ドライブイン。2011年においてはノスタルジーさえおぼえるこの響き。 車窓を通り過ぎていく数々のドライブインを憧れの眼差しで見送っていた助手席の少年はぼくだ。 そんな追憶のドライブインに立ち寄った。
(櫻田 智也)
昔ながらのドライブイン
コンビニの普及が一番の要因だろうか、ドライブインを国道沿いで見かけることは少なくなった。市町村単位で増え続ける「道の駅」は、機能からすればドライブインと言って間違いないのだが、ドライブインという響きから思い描くものとは、かけ離れている感じがする。 ドライブインとは、もはや観念なのかもしれない。
いやいや、ドライブインは実在している。 以前より存在は知っていたし気にもなっていたが、敢えて立ち寄るという行為にはこれまで至らなかった。
2011年のドライブインはどんな様子なのか。 それ以前にちゃんと営業しているのか。気になりすぎる。
北のラスベガス
岩手県岩手町、国道4号線沿いに、郷愁の『川原新田ドライブイン』はある。 念のためインターネット上で事前に検索してみたのだが、得られる情報はあまりに乏しかった。
結局、所在地である岩手町のサイトの観光ページに辿りついたのだが、そこには衝撃の文句があった。
大変だ! 思わず妻を呼んだ。なにしろラスベガスと折り詰め弁当が同じカッコでくくられているのだ。 「北のラスベガス」「ラスベガスのムードで歌うスナックの夜」「驚くほどの新鮮さで評判のすしコーナー」「神聖な結婚式場」処理しきれない情報量に唖然としながら、「よし、明日こそドライブインに行こう」と、ふたりかたく手を握り合ったのだった。
まず外観を確認
というわけでやって来たドライブイン。まずは外観をチェックして相手の戦闘力を推察する。
このご時勢、ドライブインがそれほど流行っているとは思えない。だというのに、スナックにお寿司、しかも看板には「ホテル」とまで書いてある。果たして本当にフルで稼動しているのだろうか。 そのへんもつぶさに確かめていきたい。
メニューが豊富
おそるおそる入ってみる。広い。そして思いのほか(失礼)綺麗で清潔だ。 ドライブインという、ある意味で前時代的な存在だけに、どこか湿っぽい雰囲気が醸しだされているのではと危惧していたのだが、ぜんぜんそんなことはなかった。 厨房では5、6人のスタッフが忙しそうに動き回り、意外にも(失礼)活気に満ちていた。
なにはともあれ昼飯だとメニューをみたら、
ラーメン・カツ丼・カレーといった定番から、ジンギスカンにモツ鍋まで豊富な選択肢。 そのいっぽうで、
期待していた寿司コーナー、しかしそこに灯りは点っていない。 「あ〜、やっぱり寿司を握ってたのは昔の話なのか〜」と、ちょっとガッカリしながら店員さんに「お寿司はもうやってないんですよね」と訊ねてみたら、「いや、大丈夫ですよ」との返事。 お客さんがいれば店を開けるというシステムらしい。
ドライブインでお寿司! 興奮しながらメニューを再検討。
悩みつつ店の中を見回す。
氷川きよしの情報が貼られまくった座敷は家族連れに人気だ。
定番メニューも気になるところだったが、「お店で手づくり」と書かれていた『餃子定食』と『ハンバーグ定食』そしてお寿司から『納豆巻き』を注文する。
すると、
注文を受けて納豆巻きがつくられていた。生き返った(そもそも死んでない)寿司コーナーにひとり感動する。寿司だけ注文ということであれば、カウンターで食べることも可能なのだろう。
高価なチロルチョコ
テンションの上がったぼくは、普段なら絶対手をださないであろうゲームに挑戦することに。
100円で2ゲーム遊べて、しかも大量のチョコが手に入るらしい。これはやらなければ損だ。
大損やで壹岐くん!
食事
遊んでいるうちに料理がはこばれてきた。
この瓶が嬉しいじゃないですか。
失礼ながら子供時代の記憶により、ドライブインの食事というと「期待させといて結局のところおいしくない」というイメージがあったのだが、これは大いなる間違いだった。 餃子もハンバーグも納豆巻きも、とても丁寧につくられていておいしい。
聞けばオープンが昭和42年だという。さすが時代の荒波をくぐり抜け生き残ってきたドライブインだけのことはある。年季がちがうのだよ、年季が。
ダーツバー
店員さんが、「ダーツもありますよ」と勧めてくれた。
いっしょにダーツをやりはじめた同僚が「プロを目指す」と言って会社を去ってから5年。 あれ以来ダーツバーとは距離を置いていたのだが、
2ゲームやって初心者の妻に1勝1敗。あの時いっしょにプロを目指さなくてよかった。
とても気のいい柴田さんは調理師でもあり、先ほどの納豆巻きはこの方の手によるものだった。 「筋子定食」ってどんなのですか? と訊いたら、なぜかちょっと笑っておられた。
ダーツのほうは時々大会も開いているそうなので、腕におぼえのある方は来店して情報収集してはどうだろうか。
ダーツって飲みながら遊ぶのがいいんだよな〜。でも車で来てるしな〜。 そんなあなたには、
宿泊も
そう、宿泊部も常時営業中なのだ。 「泊まる人いるんですか!?」と訊いたら、いるのだという。長距離の運転手さんが利用することもあるし、ホッケーの合宿(ホッケーが盛んな町なのです)で団体利用するお客さんもあるそうだ。
「見せてもらえますか」とお願いしたら、「今はお客さんがいないので大丈夫ですよ」と、快く部屋のある2階へ案内いただいた。得意の上目遣いが効いたようだ。
昭和な雰囲気にいちいち感動してしまう。
食事がしたければもちろん階下のレストランで済ませられる。 お風呂も大浴場があるとのこと。
虎ですよ、奥さん。
食事にダーツに会話にと、とにかく楽しかった。とくに妻はそうとう面白かったらしく、帰宅しても「良かった」と言いつづけ、興奮しすぎて夜泣きしたくらいだ。さすがは北のラスベガスである。 建物が古いとはいえ、店内の雰囲気はとてもよく、急のお願いで見せていただいた2階も、実に綺麗で行き届いていた。おもてなしの心もまた、昭和のままということか。 これからも長く続けていってほしいと思う。