デイリーポータルZロゴ
このサイトについて


ひらめきの月曜日
 
バッチこい!凶みくじ

脱凶おんな目指して(小堺編)

寝正月を満喫していた夜、小野さんから着信があった事に気づいた。

ぼんやりした頭で電話をかけ直してみると、嬉しそうな声で「明日おみくじの凶を引きに行きませんか」との縁起の悪い誘いだった。

正月早々なぜそんな事をしなければいけないのかと聞くと、なんと今までに一度も凶を引いた事が無いという。
そんな人もいるのか!


そんな人


思い出す、3連続凶を出した夜

(回想)数年前のこと。当時勤めていた会社の定例会議で、社長がえへへと変な笑みを浮かべながら突然「俺、辞めるわ」と衝撃の告白をした。冗談かと思ったらそうではないらしい。私は動揺を抑えようと、退社後に浅草のバッティングセンターに向かった。


動揺でぼけるつけ麺


別にうまくもないバッティング、それでもブンブン振り回している間は何も考えなくていい。しかし鈍った体のためすぐに限界が来た。ボンヤリしながらつけ麺を食べに行ったあと、浅草寺にお参りに向かった。

そして、何とはなしに隣にある無人のおみくじを引いた。凶だった。縁起が悪すぎる。もう一回引いた。凶だった。もう一回引いた。凶だった。


一人で結んだ3凶みくじ


後ろでカップルが吉を引いて喜んでいる。このやるせなさ、共有できる人はいない。一人で3枚の凶の紙を結び、うなだれて家に帰った。半年後、会社は無くなった。

それ以来、自ら積極的におみくじをしなくなった。そこまで信じている訳ではないが、あの落胆をわざわざ味わいたくなくなったのだ。


その時に見た月


凶を引くところを見届けてあげよう

そんな私の苦い思い出も知らず、無邪気に凶を引いてみたいと言う小野さん。そんなに凶を引きたいなら引いたらいい。いざ凶を引いた時の落胆を少なからず味わっておくべきである。

そして私はその姿を見届けたあと、肩を叩き「気にしない!」と励ましてあげよう。
電話で行きます、と返事をした。



凶スポット1:柴又帝釈天


凶を引きたくてたまらない小野さん
100円玉をたくさん用意しているところに意気込みを感じる

最初に向かったのは柴又帝釈天。小野さんは寅さんやキティちゃんおみくじには目もくれず、行列をなす昔ながらのおみくじ所に向かった。

引いてみると末小吉。「納得いかないなあ」と不満げ


末小吉という、良いんだか悪いんだか分かりづらいものを小野さんは引いていた。しかし凶ではない時点で明らかに不服そうな顔を見せる。

ちなみに私は「よろず良し」の吉であった。やった、素直に嬉しい!


その後小野さんは地面に落ちているおみくじを拾って、
「凶だ!」と喜んでいた。求めていたものを初めて見た時の表情はこんな感じなのだろうか

他人の凶に対しここまで興奮する小野さん。いったい自分が引いたらどうなってしまうのだろうか。

次のスポットは、私の忌まわしい過去がある浅草寺に行くという。浅草にはしょっちゅう行っているがあれ以来ここでは引いていない。



凶スポット2:浅草寺


凶を引いてしまった人々(反応で分かるのだが、本当に多い)を目ざとく観察し
期待を高める小野さん

写真だけを見ていると、普通におみくじを引くお正月の風景だ。この笑顔を見て、まさか他人が凶を引いて悔しがっている姿を羨んでいるとは誰も思わない。


100円を握り締め、凶受け入れ態勢は万全

しかし小野さんは小吉。残念そうだ

そして私は凶だった・・同じガッカリでもやっぱり違う。嫌だ!


羨ましそうに見る小野さんをよそに、すぐさま列に並んでもう一回引きに行く。すると今度は吉が出た!ああ良かった・・ズルだけど。

ちなみに小野さんも凶を出すべく再度引いていたがまたしても末小吉。凶まであと一歩なのだがなかなか達せない。


末小吉じゃ満足できないんだ俺は!


「納得いかないなあ・・」と柴又と同じセリフをはいていた。



凶スポット最後の舞台:赤坂 豊川稲荷

きちんと凶が出てるかチェックするところから

こちらのおみくじ所は他の凶スポットと違い、そんなに並ぶ事もなかった。
自分は吉。3箇所行って吉が3つ、凶が1つならまあ良い結果だろうと胸をなでおろす。

あとは小野さんが凶を引けばいいだけ

そう、あとは小野さんが凶を引き、少しでも悔しい思いをすればこの企画は成功である。はたして凶を出すことはできるのか?

最後は気合も違う。体全体を使って筒を振る小野さん

しかし吉。「なんで〜?!」と不満全開の表情だ


このままでは帰れないよねと、あと何回か引いてみる事となった。最後の悪あがきだ。


「神様、次は凶出してくれるよね?」
2回目:思いは届かず吉

「何で出てくれないんだよう!」
勢いあまって棒を落とす。罰当たりなことをワザとして凶を出そうという算段かもしれない。

3回目:吉。少々ご立腹だ。
本当に凶あるのかなあ?と疑い出す小野さん

4回目:悲しみの吉
また棒を落としてから・・(注:ワザとではないです)

5回目:やっぱり吉。 小野さん、もう帰りましょう。




あの時の私と同じ気持ちじゃないのか

棒を落とす勢いで躍起になって凶を出そうとおみくじを振り回し、毎回吉を出す(けして大吉は出ない)成人男性を前に徐々に可哀想だな、という気持ちが芽生えてきた。

形は違えど、あの時私が吉の字を欲していたように、小野さんは凶がどうしても欲しかった。でも叶わなかった。

最初は凶が出た時のガッカリ具合を知ればいいと思っていたのに、最後は頑張れ!というエールに変わっていた事に気づく。そして自分が凶を引いた事への優越感さえ湧いていた。まさかそんな気持ちになるとは・・ありがとう小野さん。

吉男の小野さんを結婚式に呼ぶと家庭円満になるとかならないとか・・


写真クリックで、続いてのページへどうぞ。

運命を切り開け!小野編へ
<もどる ▽この記事のトップへ  
 

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ
個人情報保護ポリシー
© DailyPortalZ Inc. All Rights Reserved.