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ひらめきの月曜日
 
鳩ヶ谷ソース焼きうどん紀行

 

大塚 幸代



春ですね。

実は3月11日、高知のイベント「土佐のおきゃく」に行く予定だった。

当サイトの記事の企画で、本当に久々の遠方取材だった。すごく楽しみにしていて、気合いを入れていた。

出かける準備をしてから、通っているお医者に行って、調剤薬局で薬を待っている途中に地震が起きた。ビルが揺れてバババババと音がした。ガラスケースから商品がぼとぼと落ちた。白衣のお姉さん達と一緒に、近くの広場に避難した。数時間後、徒歩で帰宅したら、部屋の本棚が崩壊していて、本が散乱、炊飯器も床に落ちていた。呆然。

とりあえずバスと飛行機のキャンセルの電話をした。全くつながらなかった。結局、発着中止になったので、全額返金されたのだけれど。

テレビをつけて、被害の規模を見て、また呆然。週末への高揚した気分が一気に急降下した一日だった。
ちなみに目的だった高知のイベントも、中止になった。


ああ、鳩ヶ谷。のっぺりして広い風景。でも実は、私の地元よりは都会(!)。

同行してくれた友人と一緒に、とりあえず、駅前にある、そば・うどんメインの居酒屋「喜連川」へ。


赤い暖簾が目印。

その日は、雨が嵐のように降ったり、晴れたりして、変な天候だったせいか、営業時間のはずなのに「準備中」の看板が…。
無理矢理「すいませ〜ん」と入っていくと、「え、こんな天気の中に新しい客が?」という顔で、席に案内してくれた。
隣席では、年配の男性が、ゆっくりゆっくり、カレーライスを食べていた。そば・うどんの店なのに。


目玉焼き付き、というのは、特に「鳩ヶ谷ソース焼きうどん」の特徴ではない。各店で勝手にアレンジしているらしい。

ソース焼うどんひとつと、瓶ビール1つを頼む。
食べ歩き取材の時は、毎回、こうしている。お店の迷惑にならないように、人数分の品は頼むけど、おなかが一杯にならないように工夫する。

「食べ歩きを推奨してるB級グルメは、ハーフサイズを作ればいいのになあ」といつも思う。

店内を見回すと、ディズニーグッズで一杯だった。というかディズニーと民芸品が並んでいた。別に嫌じゃないけれど、やっぱり弛緩する空気だなあ、と思っていると、焼きそばが出て来た。


どどーん。目玉焼き付き。そしてなんだか量が多い!

「焼うどん」って元々、飲んだ後のシメとか、「ついで」に食べるようなメニューだ。
でもそれをメインアクトとして本気で作ると、やっぱり違う。本気な感じが美味しい…!
麺がもっちもち。焼きそばと違って、麺の感触を楽しめるところがイイ。
マヨネーズ、紅ショウガも効いていた。
わかめスープも付いて来た。スープの味がうどんの汁っぽい味だったので、普通のうどんはこんな味なんだな、と想像した。


次に行ったのは、お肉屋さん「肉の加藤」。
地図を見たら、そばに学校があったので、普段はそこの生徒が食べているんじゃないかな…と思って行った。学生のいる場所に、B級グルメの真髄アリ。
なんとかギリで徒歩移動出来る距離だったのだが、やはり遠かった。友人がいたので間がもったが、一人でとぼとぼ歩いていたら、かなりせつなかったかもしれない。車道はびゅんびゅん走ってるけど、歩道に人がいないのです。
もし本気制覇するのであれば、車かスポーツ自転車が必要だと思う(ちなみにソース焼うどんを提供している店は、約20店舗ほどある)。

店をのぞくと、誰もいなかった。「すいませ〜ん」と声をかけると、おかみさんが奥から出て来た。
「ソース焼きうどんが欲しいんですけど」と言うと
「食べ歩きしてるの〜?」と言われた。


雰囲気のある店。お惣菜もたくさんあった。

ちゃんと、食べ歩きしてる人、いるのか…と思いながら「ハイ」とこたえる。
「でも、昼間営業してるお店が少なくって残念です。エヘヘ(ソース焼うどんを実施している店は居酒屋が多い)」と笑ってみせたら
「そうよねえ〜。あ、いまウチ、(学校が休みの日だから)作り置きがないのよ。作るから、ちょっと待ってね」と、折りたたみイスを渡された。
トントントン、と聞こえてくる包丁の音。
知らない町の肉屋さんの店先で、ちょこんと座る、友人と私。しばらくして、
「ハイ、700円!」女将さんは、ずしっと重い2人前を、私たちに渡した。
1人前350円。安いけど、2人前は頼んでないつもりだったのだけど、そりゃ2人いれば2人分作っちゃうよね…と、700円払った。

