをそれぞれ投入し、普通のカレーもあわせて計3皿の食べ比べだ。


明らかに普通のカレー(真ん中)の量が多いのは、筆者の不安の表れ


いただきます


3つのカレー、見た目は全く変わらない。香りも普通のカレー。違いがわからない。

カレーに胃薬を入れておいしい理由を調べてみたのだが、「カレーのスパイスと漢方胃腸薬の成分が近い」ためだそうだ。

でも、似たような成分だったら入れても変わらないんじゃないだろうか。カレーがちょっと濃くなるだけでは、と思うのだが。


おなじみの味です

普通のカレー

普通である。万人にお勧めできる味。

おすすめ度 ★★★★★
パッケージ 普通のカレー(※)

※木曜日ライターべつやくさんの記事のように味をイラストで表現してみようと思ったのですが、絵が下手すぎて、読者のみなさまが記事に集中できないおそれがあります。クリックすると別ウィンドウで開きますので、心と時間に余裕のある方のみご覧ください。ちなみにここでは、食べたカレーのパッケージを想像して描いています。


そうきたか、という方向性

大正漢方胃腸薬 入り

甘口だ!

カレーの辛さの、角が取れて少し丸くなったような感じがする。そしてよみがえる遠い子供の頃の記憶。これは、甘口のカレーだ!

バファリンの半分は優しさでできているというけど、あの「優しさ」の正体は胃薬なのだそうだ。これをカレーに適用すると、カレー+優しさ=甘口。理論的にもうなずける結果だ。

個人的には甘口じゃない普通のカレーの方が好きだが、好みしだいではぜんぜんこっちでもアリだと思う。

おすすめ度 ★★★★☆
パッケージ 王子様的なやつ


ちょっと焦げてる?

太田胃散 入り

不思議なことに、このカレーだけちょっとルーがさらさらしている気がするのだ。スープカレーみたいに。

食べてみると、なんだか雑味がある。ちょっと焦がしてしまったカレーに似ている。

単体で出されたら普通に食べるけど、こうやって食べ比べてみるとあんまりおいしくないな、といった感じ。料理がすごく下手な人が、市販のルー使って作るとこうなるかも。そのくらいの微妙な違いであった。

おすすめ度 ★★★
パッケージ ドジな彼女ががんばって作ってくれた風なカレー


そういうわけで、「すごくおいしい!」ということはなかったのだが、いちおう味に変化があったし、食べる人によっては「おいしくなった!」と思ってもおかしくはない。

ちなみに太田胃散、漢方薬のつもりで買ってきたのだが、成分をよく見てみると生薬より制酸剤のほうが圧倒的に多かった、ここでは「漢方じゃない胃薬」として見てもらった方がよさそうです。

 

野菜炒めで真価を問う

カレーは元々のスパイスが強いので、もっと薄味の料理に使ってみてはどうだろうか。今度は野菜炒めに入れてみることにした。


1ページ記事なのでカット野菜を使用
そしてできあがったものがこちら

基本の味付けにはスパイス的なものは使わず、シンプルに塩コショウにした。

胃薬単体でどれだけの味を出せるか、香辛料としての真価を問われる場面だ。


いつもよりうまくできた

普通の野菜炒め

いつもは「念入りに炒めた方が火が通っておいしいのでは」と思って火を通しすぎてしまうのだが、今日は撮影用に見栄えをよくしようと思って控えめにした。結果、モヤシがシャキシャキして非常においしかった。

皆さんも野菜炒めを作られる際は、火加減にご注意を。

おすすめ度 ★★★★★
作ったあと 彼氏・夫に食べさせてもよい(※)

※今回は「作ったあとどうしたいか」をイラストで表現することにしました。


色が違うのは胃薬の色ではなくて、胃薬いれたあとに追加で炒めたせいです

大正漢方胃腸薬 入り

驚いたことに、なんだかカレー味っぽいのだ。

カレーはカレーなんだけど、日本のカレーとはちょっと違う調合。日本のカレーの元になったカレーがインドのどこかにあるのだろうけど、その隣の県のカレーという感じ。

それから胃薬だけ舐めた時と同じく、古い木造建築を思わせる味がする。インドでは石造建築がメインのようだが、木造建築の文化がある地方がもしあれば、その地方のひとはきっと全員、胃が丈夫である。

