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コネタ


コネタ464
 
大破した自動車を復元する
こんなクルマも元通りの姿に!

交通事故で大破した自動車を、元通りの姿に復元してしまう。

…こんなプロフェッショナルを育成する学校が京都に存在すると聞いた。今までクルマにはそれほど興味がなかったが、この話には思わず胸が高鳴った。

大破した自動車とその復元作業。カタストロフィーと再生。ああ、かっこよくてゾクゾクするぜ!!

そんなわけで今回は、専門の整備士を育成しているという日産学園自動車工業学校にお邪魔してきたレポートです。自動車復元の現場と、そこで学ぶ人々の模様を取材してきました。

このメカニカルな興奮を少しでもお伝えしてみたくて。

(text by ステッグマイヤー名倉

事故車の修復過程

まずは下に載せた一連の写真をご覧ください。この学校で実際に行われた、事故車の修復過程です。


運びこまれた交通事故車

学校にて修復作業開始

みるみるうちに蘇って…

ほとんど新車同様に!!

 

どうすればこんな芸当ができるようになるのか、取材を通じて紹介していきたいと思います。

 

日産学園の入口

 

いざ学校へ!

近鉄・大久保駅を下車して西に歩くこと15分少々。

目指す学校は、日産の巨大な自動車工場の隣に建っていた。

もちろん事前に取材の申し込みはしているのだが、校門をくぐると緊張で身が引き締まる。

なにしろ今までぜんぜん縁がなかった世界だからなァ…。
 

取材中に三脚立てて撮影

和やかに取材スタート

門をくぐって受付に行くと、立派な応接室に通された。

職員の方が学校の概要を説明してくださる。

  • 当校は国家自動車整備士を取得するための学校。
  • さらに上級の「車体整備士」や「1級整備士」を取るコースもある。
  • 機械の知識だけでなく、礼儀などの対人スキルも教え込む。
  • 卒業生はメカニックとして、車検や車体修理の専門家として活躍している。

おまけにコーヒーまで出してもらい。

「これってレギュラーコーヒーですね!」と言いそうになったが、余計に貧乏くさいのでやめておきました。


実習棟にドキドキ
実習開始は「あいさつ」から

案内係の職員さんに引率されて、実習棟の内部へと足を進める。

ドアを開けると、正にちょうど、これから実習が始まろうとしている所だった。

生徒さんたちがズラッと整列して、先生に向かって「おはようございます!」。

あまりの規律正しさに思わずたじろぐ。

軍隊のような規律正しさ。
中には数人、女子生徒の姿も。
びっくりしているぼくの顔を見て、案内係の方がコメントしてくださった。

「整備士の仕事ってメカニックだけじゃなくて、接客もしなくちゃいけないんですよ。お客さんに車のことを説明したり」
「なのに挨拶もロクにできないようじゃあ、社会に出てから本人が痛い目に遭いますから」

なるほどー。

言われてみれば、ぼくはこんな教育を全く受けていない。どうりで今も苦労しているわけだ。


車の前でポーズをとる
車体の基本構造を学ぶ

整備士の仕事のメインは「車検」。

なので、まずは車の基本的な構造を学ばなければいけない。ランプからハンドルから、すべて分解して構造を体得していく。

教科書を見せてもらったら、ハンドルだけで何十個もの部品が図説されていた。

「この部品名、ぜんぶ覚えなきゃテストに受かりませんよ」

悔しいので、ぼくも一つだけ部品名を覚えてみた。えー、ハンドルの内部には「ピニオン」という部品があります。エッヘン!!

整備士には欠かせない信頼のブランド、KTC社の工具一式(定価7万円位する)。 
生徒さんが読んでいた教科書。ハンドル内部に「ピニオン」があることは完璧に覚えましたぞ!!
カメラに気がそぞろな生徒さんも。ごめんなさい。
実習しながら、その部品に関する講義が行われる。

