チーム全体でモヤってくるブルボン製品
前ページで考察したように、ルマンドのモヤモヤ源は書体と色にありそうだ。続いては他のお菓子についても書体を見てみよう。
まずは昭和の香りが漂う書体の「レーズンサンド」。それもそのはず、昭和45年発売というから、ルマンドよりも4年先輩。ルマンドの書体にはまだ軽やかさが漂うのに対し、こちらはなんだか切実。
そんな迫力でせまってこないで、と言いたくなる訴求力。古いラブホテルの看板でこういう書体を見たような気がする。
古くからありそうなパチンコ屋の看板に、似たような感じの書体を発見。この切り裂いたような雰囲気、妙にシリアスなムードを漂わせるが、その実態はレーズンが挟まったお菓子とパチンコ屋だ。
ルマンドと同じように、レーズンサンドもエマニエル夫人と並べてみた。ディティールは違うが、醸し出される味わいには共通のものが感じられなくもない 。
レーズンという好みが分かれる材料を使ったこのお菓子。書体にその在り方の厳しさがにじんでいるようにも見える。
それは、このお菓子のレアリティにも関係しているかもしれない。今回購入したブルボン製品の中で、最も入手に苦労したのがこれだからだ。
他のものはスーパーを3つほど回ったところで見つかったのだが、レーズンサンドだけはなかなか見つからない。8つ目の店でやっと見つけたときはうれしくって写真を撮ったほどだ。
書体の怖さに加えて希少性もあるレーズンサンド。モヤモヤ度を高める演出が揃っている。
ルマンド、レーズンサンドに続く真顔系の書体は「ホワイトロリータ」。昭和40年発売とのことで、今回のお菓子の中で最も歴史が長い。
書体のデザイン性はほとんどなく、縦にやや圧縮されたベーシックな明朝体 。真剣度は高いが、言ってることはホワイトロリータだからわけがわからない。
個包装のかっこよさもホワイトロリータの特徴。黒と白をベースに、ラインとして施された金色。ムダや隙がなく、 このシリーズの中での高級感は最も高いと思う。
かなり似た書体が使われているのが「ルーベラ」と「チョコリエール」。切実さと真剣さは影を潜め、全体としてしゃれたムードが前に出てきている。
そこはかとなく漂う、軽やかなエロさ。いや、こんなところにエロを感じる感性はおかしくないかと、もう一人の自分が問う。まだエマニエル夫人の幻影が脳裏にこびりついているのかもしれない。
お菓子そのものもおいしさとして、自分の中でルマンドと並ぶのが「バームロール」。ルマンドのクリスピーと対になるしっとりさがうれしい。交互に食べることで、互いの個性を光らせる。 書体はほどよいデザイン性。クラシックな中にもしっとりとしたおいしさを演出している。個性はそれほど強くないタイプだ。 しかしこのバームロール、書体のデザインとは別に気になるところがある。商品名の下部に注目したい。
他のものが「クッキー」や「ビスケット」と書いてあるのに対し、バームロールは「洋菓子」。なんだかこれだけ随分ざっくりしてないか。どうにもぼんやり感が漂う、洋菓子。
裏面の製品表示欄の「名称」のところにも「洋菓子」とあるので、きちんとした分類に基づく呼び方なのだろうとは思う。しかし、そういう事情を推察したとしても、 一度「洋菓子」に気づいてしまうと、やはりどうしてもモヤモヤしてしまう。
逆に、全くモヤモヤしないブルボンもある。
「エリーゼ」だ。お菓子そのものは好きなのだが、シンプルなゴシック体に斜をかけてあるだけの書体には、味わいというものが感じられない。
シンプルで現代風、と言えばよいのだろうか。このサラッとした感じは他のブルボンと比べると逆に異端。さらには「北海道ミルク」と、出自をアピールしているところも優等生的。
裏面の商品説明文にもそのテイストは表れている。レーズンサンドが結構な量の言葉を費やしているのに対して、エリーゼの字数はかなり少ない。
異端性に気づいてしまうと、「どうしてエリーゼだけ?」とモヤモヤしてくる逆説。こういう在り方もあり得るのだ。
さて、全てのお菓子を一通り見てきたことで、モヤモヤ感の輪郭はつかめてきた。しかし、じっくり観察すると、まだその奥行きは深い。