食べる場所がないので、駅まで戻って、ベンチで食べた。


これが「肉の加藤」のソース焼きうどん、350円。

やっぱり量が多い。片手に持つと、かなり重い。
そして、さすがお肉屋さん。肉片がでっかくて、しっかりしてる。「肉、噛んでまーす」という食べごたえがある。
麺は、出来合いのものを使ってるのか、もちもちはしてなかったけど、350円でこのコストパフォーマンスは素晴らしいだろう。
友人は「これ、会社の近所にあったら、昼ごはんにしてもいいなあ」と言っていた。
しかし、お腹がふくらんだ…。

最後はうどん専門店、「卯どん亭」へ。
一駅乗って、1キロ歩かないと到着しない店だったのだが、天気の悪さを考慮して、タクシーで移動。
B級グルメを食べるとか、酔狂なことをするためにタクシーで移動するのって、初めてじゃないけど、毎回「こんなことしてて、いいのだろうか」と悩む。


車じゃないと来れない感じのお店、「卯どん亭」。大宮にも支店アリ。

このお店は「濃厚泥ソース」が売りらしい。そのせいか「ソース焼うどん定食」という、炭水化物フェスティバルな定食も存在する。

麺の量が多い。しかもライス無料。

幅広のかつおぶしがかかってた。店によってトッピングが違いますね。

麺が太く、しこしこだ。ものすごい噛みごたえ! うどん本体が美味しい。
「鳩ヶ谷はうどん自体が美味しい」というのは、本当なのだろう。
そして味は濃厚。「ごはん無料」っていうのも、理解出来る。私はうどんとごはん、同時には食べられないけれど。


看板メニューの「あつもり肉汁うどん」も小盛りで食べてみました。ええと、正直に言いますと、ソース焼うどんより美味しかったです…。

埼玉もいいけど、遠くにも行きたい

鳩ヶ谷ソース焼うどんは美味しかった。ブルドックソースを使うという以外はルールが無いいらしく、コッテリしてたりアッサリしてたり、トッピングも決まりがなかったけれど、美味しかった。
ソース焼きうどんってライバル少なそうなジャンルで、いいなあ、一人勝ちなのでは…と思って調べてみたら、福岡の「小倉発祥焼うどん」があった。焼うどん発祥の地で、ルールも厳密で、気合い入ってる感じだった。
でも埼玉の人って「ああ、小倉がそうなんだ。そっかー。ウチは歴史があんまりないからねえ。」と、あっさり一歩引きそうだ。イオンと鉄塔しかない埼玉の人の心は、地元アイデンティティが強くなくて、優しい。多分。

鳩ヶ谷取材のあと、近隣のイオンで行われていた「タイフェア」というイベントに行ってみた。イオン店内で、代々木公園で行われている「タイフェス」のミニチュア版が展開されていた。
外の屋台にビールが売っていなかったので、(個人の責任で)酒売り場でタイのビールを買って、タイ料理をつまんでいたら、3人くらいの大人に「そのビールはどこで買ったんですかっ!?」と訊かれた。素直に教えた。そりゃ、タイめしにはビール、飲みたいよね。

ソース焼きそばも楽しかったけど、外で飲むビールが、その日、いちばん美味しかった。子供がディズニーやアンパンマンのライド(手押し車)に乗っているのを、ぼやーっと眺めた。まともに結婚して、埼玉に住んでいたら、こういう幸福もあったのかなあ、と家族連れを見ていた。
本家、代々木の「タイフェス」は、毎年、ゴールデンウィークの最後に開催するのだが、今年は震災の影響で中止。私の年に1度の楽しみが中止…。

当サイトは「ディスカバー近所」がひとつのテーマとして存在していて、近くの面白いものを再発見して楽しむ、というのを推奨している。
確かに「ソース焼きそば」は美味しかった。遠くから来た人がコレを食べたなら、ちょっと感激するかもしれない。
でも、やっぱり。でもやっぱり。遠くに行きたい。
この春、たくさんの人が、たくさんたくさん我慢しているのは知ってる。でも何故か埼玉でビールを飲むまで、東京にいる自分も、こんなにストレスが溜まっているとは、自覚がなかった。結構平気なつもりでいたのです。
ああ、イベントや祭りが中止だらけの日々は、本当に寂しい。
精神的に遠い場所に行きたい。東京都内の、今まで全く行かなかった区や町でも、千葉でも栃木でも。同じ移動時間かかる場所でも、故郷方面と、それ以外の方面とでは、心持ちが違う。
違う価値観で動いている町を、そろりそろりと手探りで歩いて、
そして、そこの地元の「ソース焼きうどん」的なサムシングを、食べてみたいのです。


お持ち帰り用のソースも売っていた。でも1リットルってデカいよ重いよ! もっと小さいサイズで売ったほうが売れると思うよ…。

 


 
 

 

 
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