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はっけんの水曜日
 
憧れの定置網に逢いたい

漁に出たけどUターン

定置網の漁というのは、すでに網に入っている魚をあげてくる作業なので、別に早朝じゃなければダメというものではないのだが、魚を獲ってから市場でセリにかけて消費者へ届けるまでの流れを考えると、やはり早朝の作業となるらしい。

総勢27名の乗組員が、魚を入れる船や網をあげる船など何艘もの船に乗り込み、2マイル沖に設置された定置網へと向かっていく。2マイルって何キロだっけと、船舶免許を全然使ってない役立っていない男(私)は思った。


鰤丸(ぶりまる)という名前がかっこいい。
これから漁に出るというよりは、港湾工事で一仕事という雰囲気。

波も風も穏やか。絶好の定置網日和である。
そしてなぜか港へUターン。

真っ暗な海を定置網めがけて走っていたはずの船は、一度も止まることなく出発した港へと戻ってきてしまった。

これが風が強いとか雨が降っているとかの悪天候ならわかるのだが、この日は外房にしては珍しいような凪なのである。取材が早く終わったら午後から釣りに行こうかと思う程。

なにか定置網事態に大きな問題が発生したのかと不安になったのだが、漁撈長である坂本さんの話によると「潮が速すぎて網があげられない」という理由だそうだ。海流の早さは風や波の強さとはまた別次元のものらしい。なるほどー。

 

潮が収まるまで朝ごはん

海に出れさえすれば魚が獲れると思っていた定置網だが、まさか潮が速すぎると網があげられないとは。確かに細い釣り糸だって潮が速ければ流されるのだから、急流の中でちょっとした体育館くらいの広さがある箱網をあげるのは無理なのだろう。

不測の事態に再取材も覚悟したのだが、10時くらいには潮が緩むだろうということなので、朝ごはんをごちそうになりながら待たせていただくことにした。


いつもは海で一仕事してから食べる流れだそうです。
「本当は獲ってきた魚を食べさせてあげるはずだったんだけど」とのことだが、ゴマサバのスモークや手作りのサンマの丸干しも普段食べられないのでうれしい味。

 

もしここで働くとしたらという妄想

さてすでに定置網を持ちたいという夢物語は心の奥底にしまい込んだのだが、平均年齢が37歳と同年代といってもいい漁師さん達を見ていたら、だんだんと「もしここで仮に働くとするならば」という妄想が広がってきた。「所有したい」から「働きたい」への現実的な方向転換である。

そんな思いは隠しつつ、坂本さんに込みいったところをきいてみた。

漁師といってもここの定置網漁の場合は個人単位での水揚げではないので、給料は出漁日数に応じた固定給+水揚げに応じた歩合。そして家で食べる分の魚。やはり獲れた魚の水揚げ額が給料に直結するところが海の仕事っぽい。


神奈川からIターンしてきた釣り好きの漁師さん。ここに書くのが悔しくなるくらい(なので書かない)うらやましい生活ぶりを聞かせていただいた。
網を直している元気な元漁師のおじいさん達。

定置網漁は年中するのではなく、魚があまり獲れない時期は網を上げてメンテナンスに充て、漁をする期間は魚を獲ることに集中をする。働くべきところは働き、休むところは休む。そういうメリハリがあるのが漁師の醍醐味なのだそうだ。

最近世代交代の時期があったそうで、都会での生活とは豊かさの質が違う暮らしを求めていたサーファーや釣り好きなどが、県内各地、さらには県外からも集まってきて現在の乗組員を構成している。


そんな話をしているうちに、潮が収まってきたようです。

ちょっと声を上ずらせながら、「今は募集をしていないのですか?」と聞いてしまったのだが、人数が増えれば仕事は楽になるが歩合も減るため、今がちょうどバランスのいい人数なのだそうだ。

こういう仕事はきっと縁とタイミングなのだろう。さすがに本気で働こうと思っていたわけではないのだが(絶賛募集中といわれたら考えたが)、ちょっと悔しい自分がいる。もし人生が二度あるのなら、なんて考えたりした。


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