美しき夫婦愛
「なんでタコなんですか?」
一人で店を切り盛りしている、60代とおぼしき女将さんの手があくのを待って聞いてみた。
「うちのヒトがねー、好きなんですよ、タコ。それでいろいろとメニューを考えているうちに、こんな風変わりな店まで出してしまって…。物好きでしょう?」
…美談だ。まさかこの店が、そんな理由で始まっていたとは。
しかもそれを「物好き」と言ってのける女将。照れ隠しかもしれないが、ものすごくデキた女性に違いない。つくづくダンナさん(仕入れ担当)は幸せ者だ。
「なにが一番大変って、やっぱり下処理ですねぇ。よーく揉み込まないと硬くてだめなんですよ」
ほっそりとして上品そうな女将も、たまには「このやろう」などと言いながらタコ相手にストレスを発散させたりするのかしら…、だとしたら仕事的には相当はかどるよな…と、どうでもいいことを考えながらタコをつまむ。
酒がすすみます。 |