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フェティッシュの火曜日
 
子供に薦めたいマンガを聞いてみた

自意識をこじらせてないとひっかからない?

続いては元デイリーポータルZライターでもある佐倉美穂さん。記事を読まれていた方なら理系ネタの印象が強いと思うけれど、実はマンガ、特に少女マンガにとても造詣が深く、2010年版の『このマンガがすごい!』(宝島社)にも文章を寄せているほど。


ただの理系のお姉さんと思ったら大間違いだ!

まず小学生低学年向けに、と紹介してくれたのが『魔法の砂糖菓子』(萩岩睦美)。

「萩岩睦美はわたしの年代では『銀曜日のおとぎ話』って作品が有名ですね。ヨーロッパ系の顔立ちとか世界やファンタジーを描くのがすごく上手いんですけど、それだけでなく話の起承転結がしっかりしてるんです。その中でこのマンガは小学生のころに読んだんですけど、これではじめてマンガの構成とかにビビったんですよ」

−−紙面は見せられないですけど、自分が見てもたしかにコマ割なんか凝ってますね。でも見づらいわけじゃない。

「それまで普通にコマ並んでるのばっかり読んでたのが、一瞬目をどこにやったらいいかわからないけど、全体を見ればわかる」

−−子供心にすげえなと思わされたわけですね。

「それでお話の描き方も衝撃的で!主人公の親が死んじゃって親戚にいじめられて育つんだけど魔法使いみたいなお兄さんに夢の世界を見せてもらって…って話だけ説明するとシンデレラみたいなお話なんですけど、すごく濃いんです」

−−単に甘いファンタジーじゃない。

「両親を亡くした主人公の前に、子供を亡くした猫が現れるんですけど、子供心に『どっちがつらいものだろう』って考えたりしましたもんねー」

−−それは重いなあ…。

「描き方によっては普通のファンタジーなんだけど、この作品読むことで『強調したいのは何か?』とか目覚めたんですよね。この作品も最後はハッピーエンドなんだけど、主人公視点ではない荒涼としたハッピーエンドで。その余韻の残し方が子供向けマンガなんだけど大人向けだなあと」


可愛い絵とは裏腹にいろいろ濃い一作!

「いやーこんなに話しちゃってスイマセン!人に薦めるの大好きなんで」と言う佐倉さん。しかしこちらも少女マンガは門外漢なのだけど、内容分からずともその熱さでその面白さは伝わってくる。そんな彼女の「小学校高学年〜中学生向け」は…

「これもめちゃくちゃ少女マンガで、私が生涯で一番好きな漫画なんですけど『彼方から』(ひかわきょうこ)というマンガで」

−−現代の女の子が何かのきっかけへ異世界へ、てSF的展開は定番っちゃ定番ですよね。

「そうですね。でも、普通そういうのって最初から意志の疎通がなぜか出来たりするじゃないですか?話が通じたり、翻訳出来る何かを食べたとか。このマンガは最初身振り手振りから何ヶ月もかけて言葉を勉強していくんですよ」

−−へー!それは珍しい。

「ヒーロー側の主人公は異世界から来た災厄を殺しに来たんだけど、それが若い女の子だから殺せないんです。だから、言葉が通じて詳細を話せるまで一緒にいよう、ってことになるんです。そのうちに恋愛関係になるわけですけど」

−−なるほど!「空から落ちてきて惚れました」ではなく、関わらなくてはいけない理由付けがしっかりしてるんですね。

「話さなきゃいけない、でも話したくないって葛藤がすごく切なかったり、彼女もまた自分の意味を知って遠ざかったり。それで言葉の表現が上手いんですよ!世界における彼女の立場と、恋愛における彼女の立場が上手くかかってたりして」

−−ただストーリーの良さだけでない。

「そしてただの恋愛ファンタジーではなくて、『なんで自分がこの異世界に来たんだろう』って事を彼女も悩むんです。世界を良くしたいのに自分の力は小さい、でもこの世界に少しずつでも及ぶようにすればいいんだ、少しずつ波紋を広めていくようにすれば影響が何かにあるだろう、って」

−−その辺りも中学生向けですねえ。

「ファンタジーであり恋愛でありアイデンティティの確立であり、いろんな要素が詰まってるんですよ。漫画として読むにもテンポよくて面白い」


調べたらSF界の文学賞・星雲賞を受賞してるんですね。

テクニカルな部分とエモーショナルな部分、佐倉さんが両方好きなのがよくわかります。男はあまりテクニカルな話で出なかったなあ…男女というより文系理系の差か?そして高校生向けには同世代を描いたこの作品。

「迷ったんですけど、『大奥』や『きのう何食べた』が有名なよしながふみの『フラワー・オブ・ライフ』って作品です。中高学年って同じ歳の世界の作品って受け入れにくいんですけどね。どうしても『マンガに比べて現実は…』って思っちゃうから。でもこれは読んでほしいかなー」

−−同世代でも楽しめると。

「これは大人が読む高校生ファンタジーだと思うんですけどね。主人公が白血病の治療で一年留年してた男の子なんですけど、彼を中心にいろんな事が書かれてて、人間の機微みたいなのがギュッと詰まってます。それで読んでて『こういうのアリとして言っちゃうんだ』みたいな言葉がいくつもあって」

−−その辺はオトナというか、だからこそ高校生には刺さりそうですね。

「読んでて『人間関係に正解はないな』って思えてくる。よしながふみって、普段もやもやっと『これってこうした方が…』って思ってることをズバッと的確に、現実的に描くんですよね」

−−そういう部分が評価高いんですねえ。

「あと終盤にタイトルにひっかけた言葉が出てくるんですけど、この辺りがショックなんですよ!わたし『人気だからムリヤリ伸ばしました』みたいなのが嫌いなんです!これはもうここで終わるしかない、って所で終わってて。『彼方から』もそうなんですけど」


全4巻ながら凝縮されてます!

またもう一冊こっちと悩む!と佐倉さんが取りだしたのが『河よりも長くゆるやかに』(吉田秋生)。奇しくもどちらも男子高校生が主人公。

個人的には初期の大友克洋を思い出しました。

−−佐倉さんはもう一本も「少女マンガなんだけど男主人公」ですね。なんか意味あるんですか?

「うーん、たまたまですね。短くて持ってきたっていうのが大きいかな。同じ吉田秋生の『櫻の園』でもよかったし」

−−ぱらっと読んだだけですけど『男の描く男の世界』と『女の描く男の世界』って違ってて面白いですね。男の書く男の世界だともうちょっと感覚的な気がするんですよね。ヤンキーマンガみたいな。それに対して女性が描くのって会話劇中心というか。

「そうそう!会話が中心だから、見てる側もある程度の人生経験があってもやもや考えてたりすることに対して、マンガのセリフが突破口になったりするんですよね」

−−悩みあったり、自意識こじらせてないとひっかからないっていうのはありますよね。

「だから面白いって思えるのは面倒くさい人だから、ですよね!」


面倒くさい生き方と面倒くさくない生き方がどっちがいいのかは何とも言えませんが…。ともかくマンガが救ってくれたりする事もある、というのは間違いないかも。さて最後の4人目は唯一のリアル子持ちの意見を聞いてみます。

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