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ロマンの木曜日
 
日本最長の路線バス「新宮特急」に乗ってきた

バスはいよいよ紀伊山地の山道へ

五條バスターミナルでの休憩を終え、十津川村へ至る国道168号線に入ると、途端に周囲の景色は山のそれへと変化した。いよいよ、お待ちかねの紀伊山地へ突入である。


歴史ある五條の町並みを横切り、国道168号線を南へ進む
少し走ると、景色はもうこんな感じ

横を見ると、古めかしいアーチ橋が
しばらくすると、また大きな橋が国道168号線を横切った

道は細くなり、カーブも多くなり、徐々に高度を増していく。

ふと、窓の外を見てみると、一本の真っ直ぐな道路がこちらに向かって伸びていた。しばらく行くと、また同じような真っ直ぐな道路が、我々の行く道と交差している。

明らかに、国道168号線と並走しているこの道路。その正体は、大正から昭和初期にかけて、五新線という名の鉄道を五條から新宮まで走らせる計画があった、その名残である。

しかし、採算が取れる見込みが無い事から工事は中断され、結局鉄道が走る事は無かった。現在は、バスの専用道路として使われているそうだ(残念ながら、このバスは走らない)。


外の景色は、どんどん山深くなっていく
国道168号線もまた、蛇の道みたいになっていく

そんな感じでバスは延々走り――
12時少し過ぎに、上野地(うえのじ)バス停に到着した

この上野地でも、休憩を取るとのアナウンスがあった。今度は五條バスターミナルのトイレ休憩よりも長く、その停車時間は20分だという。乗務員の交代が無いこの新宮特急、おそらくは運転手さんの食事休憩なのだろう。

やや長い20分の休憩という事で、乗客たちはさぞ暇をするのだろうとお思いになるかもしれないが、心配はご無用。この上野地には、格好の暇潰しスポットが存在するのだ。


どーんと出ました、「谷瀬の吊橋」

対岸が遥か遠くに見えるこの吊橋は、全長297mの「谷瀬の吊橋」である。何でも、昭和29年に地域の住民が資金を出し合って架けたものだそうで、日本最長の鉄線吊橋なのだとか。


渡っているおじさんがいるが……
あ、途中で引き返してきた

険しい谷間を吹き抜ける風は相当に強く、二人がすれ違える程度の幅しかないこの吊橋は、その強風にあおられてたわみ、目に見える程上下に歪んでいる。

途中で引き返してきたこのおじさんは、橋の袂にたたずむ私に向かって「橋の中央は物凄い揺れるんだよ!揺れるんだよ!」と興奮気味にその恐怖を語ってくれた。

せっかくここまで来たので、ちょいと渡ってみようじゃないかと思っていた私を縮み上がらせる一言である。とは言え、吊橋に行きましたが揺れるのが怖いので渡りませんでした、で帰ってしまうと、それはそれで格好が付かない。


つまり、渡る以外の選択肢は無いという事だ

やはり物凄い風で、髪型もえらい事になっている
簡単に踏み抜けてしまいそうな床板。留め具も心許無い

ぐにゃりぐにゃりとのたうつ床板。人の力を越えた強力な自然の力で、強制的に足元が押し上げられ、また引き下げられるという感覚に、本能的な恐怖を覚える。

先のおじさんの言うとおり、橋の中央に行くほど揺れは強く、なのにワイヤーの背は中央に行くほど低くなり、上下に蛇行する橋から投げ出されてしまうのではないかと足がすくむ。安全であるからこれまで残っているのだと頭では理解していても、命の危険を感じる状態であった。いやホント、誇張無しに。

何とか吊橋を渡り切ったものの、思った以上に時間を消費してしまった。急いでバスに戻ると、既にエンジンは動いており、私が乗り込むと同時に出発した。この休憩で谷瀬の吊橋を渡る際は、常に時間に注意して、余裕をもった方が良いだろう。さもないと、置いていかれることになってしまう。


新宮特急は再び十津川の谷間を行く
鮮やかなブルーの湖が美しいですな

滝なんぞを横目に見たり
対向車とすれ違う脅威のテクニックを見ながら、バスは進む

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