ネットで気になる店を見つけた。なんとその店は、凍ったカレーをごはんにかけて食べさせてくれるという。
その名も「アイスカレー」。
…これは食べてみたいと思わなきゃウソだろう。発汗に備えて服を脱いだ方がいいのか、それとも冷えを見越して脱がない方がいいのか、それさえも分からない。まさに未知なる食べ物、アイスカレー。 「食」にだけは見せる野次馬根性を発揮して、さっそく店へと向かいました。もうすぐ冬ですが、気持ちは夏です。アイスです。
(高瀬 克子)
新装開店ホヤホヤだった
ネットによると、住所は築地になっている。店の名前は「カレー屋Nagafuchi」。…が、該当番地に行っても店がない。「あれ?住所を写しまちがえたか?」と思い、店に電話をしてみると「移転しました」との返事が。
――そうか、ネットって古い情報もそのまま残ってるもんな、と情報を鵜呑みにした自分を反省しつつ、移転先の新橋へと移動(近くてよかった)。
盛大に迷いながらもなんとか辿り着くと、なぜか店は大量の花で埋め尽くされていた。聞けば夏にいったん店を閉め、この日はなんと新装開店2日目だという。ということは、もし先週来ていてもカレーにはありつけなかったわけだ。おもわず自分の星回りの良さに感謝。カレーの神様ありがとう。
メニューに載ってない
では、いよいよ念願のアイスカレーを、とメニューを見るも、なぜか「アイスカレー」が載っていない。表裏ひっくり返してもない。まさか情報はガセだったのか?
「あのぅ…、アイスカレーがあるって聞いて来たんですけども」
おずおずと訪ねる私に、オーナーとおぼしき男性は無慈悲かつ丁寧にこう答えてくれた。
「ええ。でももう寒くなってきましたから、メニューから外してあるんです」
がーん。どうしよう。なに食べよう。ああ、アイスカレー以外なにも考えてなかった…。動揺する私に、オーナーは「これなんてどうですか。ちょっと変わってますよ」と、豆腐カレーを勧めてくれた。
「じゃあ、それにします」 即答したものの、落胆の色は隠せない。
だが、これが大変においしかったのだ。いろんなスパイスが複雑に絡み合ったルー(サラリ系)と、玄米ごはんが実によく合う。食べ進むうちに、どんどん汗をかく。そこへ冷たい豆腐をひとくち。…辛さで熱くなった口の中がひんやりと心地よく、微かな甘みが舌にやさしい。断じてルーに負けてない。
そして嬉しかったのが、水の横にどでーんと置かれた「キャベツ盛り放題」の容器。これがまたカレーとよく合うんです。ああ、キャベツって美味しいな、と実感する食べ方といいますか。
カレーが予想以上においしかったことで、さらにアイスカレーへの想いが募ってしまった。これを凍らせたら一体どうなるんだろう。食べたい。どうしても食べたい。夏まで待てない。
「…あのですね、やっぱりアイスカレーをどうしても食べてみたいんですけど、夏以外でも食べることは出来ますか?」
言ってしまった。 オーナーは「予約さえしてくれれば大丈夫ですよ」と快諾。あああありがとうございます! しかも「わざわざすみませんねぇ」と恐縮までされてしまったが、いえいえ恐縮するのはこちらの方です、本当にわがまま言ってすみません。
当たり前ですが冷たいです
翌日、期待に胸を躍らせて再び新橋へ。店に入るとオーナーは私の顔を見ただけで「あ、いまお持ちしますので」と奥で支度をしはじめた。「いつもの」で注文が通る客の気分ってこんなかしら、と思いながら待つことしばし。
ついに待望のアイスカレーと対面です。ばーん。
まずはひとくち。…シャリリ。 うわ、まるっきり初めての食感、そしてなんとも不思議な温度差。冷たいカレーと温かいごはんの組み合わせが新鮮すぎるほど新鮮だ。熱くないから躊躇なく口に入れられるし、スピードを維持したまま食べ進められるのが嬉しい。
「うわー面白い、カレー食べてシャリって音がするよー、なんだこの歯触り、ヘンだよー、でもウマイなー、全然水っぽくないのがスゴイよ、辛さより甘みを感じる、あぁ止まらない」と、独り言を脳内に響かせつつバクバク食べていると、オーナーに「どうですか?」と声をかけられた。
「いやー、おもしろいです!」
カレーを評して「おもしろい」という感想もないとは思うが、やっぱりおもしろい。すぐに「あ、予想以上においしいです」とも付け加えたが、とってつけたように聞こえてしまっただろうか。いやでも、本当においしいですよ。
チャレンジャーです
「凍らせてストックしてるルーがあるんですが、指についたのを舐めてみたら案外おいしくて。これはイケルかな?と」
アイスカレーの開発秘話を聞いたところ、返ってきた答えがコレだった。実際にそれで商品化してしまうところがすごい。新しいメニューの開発にも力を注いでいて、いままで様々な食材を試してみたという。
「今まで一番合わなかったのはマグロです。あれはやっぱり醤油つけて食べるのが一番ですね」
50歳で某有名コンピューター会社を辞めてカレー屋を始めたオーナーは、その生き方同様、カレーにおいてもチャレンジャーのようです。
どうやら夏期限定メニューだったアイスカレー。今回は無理を言って作ってもらいましたが、もし「私も食べてみたい!夏まで待てない!」という方がいらっしゃいましたら、事前に予約さえ入れてもらえれば作っていただけるそうです。ありがたいことです。
そういう私は次回、ハーフ&ハーフにトッピングは納豆と決めてます。ええ、近いうちにまた食べに行く気まんまんです。