おいしいかおいしくないかで言えば、うーん、まあまあかなぁ…、という感じ。これなら普通のカレー味の方がいいです。

おすすめ度 ★★★☆
作ったあと 弟になら食べさせてもいい


盛りつけも心なしか寄っている

太田胃散 入り

うっ…。

食べている間中ずっと、下あごをグイグイ上に押されている感じがする。上を見ながらアップアップしつつ食べなきゃいけない。この記述、読者のみなさまは「意味がわからない」とお思いだろうが、今かなり的確に表現している自信がある。ほんとにそうなのだ。単体で舐めた時も思ったけど、味以外の切り口で攻めてくるのが太田胃散なのだ。

強いて味に例えるなら、オーストラリアの癖のある食べものとして知られるベジマイト、あれを思い出した。

おすすめ度 ★☆
作ったあと 川に流す


カレーの時に感じた味の違いが、よりクッキリと現れた形となった。

薬は薬、ご飯はご飯。大人の分別ってそういうものではないか。


太田胃散、どうしてもつらくなってちょっと残した

 

 

では飲み物でどうか

カレーと別に、インド&スパイスで思い出す料理がもう一つある。チャイだ。ミルクティーにスパイスを入れたものだけど、そういえば家に、ずいぶん前に買ったきり使ってないチャイ用のスパイスがあった。


室内の撮影が続いたので外にやってきました

これがチャイの素。原料にはカルダモン、シナモン、ジンジャー、その他香辛料、と書いてある

濃いめに紅茶を入れて、あらかじめ温めておいたミルクを入れます

チャイスパイスを入れてかき混ぜ、それにくわえて右の二つにはそれぞれ胃薬を投入

近所の公園に一瞬チャイのいい香りが広がったが、胃薬を入れた途端にその3倍くらいの強さで胃薬の匂いが充満し、チャイの香りはあっという間にかき消された。


飲む前に写真撮り忘れたのでちょっと減ってます

普通のチャイ

いつの間にかもう11月。肌寒い公園で飲むチャイはおいしい。

お店で飲むチャイと比べると、ちょっとスパイスの味が物足りない感じがした。でも家で手軽に飲めることを考えたら、十分なおいしさ。

おすすめ度 ★★★★☆
象に例えると  上野動物園の象(※)

※今回はインドにちなんで、味を象にたとえることにしました。


溶けきってない粉が胃薬

大正漢方胃腸薬 入り

これは、…おいしい!

なんか「本場っぽい!」っていう感覚あるじゃないですか。僕はインドに行ったことがないので本場のチャイがどんな味か知らないんだけど、「やや、これは本場っぽいぞ」と感じさせるハッタリ。このチャイにはそんなのがあると思う。

スパイスの味わいが普通のより複雑で、エキゾチックな味わいなのだ。香りは普通に作ったチャイに加えて、ちょっとだけ焼き菓子っぽいような匂いがする。

今回の企画で最大の収穫は、このチャイ。文句なしにおすすめです。

おすすめ度 ★★★★★
象に例えると  インドの象


なんか変な泡が出てずっと消えなかったのです

太田胃散 入り

大正漢方胃腸薬で気をよくしたところであったが、ひるがえってこちらは…、うう…。

やはりなんだか金属っぽい味が前面に出てくる。しかも「金属の混じったチャイ」にすらならず、金属がチャイの味を完全に覆い隠してしまっているような有様。

偶然と思うがこれを飲んでいる最中に隣のベンチに老人がやってきて、お経を唱えて帰って行った。あれは祈祷なんだか練習なんだかわからないが、まさにそんなシチュエーションがぴったりの味であった。

おすすめ度 ★☆
象に例えると  鉄メッキの象


大正漢方胃腸薬は一番多い成分がケイヒ(シナモン)なので、チャイに合うのはうなずける。

もしかして単純にシナモンの量の問題?と思い、ためしにチャイスパイスを多めに入れた普通のチャイも作ってみたが、やっぱり大正漢方胃腸薬入りの方がおいしかった。

寒い日には公園で暖かい胃薬。新習慣としてどうでしょうか。


軽く幸せ感じてしまう味でした

 

万能スパイスにはならず

カレー粉の万能ぶりはすごくて、カレーはもちろん野菜炒めに入れてもスープに入れても肉焼くときにかけても、なんでもそれなりにおいしくまとまる。

それに比べたら胃薬は万能さでは負けるけど、適材適所ではバカにできない可能性を秘めていた。

ただし体にいいのかどうかはよくわからないですね。薬ですので、摂取しすぎにご注意を。

撮影している半日程度の間に2日分の胃薬を摂取したことになるが、大丈夫なのだろうか


 
 

 

 
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