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ひらめきの月曜日
 
ラジカセ改造のススメ

元・ラジカセです


小さいころ、いらなくなった電化製品、壊れた時計とかラジオとか分解してみたことがある人は多いと思う。

大人になって改めてやってみると、自分が昔より賢くなってるのでいろいろ発見もあるし、ちょっとがんばれば改造なんかもできちゃったりする。そうなるともう夢中である。

そんな病気をこじらせて、ラジカセを続々と改造し続けている人に今回は話をきいてきた。作品紹介にかこつけて、分解&改造の楽しみをみなさんに伝えられたらと思います。

(text by 石川 大樹


 

マッドサイエンティストの集い

きっかけは今回だけでもう2回ほど記事にもなってるMake: Tokyo Meting の会場。このサイトでは通りがいいので「DIYのイベント」とか「電子工作のイベント」とか紹介しているが、実のところ平たくいうとマッドサイエンティスト(とその卵)の集いみたいなものである。


どうかしてる一例:コンピューターを使わずに、機械的に(つまり歯車やロープを使って)連立方程式を解く装置


そんな会場内を見渡していて、これは群を抜いてどうかしている!と思ったのがこの作品である。


8体のロボットっぽいもの

「2011年 人類は滅亡して地デジに生まれ変わります。」


この「ロボットっぽいもの」はすべてテープレコーダーで、これがガタガタ震えながらテープの再生や早回し、連続反転などを繰り返して悪夢みたいな音響を奏でている。


すごい退廃的。人類が滅亡した後はラジカセだけが生き残り、人類が生きた記録であるところのカセットテープをもてあそぶのです


すべてラジカセを改造したもなのだ。展示されていた8台全ては一人の美大生が作った作品。

芸術作品という以上に異形の珍発明という呼称を送りたいこれら、作品自体もすごくどうかしてるし、8台も作ってしまったのというのがこれまたどうかしていて、僕は強く心を打たれ、取材のお願いをしたのだ。

 

 

ジャンクの山で暮らして

作者は武蔵野美術大学に通う学生の宇吹 新さん。アトリエにお邪魔すると、当然のように出迎えてくれたのはジャンク機器の山。


こちらが宇吹さん。若者!


アトリエのようす。足の踏み場はもちろんない


道ばたに落ち葉がうずたかく積もる季節になりましたね

これ結局最後までなんだかわからなかった

3年ほど前からジャンク機器を使って作品づくりを始めたそうだ。ここにあるのはジャンク機器の部品でできた、3年分の地層。

素材は主に大学のゴミ捨て場から拾ってくるとのこと。特に年末と4月は、大掃除と引っ越しで獲物が充実するらしいです。ということはいまちょうどかき入れ時ですね。


こちらが、僕が感銘を受けたインビジブルスクラッチピクルズのみなさん


けっこうでかい


9台の作品が輪になって出迎えてくれたが、この前見たのと一部顔ぶれがちがう。ここに9台と、調整中のが1台、計10台。壁には試作品もかかっていたりして、これからもどんどん増えていく予定だという。

さっそく、あらためて動かして見せてもらった。


まさに悪夢


ビデオデッキがすごい

作品の説明は後でするとして、宇吹さんの経歴の話からはじめたい。そこに家電改造の楽しさのエッセンスが詰まっていたからだ。

宇吹さんの専攻は油絵。今の作品を考えるとかなり遠くまで来てしまった感があるが、こんなルートをたどっている。

油絵専攻という名前の学科だけど、映像もできる

ビデオデッキの改造をし始める

電子回路に興味を持つ

ラジカセを改造し始める

聞いたその場では「なるほどー」と思ったんだけど、いま改めて書き出してみると、「え、何?」っていう感じだ。映像から急にビデオデッキの改造に行くのがよくわからない。でもそうやって突拍子もないものに興味を持つことによって、人類ってここまで発展してきたんじゃないかな。(説明しきれないので大きな話にしてうやむやに)

「ビデオデッキの中身ってすごいんですよ」といいながら、ジャンクの山から一台出してきてくれた。


あの雑然とした山の中から狙ったものがサッと出てくるのがすごい


これがビデオデッキの中身。上から見たところで

裏側がこちら。すごいギア機構


おもむろにコンセントを刺して、見せてくれたのはビデオデッキからビデオテープを取り出す動作。

デッキからビデオテープを取り出すためには、

・テープのフタを閉める
・テープの穴から、テープを回すための回転部分を抜く
・テープをデッキから押し出す

ってちょっと考えただけで3つの動きが必要(たぶんもっとある)。しかもそれは同時じゃなくて、ふたを閉めて、回転するとこ抜いて、それからテープを押し出す、って順番にやらなきゃいけない。

