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ちしきの金曜日
 
知らない人を「おかあさん」と呼びたい

そもそも「おかあさん」とは何か?

広辞苑によると「おかあさん」とは

子どもが親しみと敬意をこめて母親を呼ぶ語。子ども以外の者が、子どもの立場で、その母親を指していうことがある。

とのことである。実の息子でない者が実の母でない人を「おかあさん」と呼ぶのはおかしいことではないのだ。そう、べつに普通のことなのだ。

…なんてページまたぎで葛藤している場合じゃないぞ。呼ぼう。


「お、お、おかあさ〜ん。豚キムチください」

するとおかあさんは「ハーイ」とだけ言って奥の厨房に引っ込んでしまった。照れてるんだろうか?


「ハーイ、豚キムチおまたせ〜」

しかし次の瞬間、僕の目に飛び込んできたのはおいしそうな豚キムチとおかあさんの優しい笑顔。お、おかあさん…。


「ありがとう、おかあさん」
おかあさんの豚キムチはうまい

ぐっと縮まる距離感

一度呼んでしまうとタガが外れ、やたらと「おかあさん」を連呼してしまう。

「おかあさん、この店は長いんですか?」

「おかあさん、このお米はどこで採れたんですか?」

「おかあさん、キラーカーンはよく来るんですか? (※キラーカーンのポスターがやたら貼ってあった)」。


キラーカーン氏も足しげく通うらしい

つい嬉しくなっておかあさんに色々質問してしまうのだ。おかあさんにかまってほしくて仕方なかった幼少時代の気持ちを思い出す。

不思議なことに「おかあさん」と呼べば呼ぶほど僕のおかあさんに対する親近感は増していく。そして、当のおかあさんもまんざらではない様子である。


「おかあさん!」「なあに?息子」

僕は対人スキルが高いほうではない。基本的に初対面の人と話すのは苦手である。そんな僕がおかあさんとすぐに打ち解けることができたのはひとえに「おかあさん」という言葉がもつ魔力によるところが大きいだろう。

おそらく「おかあさん」と呼ぶことで自分の心のシャッターも開放されているのだ。それが伝わるからこそ、おかあさんも心を開いてくれたのだろう。

「おかあさん」を「ママ」と呼んでみる

さらにおかあさんの懐に飛び込むべく、もう一歩踏み込むことにしよう。おかあさんを「ママ」と呼んでみるのだ。

「ママ」

改めて口に出して言ってみると、かなり甘えた響きだ。「おかあさん」よりぐっと踏み込んだ雰囲気がある。

しかし今の僕とおかあさんならそれも許される気がする。


(元気よく)「ママ、おかわり!」
「…」

少しの沈黙。一気に距離を詰めてきた息子に対し、おかあさん的にも思うところがあったのかもしれない。


「はい、おかわりだよ〜」

だが、おかあさんはとびきり優しい笑顔で、てんこもりのご飯をよそってくれた。どうやら受け入れてもらえたようだ。

その後もおかあさんは「お茶飲むかい?」などと世話をやいてくれる。

まるで実家にいるような居心地のよさだ。おかあさん、今日泊まってっていいすか?

リスクの高いチャレンジだったが、思い切って「ママ」と呼んでみてよかった。


ごちそうさまでしたおかあさん

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