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ロマンの木曜日
 
ハイブリッド列車に乗ってきた


ハード的にもソフト的にも最新の列車

朝方の貨物列車のトラブルで、松本着10時37分予定の「スーパーあずさ5号」は7分ほど遅れていた。本来なら4分しかない乗り換えの接続時間はもう過ぎている。おそらく待ってくれているだろうけど、何番線か分からないし、とにかく急がねば。早めに荷物をまとめて、列車が松本駅に進入するためにスピードを落としはじめるのと同時に席を立った。

デッキに出て、ドアのいちばん前で滑り込むホームを眺める。ドアが開くと同時に、およそ2時間乗ってきた特急の余韻を味わう暇もなく駆け出すと、お目当ての列車は向かい側のホームの先の方で待っていた。そのとき「発車します」との放送が。思わず、待って!と叫ぶと、近くの駅員さんが驚いた顔で「お客さん、乗るの!?」と聞いてきた。

「乗りますよ!」

萩原 雅紀



楽しい仕掛け満載の観光列車

肩で息をしながら自分の席を探すうち、列車は松本駅を北に向かって出発。ようやく席を見つけて一息ついた頃には、大きな窓の外は遠くに北アルプス山脈がそびえる農村地帯の風景が流れていた。


大きな窓から見える農村風景

それにしても窓が広い。晴天の空から注ぐ太陽の光で車内も明るい。できたての新型車ということもあって、全体的にピカピカで気持ちいい。ただ、車内は早くも宴会モードの団体さんが食べていたイカクンとビールのにおいが充満していた。


明るくて清潔感があるけどつまみの臭い充満の車内

かわいい女性の車掌さんによる到着時刻などの放送が終わると、今度は客室乗務員さんが沿線の観光案内の車内放送を始めた。大きな窓から見えた山並みにちょうど説明が入って嬉しい。


車掌さんに代わって客室乗務員さんの観光ガイドが入る

車内を観察してみると、まず目を引くのは客室と運転室の間にあるフリースペース。窓の外や運転席に向いた椅子がついていて、全席指定のなか、ここは誰でも自由に座ることができるようだ。運転席の後ろにも大きな窓がついているので、先頭でも最後尾でも、展望風景をかぶりつきで楽しむことができる。


運転席の後ろはフリースペース
いろいろな向きの椅子が並ぶ

かぶりつき席に椅子が用意されるなんて!
窓越しに外を撮ろうと必死にズームアウト中

また、足元が広くて座り心地のいいシートから立ち上がりたくなくても、車内の天井にいくつか液晶モニターがついていて、先頭のカメラが撮影した映像が流れるので、座ったままでも楽しい。モニターには地元の観光紹介も流れる。


シートの足元は超広い
天井には先頭を映す液晶モニターが

 

思いもよらぬアトラクションが

さて、松本をやや遅れて出発してから走り続けてきた列車は最初の停車駅、穂高駅に到着した。せっかく快速で走ってきたのに、なんとここで25分も停まるらしい。まわりの乗客はみなぞろぞろ降りて行く。あちこち見てまわっていたので車内放送を聞き逃していたのだけど、ホームでは「穂高神社参拝の方はこちらです!」と言っている。

神社参拝?


みんなぞろぞろ降りてしまった
え、みんなどこ行くの?

わけが分からずあたふたしていると、突然ホームに緋袴の巫女さんが現れ、お客さんを先導して駅の外に出て行った。列車にはツアーの団体と思われる乗客が多く乗っていたので、その人たち向けの案内なのかと思っていると、一団はバスに乗り込んでどこかへ行ってしまった。みんな、列車は?


あ!巫女さん!!
みんなバスに乗って行ってしまった

あとで調べたら、どうやらこの停車時間の間に、巫女さんと一緒に駅近くにある神社の参拝と周辺の散策ができるらしい。巫女さんと一緒に写真も撮れるとか、なんだその突然の萌え系サービスは!

仕方がないので、この長い停車時間のあいだに、列車の外側を観察してみた。


形も色も21世紀的

 

ハイブリッド観光列車

このかっこいい列車は「リゾートビューふるさと」号。長野から松本を通って大糸線の南小谷までを1日1往復している快速列車だ。快速とはいえ、全席指定席で、ここまで書いたように車掌さんとは別に客室乗務員さんが乗ったり、途中駅で長時間停車して外に出て行くイベントがあったり、完全に観光目的の列車。雰囲気としては以前乗った肥薩線の「いさぶろう/しんぺい」号に近いかも。


およそ2年前に乗った「しんぺい」
こちらも途中で停まって駅舎見たりしていた

いちばんの特徴は動力で、車体の横に「HYBRID」と書かれているように、ディーゼルエンジンとモーター、そして蓄電池を使って走る。ディーゼルエンジンを回して走るディーゼルカーと、電気でモーターを回して走る電車を合体させたような仕組みで、ディーゼルエンジンで発電機を回して起こした電気と、電池に貯めた電気を合わせて、モーターを回して走る。減速するときはモーターを発電機にして電池に充電する。


リゾートビューふるさと専用車両
車体の横に大きく「HYBRID」
屋根の上に蓄電池を搭載
運転席のモニターがいかにもハイブリッドっぽい

なので、この列車の車輪を動かしているのはモーターだけど、屋根にパンタグラフはついていない、ディーゼルエンジンを積んでいるけど、その回転は直接車輪には伝わっていない、という不思議な列車。敢えて言えばディーゼル電車、とでも言えるかも知れない。

いつの間にか巫女さんに連れられて神社参拝に行った人たちが戻り、列車は穂高駅を発車。耳を澄ませてみたけど確かにディーゼルエンジンの音はほとんどせず、電車のような静かな加速だった。

それから間もなく、僕が降りる信濃大町駅に到着。なんだか楽しくて、松本からあっという間だった。名残り惜しみながらホームに降りると、ここではなんとホームにコスプレ写真館がオープンしていた。せっかくなので、黒部ダム建設のために掘ったトンネルの作業員コスプレを体験。


小物や衣裳も貸してくれる
「私が掘りました」

このあと黒部ダムに向かったのだけど、そのテンションが上がったことは言うまでもない。


エンジンの音は聞こえず静かに発車していった

デスティネーションですってねー

この列車は10月から走りはじめたばかりだけど、停車駅ごとに何かしらアトラクションがあるらしく、沿線が一体となって盛り上げようとしていた。でも景色もいいし、列車はキレイで楽しいし、あとはおいしい食べ物があれば完璧なのだけど、松本駅で乗り換え時間がなくて買えなかったのが残念だった。ぜひスーパーあずさとの接続時間の見直しをお願いしたい。

運賃プラス310円でこの楽しい列車に乗れる

 
 

 

 
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