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コネタ


コネタ183
 
ラテカセとソロカルをめぐって

そのお店は足立区にある。JR赤羽駅からバスに乗って30分ほど揺られていくと、気がつくとそこはもう“東京”というよりも“郊外”といった方がしっくりくるような風景に変わっている。
バスを降り、なんとなく全体的に色褪せたような独特の寂寞感を感じさせる町並みを進んでいくと、その店はある。店名は「デザインアンダーグラウンド」。70年代の家電をメインに扱うショップ、と書くと、ちょっとありがちな感じがするけど、お店の外観をみれば、他にはない魅力がすぐに伝わるはずだ。まずは写 真をお見せしよう。

宮崎 晋平

お店の外観。メカ好きならこれだけでテンションがあがろうというものだ。

入り口から店内を覗く。見渡す限りラジカセの山だが、左手には70'sなTVも。

店内の様子。天井までぎっしりとラジカセが詰まっている。

棚に収まりきらないラジカセたちが通路を占拠し始めている。

さて、観て頂ければお分かりの通り、なんだか凄いことになっている店内。いったいこのお店のオーナーはどういう人なんだろう? ということで、このお店のオーナーに、お話を訊かせてもらうことにした。




オーナー・松崎順一氏。
上の写真にも写っている、氏のお気に入りの機種『ザ・サーチャー』。氏曰く「ポータブルオーディオの中でも随一の低音が魅力」。四連のスピーカーは、ラジカセでは唯一だとか。
この機種は『ジャッカル』。ラジオ+テレビ+カセット=ラテカセ、という当時の技術を結集して造られた一台。「70年代の傑作のひとつ。前面 に全てのインターフェイスが凝縮されているのが魅力」だそう。
『V2』という機種。ラジカセなのにレコードプレイヤー内蔵(マウスオーバーで画像が変わります)。
ラジカセ発売当時のカタログももちろん常備。

足立区に開店した理由

このお店のオーナーは、松崎順一氏(42歳)。今からちょうど一年程前にこのお店をスタートさせたのだという。それまでは22年間もの間、ある企業でハウスデザイナーとして働いていたのだが、「40歳も過ぎたんで、いまのうちに好きなことをやっておかないとカラダが動かなくなると思って(笑)」開店を決意したという。しかし、なんでまた足立区なんだろう。

「店舗を足立区にしたのは基本的には深い理由はないんです。足立区が地元なんで、地元を盛り上げたいなっていうのがひとつあって。この辺って、面 白いところが少ないんで、村興しというより街興しみたいな(笑)。
高円寺とか下北沢のトレンドに強いところでやるのもあんまり面白くないっていうか、逆になにもないところから立ち上げて、そこを軸にして色々と盛り上がっていけばいいかなって。」

70's家電の魅力とは

 氏は、元々7〜80年代の家電の持つ「機能美ではない、それぞれのデザイナーが非常にこだわったデザイン」が大好きで、個人的に収集もしていたそうだ。その趣味が高じて、このお店を開店するに至ったのだという。

「僕が求めているのは、“いかに無駄なデザインをしているか”っていうことなんです。」
そういって笑いながら、氏はその頃に造られた家電の持つ、デザインの魅力について蕩々と語ってくれた。

「例えば“2000年にはこうなっているだろう”とか、未来をその人なりに予想して、これが格好いいデザインなんだ!! って主張したりして。そういうのが随所にみられたりとか、余計なモノがついていたり装飾が派手だったり、オリジナリティがすごくあるんです。」
「世間から見捨てられたものを、うちで再生して復活して世の中にもう一度アプローチしていけたら面 白いかなあと思って、そういう想いもあって始めたっていうのもありますね。」

採算度外視の経営方針

 置いてあるラジカセの価格は平均して5千〜1万円が主流。相場のおよそ半額くらいで販売しているが、実際にラジカセの中をあけて必要な場合は部品を交換するなど、可能な限り手入れをしているので、儲けはあまりでないんだそうだ。
「ちゃんとレストアして売ってるところって、他ではあまりないと思います。動くモノってもうほとんど残ってないんで、うちで直してから売ってるんで。だから、あんまり儲からないんですけどね(笑)」。
 それでよく経営が成り立っていると思うが、その評判は評判を呼び、中には静岡から新幹線で来店した人もいるという。
「うちは広告は一切打たないことにしてるんです。結局こういうのが好きな人って、自分で探してくるんで。」

現在のメイン商品はラジカセだが、それ以外にも「プロダクト的、デザイン的に面白いモノならなんでも扱う」という店内をよくみると、本当に様々なものが目につく。
 そんな中でも一番の目をひいたのが、下に挙げる写真の商品である。


画期的!そろばん+電卓=そろばんカリキュレーター!!