これ、3ステップあるから、3つの動力があると思うじゃないですか。それなのに、開けてみるとモーターひとつしか入ってないんですよ。数でいえばミニ四駆と同じ。

あとはその回転運動をベルトやギアでいろんな動きに変換して、テープ取り出しの動作を実現している。


この車麩みたいな部品がキモ。モーターが直接動かすのはこの部品。そこに複雑に掘られたミゾが、時間差でいろんな機構を押し出して、動作させる。パソコンでいうところのプログラムが、この小さな板に!


説明はちょっと自信ないですけどこんな感じのことが起きているのではと推測。(そして裏側にあって見えないけどこの5倍くらいいろんなことが起きていると思う。1/3倍速)


これ、電子制御っていうよりも、カラクリなんですよ。カラクリ人形と同じ。現代的な電化製品の中身もこうなってるんだ、っていうのはすごい驚きだった。特にこの時間差の制御はほんとに目からうろこ!

これまで僕は人類の英知の結晶は水洗トイレのタンクだと思っていたのだけど(あれを初めて開けてみたときは一定時間で水が止まる仕組みに感心するあまり当時やってたブログに図入りで解説を書いたほどだ)、これからはビデオデッキだと思うことにする。ほんとすごい。

で、ちょっと感動しすぎなので宇吹さんの話に戻ると、映像やるためにビデオデッキを分解して、これはおもしろい、すごいぞ、ってことになって、いろいろ改造することに興味を持ち始める。

 

そしてラジカセへ

電子工作レジャーの一分野に、サーキット・ベンディングというジャンルがある。おもちゃの楽器を改造して変な音を出す、というものだ。

次に宇吹さんはこっちに手を出した。こっちはカラクリじゃなくて電子制御の分野ですね。


作品のひとつ


そんな中で音への興味と、あとビデオ改造で培った磁気テープ制御の技術があわさって、たどり着いたのがラジカセ改造である。


そうしてできたこれが一号機

カセットにも個性が

全10体はぜんぶ違った音が出るようになっているのだけど、やっていることは同じで、テープの反転と再生のON/OFF。

それでも元々のカセットデッキのしくみによってできることも変わってくるし、モーターの回転速度で再生される音も違う。くわえて、外見的にもいろんな素材を使ったりして、結果的にこんな個性豊かな10台ができあがった。


古いMacを使った筐体

これはモニタの筐体だ


しくみもいろいろ。こちらは白いのがカセットデッキのボタンで、下にあるCDドライブが動いてボタンを押す

こっちはボタンを使わずに電気信号で制御してるパターン


ひとつひとつ動画で撮ってみました

作品について聞いてみた。

石川「作品コンセプトみたいなのはあるんですか?」

宇吹「捨てられたゴミが動き出したらどうなるだろう、という感じですね。 ゾンビだったり、フリークスショーみたいなイメージです。」

石川「このテープの音が、すごい怖いですよね。悪夢っぽい。」

宇吹「『悪夢っぽい』はよくいわれます。でもMake:の会場では意外と子供にうけたりしましたよ。ずっと離れない子もいて。」

演劇とかでよくある音響効果で、混沌がエスカレートしていくような場面でテープがガーってどんどん早回しになって、いきなりバツン、って切れて静かなシーンになる、みたいな演出あるじゃないですか。この作品は、あの、バツン!って切れる直前がずっと続いてる感じがする。もうすぐ世界が終わるぞ、という。だから『2011年 人類は滅亡して地デジに生まれ変わります。』っていうサブタイトルが、すごくぴったりだと思う。

