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コネタ


コネタ408
 
大文字山の火床に登ってみた!
去年の夏に撮った写真

毎年8月16日に京都で行われる「大文字の送り火」。

ご先祖さまを浄土に送りかえすための行事らしく、さしずめ「お盆の送り火の巨大版」である。

…といった時代背景にはとくに興味はないのだが、「山に火で字を書く」という大仰さが好きで、子どもの頃からよく見に行ったものだった。

そしていつも疑問に思っていたのが、「なんで山火事にならないワケ?」「火を焚いてる場所ってどうなってんの?」ということ。

ただ、送り火の当日は、関係者以外入山できなくなるとのことだった。なんだァー。

…とスネていたのだが、大文字山って考えてみたら、送り火の日以外なら自由に登山していいのであった。そうか、この手があったか!!

そこで今回は、火の燃えていない日を選んで大文字山に登り、その「火床」を見てくることに決めたのでした。 一体どんな場所で、巨大な火を焚いてるんだろう?

ちなみに今回、撮影係がいると助かるので数少ない友人に声をかけてみたところ、女性二人が参加してくれることになった。やったぜ! こうなりゃ酒盛りだ!!

てなわけで、ビールと焼酎を抱えて大文字山に登ることとなったのでした。

(text by ステッグマイヤー名倉

矢印の部分が、今回登る火床

京都市内から火床を仰ぐ

銀閣寺の真上にそびえる大文字山。

まずはその全景を確認すべく、京都市内から「大の字」部分を仰ぎ見てみる。

ふうーん。山全体を焼いてるのかと思ってたけど、意外と小さいのな。

そのわりに登るの大変そうだし、ちょっと気が滅入ってくるが、山頂には酒が待っているんだと自分に言い聞かせて足をすすめる。


銀閣寺への参道

しばらく歩くと銀閣寺の参道に。

観光地の常で、軒を連ねる土産屋が次々と視界に飛び込んでくる。…そこでふと目にとまったのが、下の写真の玩具店であります。

これでもかというくらいに、「赤ちゃん用です。遊ばないで下さい!」と執拗に。禁止されるとやりたくなるのが人情である。

ぼく:「ええと。今からこの玩具で遊ぶから撮ってくれる?」
友人:「いいよ。はい遊んで!」

直後、店の奥から、オバサンの悲痛な叫び声が聞こえてきたのでした。

「遊ばんといてっ!!」


「赤ちゃん用です。遊ばないで下さい」ポップアートばりに繰り返される張り紙
この直後、店のオバサンに叫ばれました。「遊ばんといてっ!!」

 

銀閣寺の横にある登山口

いよいよ入山

オバサンの怒号に金玉が縮み上がりつつも、なんとか銀閣寺にたどり着いた我々。いよいよ入山である。

周囲を見渡すと、これから大文字に登ろうとする人々の姿がチラホラ。なんだ、ここってみんな登ってるのか!?

珍しいモノを見に行くつもりでワクワクしていた気持ちが、金玉と同じく萎んでいく。

登山にダウンジャケットは失敗だった

そして山道を登り始めること数分、さっそく息が上がってきた。はぁはぁ…。

山頂での酒盛りにそなえて厚着してきたのだが、ダウンジャケットだと暑すぎて、どうにもならないのだ。

かといって、ダウンを脱いでシャツ一枚になると寒くてこごえそうになるし。

ダウンを脱いだり着たりしながら山路を行く。クソッ、なんて忙しい登山だ。

 

スキップしながら下りてくるガイジン2人組

いろんな登山客

道中、いろんな登山客に遭遇した。

なぜかスキップしながら下山してくるガイジン2人組。

はたまた、突然「山には地下足袋がいいですよ!」と宣伝してくる男性。

そして気がつけば、見知らぬ男の地下足袋を手にしている自分。それも山道で。

日常にひそむ深淵をふと垣間見る。


地下足袋を宣伝してくる見知らぬ男
「やっぱ、山には地下足袋だよ!」

 

大文字点火用「松割木」

登山道もいろいろある

ふと道脇を見ると、大文字点火用の割木が置いてあった。

8月まであと半年以上あるのに、もう用意してるのか。大文字の人はダンドリ君というか心配性というか。

禁止事項の掲示(下写真)には、英語表記の横に、手書きの英文が落書きされてました。

内容はほぼ同じなのに、微妙に異なる手書きの英文。いったい誰がなんのために!?


禁止事項
 set fire
 camp
 litter
 bike...
こちらは、
 build fire
 camp
 litter
 go on a bicycle...

な、なんですって!?

トボトボ歩いていたら、唐突にこんな看板が。

「危険。リフトが急に動くことがある」

な、なんですって!?

