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コネタ


コネタ125
 
富士山に抱かれた銭湯

町のちいさな商店街を自転車で通ったら、銭湯があった。それだけなら普通だが、屋根に富士山が乗っている。後日、手ぬぐいと石けんを持ってお湯につかりに行ってみた。

上泉 純


こんな風になっている。後ろに回ってみたら、厚みはなく舞台の大道具のように板に富士山が描いてあるようだった。自転車を停めて早速中へ。

番台にはおばあちゃんが座っていた。入浴料の360円と洗髪料10円を払い中に入る。中にはお客さんが一人。扇風機の風がよくあたる長いすの一角をステテコスーツ風の白シャツ上下を着たおばちゃんが陣取っていた。

「…あそこの店はようなじまんわ。お豆腐ひとつ買うんに並ばんといかんもん。」(私はあそこの店があまり好きではありません。何故なら1つの豆腐を買うために、並ばないといけないからです。)とぼやいている。

話の内容と同様に、銭湯の内装、備品も非常に21世紀っぽくなかった。


鏡のまえに丸っこい水槽があってメダカが入っている。
男湯と女湯を分ける壁の上部が柄入りすりガラス。「菊花の群像」昭和27年作。
ぶらさがり健康器がある。
ウエストぶるぶる器がある。(ボディバイブではなく体重計のようなものの上に立ってベルトをかけるタイプ。正式名称「ベルトバイブレーター」らしい。)
マッサージ椅子が横に大きな円形のハンドルが付いているタイプだ。
みかん水、ニッキ水を売っている。
シャワーが固定式
上がり湯用の水槽のふたが木製で、上がり湯用の桶も木製。

インターネットで記事を書いているものですが、写真を撮らせて下さいと頼んだら、「そんなん撮ってもらうほどのモンあれへんわ。何撮るんな?こんなおばちゃんの銭湯なんか撮ってもしゃあないで。ぼろいで。」(撮ってもらうほどのことはありません。)とのことだった。が、屋根の富士山はちょこちょこ人が来て撮影しているという。

「そやそや、池あってんで。あれ見て帰り。」(そういえば池がありました。それを見ませんか?)と言い、番台のおばちゃんは男湯へつづくカーテンを開けて案内してくれた。人生初の男湯潜入である。


その池とは脱衣所の一角が大きなガラス戸になっており、その向こうが石で囲まれた池になっているのだった。今は水が入っていない。

「昔はよーけお客さんが来てくれとったから池に水張って、水車回しとったんや。鯉も飼うとってんで。それが震災の時みんな死んでもうてな。それから水入れてへんねん。」(以前はお客さんも多かったので、池に水を入れて水車を回していただけでなく、鯉も飼っていました。しかし、阪神大震災のときに全て死んでしまい、それからは水を入れることもなくなりました。)とのことだった。

「きょうびな、ワンルームマンションやアパートかてお風呂付いてるわなぁ。」(最近ではワンルームマンションやアパートにもお風呂が付いてますねぇ。)ということで、お客さんは少なめなようだった。

帰りしなに「なんで富士山が乗っかってるんですか?」と訊いてみたら、「そんなん死んだじいさんに訊かなわからんわ。」(今となっては亡くなってしまった祖父に訊いてみないとわかりません。)とのことだった。

こんな高層ツインビルの近所にあります。





千代見湯

 

大阪市港区弁天


 

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