石川「ところで、なんとなく生き物っぽい造形じゃないですか?」

宇吹「そうですね、カセットデッキって2つの穴が目に見えますし、顔っぽいです。さっきゾンビっていいましたけど、生き物っぽく見せたい、というのはありますね。」

石川「このブルブル震えるのとかすごく生き物っぽいです。」

宇吹「はい、それがちょうど、生き物っぽくしたいと思い始めたきっかけです。」

石川「一台作るのにどのくらいかかりますか?」

宇吹「最初は1週間くらいかかったんですけど、最近は材料さえあれば、1つ2日くらいで。」

ネックなのは材料調達だそうだ。最近はブルーレイが普及してきたので、カセットデッキよりもDVDプレーヤーが多く捨てられているとか。

石川「これ以外にも、なにか作られているんですか?」

宇吹「ええ、ちょっとここにはあんまりないんですけど…、あ、これとか。」


といって出てきたのはこんな小品。妙に生き物っぽい動きをする。


上の動画はDVDドライブを改造したもの。

既存の機械を使えば、自分が一から作るより簡単に、圧倒的に高度な機械が扱える。「スイッチのON/OFFの制御だけで、すごくおもしろいものができるんです」とのこと。そう言われると改造行為が途端に魅力的に見えてきた。

 

ジャンク手土産

ところで、今日はお土産を持ってきたのだ。


武骨でかっこいい旧式ラジカセ

ジャンク品のラジカセ。ヤフオクで1000円で落札して、はるばる岩手からやってきた。せっかくなので、一緒に一体作ってみたくて持ってきたのだ。

ところが試しに動かしてみると、どうも肝心のカセットデッキが壊れているらしく、動かない。ともあれ修理できるかもしれないし、ひとまず分解してみることに。


すごい勢いでウラ蓋を開け始める宇吹さん。異常な手早さ

30秒くらいで開いた


この密度!


宇吹さんが「わっ」と声を上げる。このラジカセ、相当古いシロモノらしく、いまのスマートな回路基板とは全然違う。大柄の部品、そして山盛りのハンダがゴテッと盛られている。


すごい密度。モヤシみたい


さっきのビデオデッキも驚いたけど、ラジカセもこうやって分解していくだけでどんどん新たな発見がある。中でも意外だったのが、ラジオのチューニングのメーター。


これ、電気で動いてるのかと思ったのだけど、裏から見ると

ダイヤルにヒモを巻き付けてるだけだったのだ。


電気製品ってすべて電気で動いてるイメージだったけど、意外そうでもない。カラクリの部分ってやっぱり結構あるのだ。宇吹さんによると「ヒモとかゴムとか、いまでも多いですよ」とのこと。


引き続き解体。すごい数のネジで厳重に固定されている。電動ドライバーを武器にどんどん攻める

やっとカセットデッキが出てきた。


すごい顔っぽい!

 

修理は輪ゴムで

問題のカセットデッキが出てきたので、故障箇所を探る。すると。


ゴムが切れてる

部屋にあった輪ゴムで緊急対処


おお。回ってる


カセットデッキ周辺にゴムで留めている部分が5箇所ほどあり、年代物とあってゴムは全て硬化、切れてしまっていた。


さらに何箇所か、輪ゴムで修理

あと1本!


さいごに1箇所だけ、ゴムが切れたところが残ってしまった。ここは滑車の隙間が狭く、小さい輪ゴムが必要だったのだけど、あいにく手元に代用品がない。

しかもここがいちばん肝心な部分だったようで、あえなく今日の作業はここでお開きとなった。


残念…

 

 

マッドサイエンティストへの道

一緒に作業してみて思ったのは、あの作品が完全に「好き」の産物であるということで、このまま放っておけば宇吹さんはどんどんマッドサイエンティストの側に近づいていくんだろうなあ、と思うと非常に心強い。いつか500台くらい作った末にラジカセで城でも建て始めたら、今度はB級スポットとして取材に行きたいと思う。

そして今回の件で僕もそっち側にグイッと引き込まれてしまった気がしている。今ヤフオクでもう一台ジャンクラジカセを手に入れようか、それともほかの機械にしようか迷っているところだ。

※電子機器を分解する際は、高電圧部品などが含まれている可能性がありますので注意しましょう。また、分解が禁止されている製品もありますので、法令を遵守して作業しましょう。

 

取材協力:

宇吹 新さん

ライブイベント『NewAction!』映像スタッフとして参加しています。 http://new-action.daa.jp/
次回は2010/12/20(月)@新宿MARZ
PaperbagLunchBoxShleeps (bonobos辻凡人ソロプロジェクト) など出演。

1/20〜1/23まで武蔵野美術大学で卒業制作展があります。


宇吹さんの2010年作品集です。これも全部おもしろい!


 
 

 

 
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