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コネタ


コネタ450
 
ホットケーキミックスでうどんを作る

 うどんが食べたい、でも家にはホットケーキミックスしかない。そういう状況での答えはひとつだ、ホットケーキミックスでうどんを打てばいい。

 ホットケーキミックスなんてしゃれた言い方してるけど、基本的には小麦粉だろう。

 なにを作るかは俺が決める。うどんのこととなると、いつになく強気な自分になれる。

(text by 法師丸



 手軽においしいホットケーキが作れる粉・ホットケーキミックス。実際、うどんと同じくらいホットケーキも好きだ。ただし今日食べたいのはうどんの方。ベースとなってる小麦粉という共通点を頼りに、うどんを打ってみる。



 パッケージの裏には「ホットケーキの上手な作り方」が親切に載っているが、今日の自分には関係ない。アレンジレシピとしてマフィンやドーナッツの作り方も書いてあるけれども、そういうものには目をくれずにいたほうがいい。

 …ただ、パッケージ表のホットケーキの写真はあまりにも魅力的だ。かなりうまそう。やっぱりホットケーキにしようか。うどんとホットケーキの間で揺れる気持ち。




 いや、そんな迷いに揺れていてどうするんだ。自分はうどんが食べたい。改めてそう確かめる。今日はうどんが食べたいんだ。

 うどん作りは水が命。わかったようなことを適当に言ってみたが、普通の水道水を入れているだけである。一番大事なのは気持ちの問題なのだと思う。

 ただ、その気持ちがまだ揺れている。今引き返すなら間に合う。




 それでも混ぜたりこねたりしているうちに、だいぶうどん気分が盛り上がってきた。ひとしきりこねあげてまとめてみると、それはもうすっかりうどんへのプロローグだ。

 ホットケーキへの道はもう閉ざされた。うどんに向かって加速していくホットケーキミックス。




 衝動的にうどんを打ち始めたが、そんな経験や道具はない。なんとなく平べったく伸ばして、普通に細長く切ってみる。

 普通の小麦粉と違い、原料に混ざっているもののためか、部屋にはなんとなく甘いにおいが漂う。そうしたものに惑わされることなく、うどんだと念じて切る。



 素人作業なのでちょっと短いが、まあうどんと言えばうどんだろう。黙ってこれを見せられて、うどんかホットケーキと問われたら、人はうどんだと答えるに違いない。

 打ちたて・ゆでたてこそが手作りうどんならではの醍醐味。早速お湯を沸かして投入する。



 入れたと思ったらまもなく浮いてきた。なんだかやたらと早い反応。これでいいのだろうかと不安になる。もともと不安なことをしているわけだが、ゆでることでさらに拍車がかかっていく。



 火にかけ続けることでかなりの盛り上がりを見せる鍋。単に沸騰しているだけだが、無茶をしていることで精神的にも昂ぶってくる。

 もうそろそろいいだろう、という曖昧な判断で火を止める。試しに一本すくいあげてみると、もともと短かった麺がさらに短くなっていることに打ちのめされる。

 気を抜くと昂ぶっていた気持ちもしぼんでいくが、ここはもうひとがんばり。器に盛り付けて実食だ。




 それらしく盛ってみる。麺の短さに目をつぶれば、これはもううどんと言っていいだろう。

 あたりに漂うかぐわしい香り。そう、漂っているのはコーヒーのにおいなのだ。作業当初からずっと漂っている甘いにおいを察して、つゆを作る段階で微妙に方向転換。つゆをコーヒーにしてみたのだ。

 新感覚のデザート気取り。パリのエスプリが効いている。

 では実際に食べてみる。……もぐもぐ、うーん、うんうん、なるほど。もぐもぐ……。

 うん、菜っ葉がうまい。

 うどんらしく見せるためにコーヒーのつゆを承知で菜っ葉を入れてみたのだが、これが思いのほか違和感なく食べられる。今後わざわざコーヒーに菜っ葉を入れて食べようとまでは思わないが、思っていたより悪くはない。

ホットケーキミックスでうどんを作ってわかったこと:菜っ葉がうまいよ

 無茶なうどん作りへの衝動の結果わかったことは、意外な角度から見えてきたことだった。案ずるより生むが易しであるが、餅は餅屋であり、後悔先に立たずである。

 菜っ葉のことでひょうたんから駒も付け加えておくべきか。適当に羅列したことわざの解釈は読み手のみなさんにまかせるとして、残った粉はちゃんとホットケーキとして食べたいと思う。


 

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