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コネタ290
 
理想のビールグラスを求めて

 ビールが好きだ。と言っても筆者が普段飲んでいるのは発泡酒なわけだが、そんな細かいことはこの際どうでもいい。とにかくああいうしゅわしゅわした飲み物が好きなのだ。そんな大好きなビールをよりうまく飲むためのグラスが欲しいのだが一体どんなグラスがビールにはふさわしいのだろうか。うまい酒飲みたさに調べてみると、どうやら陶器製のグラスがきめ細かな泡を得られてうまいらしい。ということで筆者は夏くらいから陶器のビールグラスに憧れを抱いていた。

そんな折、都合のいいことに近所で陶器まつりなるイベントが開かれていると聞いた。これは理想の陶器製ビールグラスをゲットするチャンスではないか。季節は確実に冬に向かっているが、冬は冬でビールはうまいだろう。頭の中をあわあわにしながら会場へと向かいました。

安藤 昌教

会場周辺にはのぼりや横断幕がにぎやかに掲げられていました

ビールと陶器の密な関係が伺えます

陶器まつりの会場に近づくにつれ横断幕やのぼりが目立ちはじめる。それにしてもそのほとんどがオリオンビールの宣伝だ。のぼりで言うと3つに1つくらいが陶器まつりで他はオリオンビール。これは陶器製のビールグラスでうまい酒をどうぞ、へとつながる複線だろうか。なんとも筆者におあつらえ向きのまつりがあったものだ。


見渡す限り陶器だらけです

あたり一面陶器だらけです

陶器まつりの会場にはたくさんのテントが張り巡らされていて、それぞれのテントにそれぞれの窯で焼かれた陶器が所狭しと並んでいた。今回陶器まつりのために集められた焼き物は「壺屋焼」と呼ばれるもので、なんと300年以上の伝統を持つ工芸品なのだ。テントの中にはあるわあるわ、それはもう一面陶器だらけ。ありすぎて逆にこの中から理想のビールグラスを見つけるのが難しい。


お、ビールグラスらしきもの発見。しかし若干趣味に合わず
一家に一壷。いかがですか、といわれましても
シーサー表札は正直少し欲しかったです
どうみてもドクロに見えるみみずく皿

お客に見つめられながらも次々に陶器を仕上げていきます

見つからなければ作ればよい

会場をぐるっと回ってみたのだが、どうも筆者の思っていたようなビールグラスには出会えなかった。というかたくさんありすぎて、もうなにがなんだかわからなくなっていた。

そんな中、一軒のテントでろくろを回しているおねえさんがいた。ギャラリーに見守られながらもテキパキと土をこね、小皿やカップなんかを次々に作り上げていく。なんとも見事なろくろさばきだ。

しかもこのお店では、ろくろ体験と称して自分でろくろを回して実際に陶器を作らせてくれるという。自分で作れば思い通りのビールグラスができるのではないか。そんな甘い考えの下、筆者もろくろ体験をしてみることにした。


簡単そうに見えますが

おねえさんの見事なろくろさばきを連続写真にしてみました。実はこれ、ほんの1分くらいの出来事なのだ。見逃さないように必死でシャッターを切ったのだが、デジカメのシャッターラグの間にどんどん土に命が吹き込まれていく。ゴッドハンドとはまさにこのことだ。

補足ですが、おねえさんは胸元のがっばーと開いたセーターを着ていたので写真の撮り方にすごく気を遣いました。



こんな土の塊が
みるみるうちに
形になっていき
かわいらしい壷ができました

初めて触る土は冷たくて気持ちよかったです

いざ挑戦

早速筆者も挑戦してみることに。ろくろは初めての体験だ。おねえさんに教えられるがまま、回転する土の塊を包み込むように水に濡らした両手をそっと置く。するとひんやりとした生き物が手の中でつるつると動き回っているような、、そんななんともいえない不思議な感触が伝わってきた。

教えられた通りに小指の方から力を入れて土をのばしてみる。しかし土は思いのほか固く、相当に力を入れないと変形してくれない。そして一旦変形し始めると回転と共に急激に形が変わるため、今度はいきなり繊細な力加減が必要となる。


どうですか、このろくろさばき。素人とは思えません

土の塊を少しずつ上へ上へとのばしていき、ころあいを見計らって中心付近に親指で力を加えて穴を開ける。すると押しのけられた土が周りに壁を作るので、その壁を両手で慎重に伸ばしていく。目的のグラスの形に近づいてきたら外側からもう一度そっと触れて形を整える。どうだ、初めてとは思えないこのろくろさばき。筆者の両手に神光臨だ。


実はほとんどおねえさんが形を作ってくれたのでした

というのはまっかなうそで。筆者が力を込めてむんっと触るたびに土は回転しながらへにゃへにゃー、っとつぶれていく。あわてて体勢を立て直そうとすればするほど土は生き物のように筆者の手からすり抜けていってしまう。あわわわわ、どっ、これ、どうしたらいいですかーー。と、そこへすかさずおねえさんのゴッドハンドがすすっと伸びてきてちょちょっと触り見事に元に戻してくれるのだ。

ようするに形を作ったのはほとんどおねえさんで、筆者はそれを妨害していただけのような感じだった。だけど手の中でくるくると回る土の塊に命を吹き込むような感触だけはなんとなく味わうことができた。それはもう本気で弟子入りしたくなるような感動だった。


なんというか、つっこみ難い感じになってしまい申し訳ない

憧れの陶器ビールグラスの完成

そして出来上がったグラスがこれ。おねえさんが「乾く前に竹串でなんでも好きな模様を描いていいですよ」と言うので、宣伝がてら書いてみた。どうでしょうおねえさん、この微妙な感じは。

「はい、ご苦労様でした」

おねえさんは筆者の描いたデイリーポータルの文字には少しも触れずにその場を締めくくった。聞かれたら答えようと思って用意していたセリフはすべて泡と消えた。

このグラスはこれから窯で焼かれ、年末くらいに筆者の手元に届く予定だ。なにはともあれ目標だった陶器のビールグラスは無事ゲットできそうだ。年末年始はこれできめ細かい泡のビールを飲みたいと思う。


中古ろくろ3万円。あやうく買いそうになりました

陶芸、はまりそうです

今回、うまい酒が飲みたいという不純な動機だけで挑戦した陶芸体験だったわけですが、見事にはまってしまいそうです。なんでもない土からグラスやら皿やらを作ってしまうというのはまさに神ではないですか。筆者は今、また一つ渋めの趣味に足を踏み入れようとしています。

育陶園

 沖縄県那覇市壷屋1−22−33
 電話098−866−1635
 普段はシーサー作り体験等も行っています(要予約)。


 

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