この商品は、その名も『ソロカル』。なんのひねりもない安直な名前がさすがに時代を感じさせるが、「これは出すところに出すと結構するんですよ」と松崎氏はおっしゃっていた。そんな、当時の技術を結集して造られたこの『ソロカル』。電卓とそろばんが一体化した画期的商品だが、そろばん部分と電卓部分はもちろん連動していない。存在意義の全く分からない逸品である。

しかし、この『ソロカル』を持ってしても敵わないものがあるとしたなら、それは一体どんなものなのだろう。ちょっと考えただけでは到底分からないような難問に対するアンサーが、このお店の中にすでに用意されていたのだった。


謎のプレートたち。なんてコメントすればよいのかもうよく分かりません。

もはやここがナニ屋さんなのか分からなくなってきたが、少なくとも王様のアイデアではなかった筈だ。それなのに、このプレートはいったい何なんだろう……。

実はこのプレート、松崎氏が冗談のつもりで制作したもの。冗談と言っても本気度は高く、普通 の看板などをつくる手法で造られているらしい。しかし、なかなかこの冗談は理解されにくいらしく、購入したのは今年に入って筆者が初めてとのことだった。

「 このお店は、プロセスとしてはまだ途中なんです。僕としては、昔のものをインスピレーションの材料として、それを土台に今の現代に合うプロダクトを作っていきたいっていうのがあるんですね。例えば、オリジナルのラジオとかラジカセとか。後は、それを取り巻く環境。僕はインテリア・デザイナーだったんで、机だったり照明だったり家だったり。そういうデザイン全般 を、70〜80年代のデザインにヒントを得て、新たに作っていきたいんです」。

そんな風に語る氏の顔は本気だったが、このプレートをみる限りでは進むべき方向を見誤ってる可能性がいささか高いということは、この際黙っておこう。




昔の対戦型ゲーム機。インテリアにも最適。
カラーとロゴが時代を感じさせる。
製品を手に、本当に愉しそうに説明してくれる松崎氏。製品を手に、本当に愉しそうに説明してくれる松崎氏。

マーケティング的な手法が全盛の昨今、ここまで素直に「好きだから」というただそれだけの理由で、22年間も勤めていた会社をあっさりと辞め、それまでの地位 を捨ててまで自分の好きなことを始めるなんて、そう簡単にできることじゃない。こういう言い方は失礼に当たるかもしれないが、40歳を過ぎてからなんて尚更のことだろう。

しかもそれが、今ではほとんど誰にも見向きもされなくなってしまった、廃棄寸前の家電に対する愛情からだなんて、なんだか「ちょっとイイ話」のレベルを超えて、 目頭が熱くなりそうですらある。

恐らくそう遠くない未来に、また僕は「デザインアンダーグラウンド」に行くだろう。廃棄される直前に意味をもう一度取り戻すことのできた沢山のメカ達に囲まれながら、素敵に眼を輝かせた大人の話を聞くことができるなんて、そうそうできる体験じゃないのだから。

これを読んで興味をもった方もそうでない方も、とりあえず行ってみるといい(お店の場所は下記のリンクを辿ればすぐに分かるだろう)。

行って、話をして、欲しいモノがあれば買う(欲しいモノがなければ無理に買う必要はない)。大切なのは、とりあえず実際に足を運んでみることだと、僕は思うのでR。


今ではすっかりみることの少なくなったデジタルクロック。
棚の奥に眠るデットストックのプラモデル達。

なんとなくクリスタルを感じさせるTV。
オルガン+短波ラジオ+カセット。詳細は松崎氏にも分からないとのこと。




今回ご紹介したソロカルとプレート各種を、
それぞれ一名様にプレゼントさせていただきます。

欲しいと思った品名、デイリーポータルZへの感想などを明記の上、ご応募ください。
まってます!
→応募はここから
・しめきり:2004年10月18日13:00
・当選者の発表は発送をもってかえさせていただきます

DESIGN UNDERGROUND
(デザインアンダーグラウンド)
URL:https://www.designunderground.net/
TEL:03(3899)1414
住所:東京都足立区西新井3-3-20
基本営業時間:14:00〜20:00(月曜定休)
※仕入れなどで不在の場合もあるため、来店の際は電話で確認を。



 

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