いくらなんでも、リフトは勝手に動いてはダメではないのか。こんなことを堂々と開き直られても。

理不尽な注意書きに思わず足がすくむ。

のぼるのイヤだなァ…

そして前方に出現した長い階段。何段あるのか見当もつかない。

アクション映画によくある「銃で撃たれて階段を転げ落ちる」シーン、是非この階段でやってほしいものである。てっぺんから下まで転げるのに5分くらいかかりそうだから、見応え十分である。

血まみれのまま5分間も転げ続ける。…これはアクションというより、コメディかもしれませんが。

 

黄昏の大文字山

ついに山頂へ到着

登山道から登ること40分少々。

ついに視界が開け、山頂の展望台が眼前に飛び込んできたのでありました。おおー。

夕暮れがちょっと美しかったりするが、そんなモノより、まずは火床である。火床はどこだ!? 

…なぜ火床がこんなに気になるのか自分でもよく分からないが、きっと火を燃やす所だからだと思う。

 

「大」の字の左下部分

火床、火床!!

おおっ! これやがなこれっ!!

ずっと気になっていた大文字の火床は、こんな風な按配だったのか。ここに薪を積み上げて、一斉に燃やすのだろう。

なるほど、これなら山火事にならないワケだ。

嬉しいので火床の写真ばかり40枚ほど撮ってしまったが、全部載せたらヒンシュクを買いそうなのでやめておきます。

十文字タイプもある
セクシーなポーズで火床にたたずむオジサン

 

ビールに思わず頬がゆるむ

火床にて酒盛りスタート

さてさて。無事に火床を見れたので、次は酒盛りである。

かばんから缶ビールを出してプシュッ!! シュワシュワシュワー。

いやー、たまりません。山というのは元来、酒を飲むために存在しているんでありましょう。

焼酎の瓶の重さも頼もしい。


料理も細々と作ってみる

ちなみに今回は、女性陣のはからいで料理も作ることになったのでした。

「野菜とウインナーのホイル焼き」

正直なところ酒さえあればいいのだが、作ってくれた女性陣の手前、そんなことはとても言えない。

「いやァ、美味しいねえ!」

でも取ってるのはウインナーのみ。

 

ローソクで「小」の字を作っていく

「小文字」の送り火を作ってみる

せっかく大文字の火床まで来たのだから、自分たちでも火文字を作ってみることにした。

ただ、たかが10センチ程度の文字で「大」と書いたって、矛盾しているのは明らかである。

そこで思いついたのは「小文字」。これならちゃんと、字が体を現している。

夜の大文字山に浮かび上がる、小さな「小文字」の火。この無意味さが心地よい。

小文字、完成!!
夜山に浮かび上があがる小文字、…で暖をとる女性陣

 

すっかり酔っ払ってフニャフニャに

そしてどんどん酔っ払う

気がつけば、すっかり飲んだくれて夜10時。あたりは真っ暗である。

飲むとトイレが近くなるが、トイレなど近くにないので、当然ながら「野尿」である。

この自然の摂理は女性とて同じ。彼女たちも交代で、茂みの奥まで用を足しに行っていた。「暗くて恐いねえ」とか言いながら。

暗くて恐いなら、女性2人そろって行けばいいのに。…と進言したところ、即座に答えが返ってきた。

「名倉くんに覗かれるほうがよっぽど恐いわよ!」
「だから1人は見張り役なの!」

ぐう。一理あるだけにちょっと悔しい。  

 

真っ暗な山道を泥酔しながら下山

深夜の山道を下山

結局、下山したのは深夜11時を過ぎてから。持参したヘッドランプの明かりだけが頼りである。

これだけでも危なっかしいのに、おまけに泥酔しているので足元がおぼつかない。

…実はこのあたり、あまり記憶が残っていないんですが。無事に帰宅できていたので、きっと何とか下山できたんでしょう。

翌朝、起きたら顔に大きなアザができてました。「女性陣の野尿を覗こうとしてビンタされた」のでないことを神に祈りたい。


「犬文字」事件はこんな感じだったんだろうか

というわけで大文字山、いかがだったでしょうか。

ちなみに太平洋戦争の後期、灯火管制で送り火が禁止された年があるらしい。そのときは大勢の市民が白い服を着て火床に 登り、白い「大の字」を月明かりに浮かび上がらせたんだとか。

そういや数十年前には、送り火の当日に大学生が珍騒動を起こしたと聞く。

当日こっそり大文字山に身を潜めていた彼らは、送り火の点火と同時に、「大の字の右上部分」で火を焚いた。そして見事、京都市全域に「犬」の火文字を浮かび上がらせたのだ 。
(もちろん大騒ぎになって学生たちは逮捕された)

白くなったり犬になったり、何度も苦難を味わいながらも今に受け継がれる大文字の送り火。

これからも珍ハプニングが起きないことを祈ったり、祈らなかったりしながら、見守っていきたいと思います。


 

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