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ロマンの木曜日
 
西表島でサソリ探し
毒針の恐怖。

サソリが好きだ。一度野生に暮らす彼らの姿を見てみたいと思っていたが、外国の砂漠やジャングルなどへ出向かなければ叶わないと半ば諦めかけていた。

ところが、なんと日本にもサソリがいるらしいという情報を耳にした。生息地はヤマネコで有名な西表島である。
ぜひ一度お目にかかりたいと上陸したのだが、さすが「東洋のガラパゴス」と称されるだけのことはある。サソリだけでなく様々な生物と対面することができた。

平坂 寛

編集部注:
筆者の平坂さんは大学院で生物学を研究しており、専門知識があります。そうでないかたはむやみにサソリに刺されないようにしてください。


野生の楽園、西表島へ

羽田空港から那覇へ約2時間、さらに那覇空港から約1時間かけて石垣空港へ飛び、石垣港からフェリーで1時間波に揺られてようやく西表島に上陸した。

さすがは南の島、第一に海の美しさが目に留まる。薄く緑の乗った澄んだ青がまぶしい。遠くに見える山々も青々として生命感に満ち溢れている。リゾート地としては石垣島ほど名が知れていないが、それに勝るとも劣らないほどに魅力的だ。それともリゾート化が進まないからこそ豊かな自然が残されているのだろうか。


船着場にて。港とは思えないほど水が澄んでいる。

宿に荷物を置き、早速山へ向かう。


天気に恵まれたのは幸運であった。雨の中の山歩きほど辛いものはない。

馴染みのない植物たちがうっそうと茂っている。まるで東南アジアのジャングルのよう。

背の高いシダなど、いかにも熱帯といった佇まいの植物が生い茂っている。森の中は気温だけでなく湿度も高く、うっすらと漂う不思議な甘い香りが鼻腔をくすぐる。植物そのものが発しているものだろうか、おそらく蒸された土と落ち葉の匂いも混ざっているだろう。都会、というか日本本土では味わうことのできない、とても心地よい空気だ。心も体もリラックスさせてくれる。それでいて南の島に来たのだなあという実感をもたらし、どんな生き物と出会えるか胸を弾ませる。

ただてくてくと歩を進めていくだけで、実に多種多様な生き物を目にすることができる。その多くが日ごろ見慣れているものとどこか雰囲気を異にしている。


小さなイグアナのようなサキシマキノボリトカゲ。
ナナフシの一種。 木の枝にそっくり。

オカガニ。甲羅が握りこぶしほどもある。
イリオモテモリバッタ。トロピカルな配色。

うーん、トロピカル!次から次へ変な生き物が現れてくれる。僕は珍しい生き物と出会うことにこの上ない喜びを覚える人間なので非常に楽しい。

肝心のサソリについて事前に本で調べたところ、彼らは山中の湿った場所にある岩や枯れ木の下に潜んでいるらしい。
というわけで、林床に転がっている石や倒木を手当たり次第にひっくり返して探し出すことに。


ひっくり返しては
戻し、

ひっくり返しては
戻し、

ひっくり返しては
戻す。

ひたすらひっくり返しては元の位置に戻す。延々この作業の繰り返し。

とそのとき、沢沿いの石の下から黒い影が飛び出してきた!


サソリか!?
サソリじゃない。

サソリっぽいけどよく見るとサソリじゃない。尻尾の形がサソリのそれと違う。足もなんだか異様に長い気がする。
この虫はその名もタイワンサソリモドキ。サソリの遠い親戚に当たる生き物だ。サソリではないものの、こちらもぜひお目にかかりたかった生き物ではあるので大変嬉しい。

 

毒はないけどくさい

虫に詳しい知人に聞いていた話によるとこのサソリモドキという虫は、サソリのような毒針を持たない代わりに、捕まえられると身を守るために嫌な臭いを出すのだという。
そんな面白そうな話を聞いては黙っていられない。早速チャレンジすることに。


捕獲してテイスティング。

ぉおおおおお!!!鼻の中がえらいことに。

くっさああああああ!!というか痛い!鼻の粘膜が悲鳴を上げる。目にでも入ったら大変なことになっていたに違いない。

何だこれ!?まるで濃縮したお酢を霧吹きで顔面に吹き付けられたような刺激臭。

それもそのはず、この臭いの正体は高濃度の酢酸であり、海外でこの虫は「ビネガロン」と呼ばれているらしい。なんと嫌な名前だろうか。


一度臭いを出し切ってしまうと再充填に時間が掛かるらしく、素手で触っても全く無害。

その後もこのサソリモドキは多く目にするものの、本命のサソリは一匹も見つけることができなかった。


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