ちなみに左の写真は「トランスアクスルの取り付け」という講義。あのう、おっしゃる意味が皆目分かりかねるのですが……。

まあいい。ハンドルの中にピニオンが入っていることくらいは、ぼくも既に知っている。


ハムスター用の「回し車」を連想するが、用途は全く違う(当たり前)。
タイヤ回りの実習

この一画では、タイヤ回りの専門的な実習が行われていた。

ローラーの上で車を走らせるのは「スピードメーター・テスト」。運転席の速度計に表示されるスピードと、実際のスピードとの間に誤差がないかチェックするわけである。

さらにブレーキの効きぐあいをチェックしたり、タイヤの角度をチェックしたり。

あと、排気マフラーからホースが伸びている光景が妙に刺激的だったことを付記しておきます。

スピードメーター・テスト
ブレーキの性能をチェック
タイヤの角度チェック
排気マフラーから伸びるホースに大興奮(排ガスが屋内にこもらないよう、まとめて煙突へと導かれる)。

 
一台150万〜300万円以上するエンジン装置。新車買うより高い。
エンジン回りの実習

お次はエンジン回りであります。

ここで行われていたのは、「エンジンのトラブルシューティング実習」。

眼前のエンジン、先生の手によってあらかじめ一箇所だけ壊されてるので、そのままでは作動しない。

で、生徒さんがその原因を突き止めて修復する、というのが実習内容である。

「どこが壊されてるんだろう…」
先生の細工はどうやら意地悪なものらしく、生徒さんたちはエンジンを丸ごと分解しながら四苦八苦していた。

どういう風に壊されているのか、ぼくなどには見当もつかないけれど。

これで原因が「エンジンの中に爪楊枝が紛れ込んでいた」とかだったら、みんな脱力して再起不能に陥りそうですな。

ぼくが先生だったら、むしろそういう課題を積極的に出したいと思う。


寝板を駆使しての床下作業。かっこいい。
おお、寝板だっ!

ついつい駆け寄ってしまったのがコレ。「寝板」であります。

前から一度、乗ってみたかったんですよ! 乗ってみてもいいですかっ!?

お願いしたら「いいですよ」と言ってくださったので、さっそく乗らせてもらいました。意味なく床をビュンビュン移動。うわー、めちゃくちゃ楽しい!!

ぼくは自宅でも寝転んで過ごす時間が多いので、家にあったら非常に重宝しそうである。

リモコン取りにいくのも、缶ビール取りにいくのも、寝転がったままシャーッ!! 夢のような生活です。

ちゃんと枕もついてます
あこがれの寝板を使わせてもらった。嬉しい。というか我が家にも欲しい!!

AT車のトランスミッション(カットモデル)
トランスミッションの解剖実習

実習はまだまだたくさんある。

ここはトランスミッション(変速装置)についての授業。

複雑怪奇なトランスミッションを全て分解して、再び元通りに組み立てるのだという。気の遠くなるような作業である。

ところで、自動車の変速機ってこんなのだったんですねえ。今のいままで、自転車のギヤみたいに歯車が5つほど付いてるだけかと思ってました。

トランスミッションを全て分解して、再び組み立てるんだそうで。驚愕。
やっぱり基本はヒョウ柄。ペンケースになったヒョウ。

日替わり定食(しょうが焼き)。380円なり。
お楽しみの学生食堂

いろんな実習を見て回ってたら時間がアッという間に過ぎて昼休みに。

というわけで、我々も学生食堂で昼食をとることになった。自動車専門学校の学食メニュー、楽しみだなァー。

ちなみに、ぼくがチョイスした日替わり定食はこんなのでした。美味くてボリュームもあって大満足!!

