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ひらめきの月曜日
 
通勤タイムアタック!

戦乱の時代の幕開け

翌日。昨日録音したゴーストをMP3プレーヤーに移した。イヤフォンごしに感じる敵の気配。

たいくつな日常よさようなら。これからは毎朝、抜きつ抜かれつのスリリングな通勤が始まる。


行ってきます(眠い)

 

 

自分vs自分

自分の足音とは別にもう一つの足音が聞こえる。聴きながら歩いているとついつい歩調を合わせてしまうのだが、それでは同じペースになってしまい自分のゴーストに勝つことはできない。早足で廊下を進む。


自分だけに一歩の歩幅はまったく同じ。速く歩いて手数で勝負するしかない。

最初のポイント、エレベーターはすぐにやってきた。敵がエレベーターを降りる頃には、こちらはすでにマンションから離脱。いいペースだ。


いいペースにほくそ笑む

つづいてゴーストも道路に出る。イヤフォンから聞こえる路上の音はどこも同じような感じで、相手がどのあたりを歩いているのかわからなくなった。足音だけがただ淡々と響く。

「ゴースト」という名前に引っ張られるわけではないが、その存在感はかなり不気味である。姿は見えないのに気配だけがある。しかも敵だ。光学迷彩をまとったプレデターのよう。

ただ歩いているだけでも、「どこにいるかわからないので抜かれるかも」というゲーム的な不安と「姿の見えない敵に狙われているような気がする」という本能的な不安、この2方面から怖い。たまにゴーストが歩調を早めたりするとすごい焦る。


なんとなく後ろを向くとやばい気がしてくる

 

 

競争から逃走へ

駅に差し掛かっても、ゴーストはまだ外の音。先行できていることが確認できた。


改札のピッていう音と車の音がサラウンドで。変な感じ

先にホームに到着、しばし電車待ち

電車を待っている間に、ゴーストは改札を抜け、階段を下り、淡々と無言で、しかし一歩一歩確実にこちらに近づいてくる。

焦燥感。早く逃げねば、と思う。競争に勝ちたい、というより、逃げなきゃ!という気持ち。

 


どこまでも追いかけてくる

電光掲示板に「まもなく電車が来ます」の表示が出た頃、ゴーストもホームに到着した。イヤフォンから電車の音がして一瞬焦ったが、向かいのホームの電車だったようだ。まもなくやってきた電車に逃げ込む。


半駅くらい進んだところで、ゴーストもやってきた電車に乗り込む

半駅で次の電車がくるのは車間距離狭すぎだろう、と思うが、実際にはゴーストが生きているのは昨日の世界。一日の時間経過があるのだった。しかしイヤフォンごしのこの臨場感は、到底そうは思えない程のリアリティ。

ゴーストの電車で女性がなにかおしゃべりをしているのがきこえてくる。習い事の話をしているみたいだ。録音ファイルには音声丸ごと収録しているので情報量はかなりあるのだが、必ずしも場所を表す音ばかりではない。その中から取捨選択して相手の居場所を推理しなければならず、競争中ずっと頭もフル稼働だ。

いろんな音を総合的に判断して、敵の所在地を割り出し、でもまたすぐわからなくなって、ある瞬間に急にまたわかって…。という繰り返しがどうしようもなく胸をハラハラさせる。


そうこうしている間に駅に着いた

駅に着いた頃、イヤフォンからはまだひとつ前の駅のアナウンスが流れていた。いける。このペースなら逃げ切れる!

狭い階段も今日は比較的空いており

駅の混雑もさほどではない。いいペース


しかもちょうど電車が着いていた。勝ちを確信

音はすれども姿は見えないゴースト。その存在感がなんだか妙に恐ろしかったのだが、こうして差が開いて勝ち色が濃厚になるにつれて、ゲームを楽しむ余裕が出てきたぞ。

…と思ったのもつかの間。異変に気づいた。乗り込んだ電車が全然動かないのだ。


「運転間隔の調整のため、停止しています」

 

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