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コネタ


コネタ274
 
壁のあの計器の謎を解く

オフィスビルで働いている人は必ず目にしたことがあるはずだ。壁にぽつんと設置されている、右の写真のようなもの。なんだか計器のようなんだが、何かと聞かれるとよくわからない。

しかも、物陰や人目につかない裏手のほうなどではなく、堂々と、人の目に触れやすい場所についている。でっぱっているので、ぶつかったら痛そうだ。

これは本当のところ何なんだい?と、製造元の会社にお邪魔した。

乙幡 啓子

お邪魔したのは、知ってる人はよく知っているが、知らない人はまったく知らないという会社、株式会社 山武。工場向け、商業建物や家庭向けの各種製品、システムを提供している会社だ。

青海のテレコムセンターにあるショウルームに入ると、あったあった、マニア的好奇心をくすぐる機器の数々。


計器類。
逆光で見えにくいですが、バルブ類。

そっちに向かって小走りになりそうになるのをこらえ、まずは広報グループの内藤氏、西羅氏からお話をうかがおう。

そもそも、取材申し込みの電話で「オフィスの壁にたまにある、茶色い、ティッシュケース大の箱ありますよね?あれはなんだろうと思ってたんですが、よく見ると御社の名前がありますね。ペーパータオル入れに見えるんですが、タオルが入っていたことはありませんので・・。」という失礼な申し出をした私だが、丁寧に応じてくださった。

内藤氏「言ってみれば、温度計と湿度計です。」

ということだった。(終)

いや、終わりません。私たちの知らない、ビルオートメーションの秘密が、明かされるのだ。


左から内藤氏、西羅氏。

「言ってみれば湿度計と温度計です。それらがあのように設置されている理由は、まずBA、ビルオートメーションについて説明しないといけません」
「大きなビルになると、照明・空調・防犯などはすべて1つのBAで一括して制御・操作します。そのシステムを提供するのが我々の仕事です。」
「たとえば空調は、地下に熱源である大きなボイラーがまわっていて、その熱を各部屋に送り込んでいるわけですが、その各部屋の温度調整を行う際、この小さな計器が必要なんです。」

つまり、計器は計るだけのものでなく、触手のようにビルのあちこちに張り巡らせ、センサーの役割を担っている。つねにその計測データに基づいて、BAで温度制御するというわけだ。


手に持っているのが、新しい型のもの。すっきりまとまっている。
実は、設定温度の限界はここで調節できるんです。

よって、人間の動いている領域に近ければ近いほど精度が増すので、自然と目に付きやすいところに設置することになる。

しかしあんなに出っ張っている必要ってあるんですか?
「壁は熱を貯めやすいのです。夏でも、壁にさわるとひんやりしていたりするでしょう?なので、なるべく壁から離して設置する必要があるんです。」

なるほどー。すべての事象に理由があって、興味深いですな。おや、金色に塗られた小型の計器もありますね。
「これは、ホテルや会議室などで、木目調にあわせて塗ってみたモデルです・・・。」
黄金の計器。 そんなところも理由があったのだ。広報の方の前ながら「すっげー、すっげー」と言ってる自分がいた。

ちなみに、冒頭で言及した「ペーパータオル入れみたいなの」は、ここではお目にかかれなかった。中身は一緒とのこと。オフィスや駅での目隠しに、まわりに調和するよう考えて作成するのだとか。


小型版も見かけます。
あなたが測ったのは金の計器ですか、銀の計器ですか。

新型はワイヤレスのものも出ているそうだ。ワイヤレスだと、壁の出っ張りを好きなところにつけかえられるので、オフィスのレイアウトに柔軟性が生まれる。「でも電池使用になってしまうので、交換の手間は発生しますね。まあ数年に一度ですが。」 なんでもワイヤレスになればいいというものではない。最近ポインターがポンポン飛ぶのでマウスをボール式に戻した、私の意見だ。

中身も見せていただいた。中に黒と白の薄い板状の柱が立っている。これがセンサー部分だそうだ。精度の高いものは、白金、すなわちプラチナを使用しているという。あの箱の中にプ、プ、プラチナが入ってるんですか!と色めきたつ私だが、「換金できるくらい手に入れるには膨大な数が必要ですよ」と言われ、それもそうかと冷静になる。いや、こそこそ外しまわったりはしませんけど。


センサー部分。ここが命だ。
これ、カタログです。これもあたったら痛そうだ。

ビル用コンピュータで日本No.1を誇る山武。そんな会社ならではの苦労もあるらしい。「つまり、どのビルに行っても山武の製品があるわけで、気が休まりません。曲がってると直したりしてね」と内藤氏。

また、西羅氏は、映画「ミッションインポッシブル」に出てくるような赤外線防犯システムなどに憧れこの会社に入ったそうで、目下の不満は「映画とはちがう!」。つまり「映画に出てくるような、3Dで見られる監視装置を早く現実のものにしたい!」と言っておられた。

ビルオートメーションに燃える人々、と生まれて初めてお会いしたわけですが、専門分野の人と話すのは面白いものです。そして、ビルの裏側でどんなことが行われているか、もっといろいろ見てみたくなりました。


 

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