超大盛りご飯と、超大盛りしば漬け。
ご飯と漬物、味噌汁は自分で自由に盛り付けられる。

で、周囲の生徒さんを見てみると。いやー皆さん、若くて元気いっぱいですねえー。

茶碗からあふれんばかりの大盛りご飯、そして、これでもかという漬物の量。

若さがちょっとうらやましかった。

修理を待つ事故車たち
事故車の保管場所へ

昼食を食べたあとは、いったん屋外に出て見学を続けることに。

外には事故車がズラリと並べられていた。どれも大破しているが、もうじき生徒さんたちの手で新車同様になるんだという。

それにしても、割れたガラスや飛び出したエアバッグが生々しい。事故の壮絶さを物語っている。

「くっきりと顔の形に割れたフロントガラスとか多いですよ。ときにはガラスに髪の毛が付いてたりね。ふふふ」

そ、そうっすか……。

「あ、でも死亡事故の車は使ってませんからご安心を」

むきだしのメカに大興奮
生々しく飛び出したままのエアバッグ
みんな我先にと覗きこむ
トラック実習

すぐ横では、トラックを用いた実習が行われていた。

我先にと競ってエンジンを覗きこむ面々。大学の授業なんかにありがちな、「なるべく後ろに座る生徒」など皆無である。

ちなみに下の写真、落ちてきたボンネットが頭に当たってとても痛そうでした。

先生はアハハと笑っていたけれど、これってやっぱり笑うとこなんですね。みなさん、たくましすぎ。

トラックのエンジンって、こうやって開けるのか。
手で支えきれず落ちてきたボンネットが、頭に当たってゴツンッ!! 
ぼく:「あのう、これ……」
係員:「はい、なんです?」
ぼく:「書かんでも分かるがなっ! ですよ」
係員:「これは車体整備科の車って意味でして」
ぼく:「す、すみませんです」

事故で歪んだフレームを精密に修正する
フレーム修正機

この辺りから、いよいよ車体修理の実習になってくる。

左の写真は、車体のフレームが歪んでいる場合に、それを修正するための機械である。

この機械があれば、どんなに大破した事故車であっても対応できるのだという。

「ただ、250万円の車が大破して、修理代に160万円くらいかかることもありますけどね」

ぼくなら新車に買い替えます。

板金・塗装作業は正に職人技
板金・塗装実習

ぷうーんといい匂いがするなと思ったら、塗装用のシンナーだった。

事故でデコボコになってしまったボディを元通りにするのが「板金」。

そうやって直したボディに塗装を施せば、外見も事故前の姿に戻るわけである。

ここではみなさん、溶剤を吸い込まないよう防毒マスクを着用しておられましたが。

ぼくはマスクを付けてないので、くんくん嗅ぎまくってました。たまには…いいですよねえ!?

誰ですかこれは!?
車体全体を塗装できる専用ブース
塗料が固まらないよう、自動的に振動・攪拌される仕組みになっている。
パール塗料。これ一本がウン万円!!(企業秘密とのことです)

何かを一心に模写する生徒さんたち。(美術の授業ではありません)
最後は講義タイム

実習の授業は終わり、午後からはあちこちで講義が始まっていた。

よく分からない金属物をひたすら模写していたり。

ただ、実習ではあれだけ目を輝かせていた生徒さんも、講義になるとついウトウトしてしまうようで。気持ちは痛いほどよく分かる。

ちなみに、上級クラスである1級整備士のクラスだけは、雰囲気がピシっと張り詰めてました。机も大きいし。

中には居眠り組も。シンパシーを感じるぜ!!
1級整備士のクラスはエリートコースだけに机も大きい。制服も違う。

パソコンによる通信端末でエンジンなどの各種設定を行う。端末一台、数十万円。
1級整備士のためのハイテク実習

1級整備士コースのほうは、専用のブースで実習が続いていた。

スカイラインGT-Rやシーマといった高級車がずらりと並んでおり、最先端のエンジンや制御システムをここで会得するのだという。

日々新たに開発されるハイブリッドエンジンなどの修理に対応するには、膨大な情報を身につけておく必要があるのだった。

いやー、すごいですねえ。…としか言えない自分が莫迦っぽくて悔しいけれど。

こうして無事、取材は終わりを迎えたのでありました。

というわけで自動車専門学校の模様、いかがだったでしょうか。

取材していて肌で感じたのは、「生徒みんなが身を乗り出して授業に臨んでいる」という、好奇心の塊のような雰囲気だった。こういう空気感って、ふつうの高校や大学では、なかなか感じられないなァと。

なにしろ生徒が皆、クルマが好きで好きで、好きすぎてたまらないカーマニアなのだ。そんな彼らがクルマについて学ぶわけだから、これはもう生き生きと目が輝いて当然だろう。

好きでたまらないコトに打ち込む人々の姿を見るのは、本当に気分がよいものです。メカに触れられた興奮もさることながら、彼らの姿に触れられたのが思わぬ イタダキモノでありました。

次回は、この学校の生徒さんたちが作った「特殊自動車」たちを紹介したいと思います。

取材協力:日産学園京都自動車工業専門学校


 

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