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コネタ422
 
いぬが見るビデオを人間が見る

 「いぬが見るビデオ」というものを入手した。

 犬を飼ったことはないし、どちらかというと犬とのコミュニケーションは苦手と言ってもいい。目が合うと先に視線をそらすのは自分の方だ。

 これでいいのか。犬の気持ちを理解したい。

 それで手に入れたのが「いぬが見るビデオ」。なにか方法として間違っているような気もするが、もう持っているんだから仕方ない。

 人間を勝手に代表するつもりでビデオを見てみました。

(text by 法師丸



 「いぬが見るビデオ」というかなり特殊な用途のビデオだが、テープ自体は普通に黒の事務的なテープだ。

 中にはこの段階で興味を持つ犬もいるかもしれない。テープそのものに釘付けの犬。製作者の意図はそうではないだろうが、結果としてはそれも犬が見るビデオと言える。



 パッケージには「イヌだってビデオぐらい見たい!!」とのコピーが。それはそうかも知れないが、人間である私だってビデオぐらい見たい。ビデオを見たい気持ちでは、犬に負けるつもりはない。

 そんな先走る気持ちの私の目に入ったのは「Video for Dogs Only」という文字。犬専用ということか。それくらいの英語ならわかる。

 英語でまでダメを押された感はあるが、そんなことはわかってる。それをわかった上で、人間の視点でこのビデオを見たいのだ。




 そういうわけで、ビデオをデッキに挿入。まずはじめに、画面にはビデオ鑑賞に当たっての注意書きが出てきた。

このビデオ再生中に犬によっては興奮のあまりビデオの中に飛び込もうとしますので、テレビの上やまわりにある壊れ物はすべて事前にかたずけておくことをお薦めします。

 エキサイティングな嵐の予感がする「いぬが見るビデオ」。さすがにそこまでしないだろうと思いつつ、念のためテレビの周りは片付けた。




 それなりのストーリーがあるようで、話としては犬が飼い主の家を出るところからスタート。一人称視点というのか3Dというのか、床から数十センチほどの視点から見た状態で移動していく。

 そう、犬自身の視点から見た世界での映像になっているのだ。

玄関を出て、飼い主がいる車に乗り込む主人公(犬)。運転席の飼い主がこちらを振り向き、英語でなにか話しかけてくる…。

 このビデオはもともとアメリカで作られたものらしく、キャストの人間は全て外国人。当然セリフも英語なのだが、そう言われても私にはさっぱりわからない。

 私がそう思っているのに、主人公の犬は「ワウ!」なんて返事をしている。返事なんかして、ほんとにわかってんのか。

 いや、たぶんわかってるんだと思う。ちょっと負けた感。

そうこうしているうち、車は公園に到着。車から降りた犬は、飼い主が呼ぶのも聞かずあらぬ方へと勝手に行ってしまう…。

 あまり賢いというわけではなさそうな主人公の犬。ジョギングをしている人を追いかけたり、ペットショップに迷い込んだりと、小さな大冒険が展開される。されるわけだが…。




 うう…。犬の高さの視点から3Dで流される映像を見ているうちに、だんだん気持ちが悪くなってきた。画面を見ていると酔ってくるのだ。

 予想外のダメージを食らってたまらない気持ちになる。結構本気で酔わされる。犬の気持ちになろうとしての試みだったが、意外な試練が待ち構えていた。うう…。




 そのうち、画面にハート型にくりぬかれたメスとおぼしき犬が登場。興味津々で追いかけようとするのだが、バタンとしまった扉の向こうに行ってしまう。

 「クゥ〜ン」と鳴く主人公。実に情けない声に、初めて共感を覚える。

 このあと、ブタ小屋にまぎれこんだり、若者にいたずらされそうになったりしつつも、偶然飼い主と再会して無事家に戻る主人公。

 アドベンチャーとしてはそれほど起伏に富んでいるわけではないが、映像がずっと犬視点なので酔いはどんどん高まっていく。ビデオが終わったときにはやっと開放された安堵感すら感じる自分がいた。




 すっかり気分が悪くなった状態で流れてきたエンドロールでは、キャストに「タフガイ」の文字が。たぶん主人公にいたずらしようとしてきた若者たちのことだと思う。

 タフガイってこういう使い方をするのか。端々に見えるアメリカンテイスト。ただ、酔っているのでつっこむ気力は弱い。

 「いぬが見るビデオ」を見てわかったこと、それは、そんなビデオを人間が本気になって見ると酔うぞ、ということだ。

 残念ながら犬の気持ちをわかるところまでたどりつけなかったが、犬にはかなり楽しめるビデオだと思う。

 ただ、やっぱり私は犬じゃない。

 ビデオを見て改めて確かめる、人間としての自分。パッケージには「繰り返しお楽しみください」とあるが、個人的にはフィジカルな意味でそれは無理だ。


 

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