久しぶりに釣りにいってきたので、 部室である冷蔵庫から、くさや汁の入ったタッパーを取り出してみる。 蓋をあけると、昔どこかで嗅いだ事のある匂いがした。
ワインの香りや味を表現するのに、ソムリエはあらゆる言葉を駆使するが、 もし私がソムリエで、このくさや汁の香りを例えるのならば、 「小学生の頃、とってきたザリガニを無知のまま飼おうとした一ヶ月後の水槽の匂い」と、 饒舌に語ることだろう。
母親に怒られたあの夏の日が、とても鮮明に思い出された。
しばらくほったらかしにしたために、変な発酵をしてしまったのか、 あるいは久しぶりに嗅いだ香りに、鼻がびっくりしたためか、 とにかく鳥肌が止まらない。
たぶんこの汁を使ってつくった干物を、なにもいわずに出されれば食べられると思うのだが、 自分で食べるものをこの汁に突っ込むのには、鋼の意志と、将来を捨てる覚悟が必要だろう。
この香りを乗り越えてこそ、その先に本物のくさやがあるのかもしれない。 しかし、「これは食べたらいけません」という、自分の素直な直感を信じて、 鼻をつまみながら、また流しに捨てた。
そしてぼくはあきらめた。 ( 2010/02/08 14:20:00 )
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