何をするのかだいたい察しのついた方も多いと思う。 よし、濡れよう。記事に書ける範囲で濡れてみよう。
(櫻田 智也)
滴らせたい
休日、晴れていたので近所へ散歩にでかけた。
天気予報によれば明日は雪だという。
外で寒さに震えることなく撮影できるのも、あと少しの間だけだ。
あ〜、濡れてる濡れてる。濡れてるけど、だから何?って感じだ。 色っぽいかと訊かれれば、返事は「かわいそう」だろう。 あと、いま書いていて気付いたが、メガネまで濡らしちゃダメなんじゃないのか。
それ以前に、濡れているのか濡れていないのかさえ、はっきりいって写真でよくわからない。 ヒゲそり痕の青さと散らかったモミアゲばかりが気になる結果に。 カメラマンからも「よくわからない」と、受け容れたくない意見が届く。
こういうのはね、とりあえず外に出ておいたほうが明るい記事になっていいんだよ。 そんな思いで散歩にでてみたものの、プランがなさすぎた。 水を滴らせたらいい男になれるのではなく、そもそもいい男だから水がいい具合に滴るのだ。 凡庸な人間の顔には、簡単に水は滴らない。
大きな教訓を得た。この時間は無駄ではない。 策を練って出直しだ。
滴らせ方の検討
ただ水を吹きかけただけでは物足りない。 そこでおじさんは閃いた。
油は水をはじく。油分を含んだメンタームを塗ったあとで水をかければ、水は肌の上で玉のようになってきらめき、「あらあの人、水が滴ってるわ。ぽっ」となるのではないだろうか。
というわけで顔一面にメンタームを塗る
スースーする。受験生か。 目が開けられないが、とりあえず水をかけてみよう。
たしかに何もせず水を吹きかけたときより、顔が濡れているのがわかりやすいとは思う。だがそんな成果がどうでもいいくらい目が痛い。 鼻が赤かったり目が赤かったりするようでは、いい男には程遠い。
トロトロした液体を使おう
最初からトロっとしている液体を使おう。
ほんとうはシェーブ用じゃないローションを買いたかったのだが、デイリーポータルZは少年少女も読むサイトだと聞いているので自粛した。 ちなみに数年前、『大人の滑り台』というネタを本気で実行しようとしていて、これは「公園の滑り台をローションまみれにして滑る」という無邪気すぎる内容のものだった。
というわけで使ってみたのだが、
うっすら目を開けて容器をみると、『洗顔もできる』と書いてある。あ、それで泡立つんですね、これ。
ぷるぷるさせよう
ローションはダメだ。あんなのが顔から垂れてたらキワモノすぎる。 寝る直前、いいアイディアを思いついた。起きて早速実行してみる。
ゼラティンを溶かした水を顔に吹きかけるという方法だ。 ゼラティンが溶けた水は顔の表面で冷えてゼリーとなりプルプルと滴る。思い描くに、かなりのいい男ぶりではないだろうか。
保温のできる水筒に入れることで、固まらせることなく持ち歩くことができる。 天才か俺は。
ゼラチンの溶けたお湯を霧吹きに移しかえる。
後ろの男女がいなくなるのをしばらく待っていたのだが、話し込みはじめてしまったので仕方なく実行。大量のゼラチン水を顔に噴霧する。
カメラマンに「固まったか」訊くものの、いくら待っても答えは「ノー」だ。 ここにきて、人肌の温かさに思い至る。そうか、ゼラチンが固まるには、俺の体温は高すぎる。
「この寒さの中、あの人汗かいてるよ」 せいぜいそのくらいの注目を浴びる程度の変化。 仕方ない。これが最後の手段だったのだ。とりあえず歩きだす。
これなら最初の水とぜんぜん変わらんがな。
そんな思いは口にださず、「どう? 滴ってる? 少しは滴ってる?」の質問を繰り返してカメラマンを困らせる。
少しして、顔がやたらとつっぱりはじめる。 そういう点ではゼラチンの効果があらわれているといえる。しかし肌のつっぱりは写真にうつらないし、本筋とぜんぜん関係ない。
しばらく歩き、やっと目的地にたどりついた。今日は年末ジャンボも買おうと決めていたのだ。
致命的にわかりづらい。水が滴ってるとか写真でぜんぜんわからない。 売場の女性も「この人なんか汗かいてるけど、スゲー走ってきたのかしら? あるいは患者?」くらいにしか感じていないと思う。
ところで水が滴ってるほど高額当選の確率が上がるという噂があるのをご存知だろうか。 ぼくは知らない。
店員の失笑を思いだしながら、悔しい思いで顔を拭う。
脱皮か。と書いてはみたものの、これまた写真でわかりづらいのだった。 ああもう!
やろうとしたことが小さすぎた
慣用句をいじってみるにも、いかんせんセレクトが地味すぎた。とはいえ、生き馬の目を抜いたりはできないので、これくらいでちょうど良いのだろう。だいたいこういう規模の人生である。