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コネタ


コネタ533
 
サーファー丼・その想像と現実

 千葉県・房総の海のそばに住んでいる私。しかも単なる海ではなく、サーフィンの名所でもある。

 そんなことを人に話すとうらやましがられたりもするが、別にサーフィンはしない。入ったことのないサーフショップを横目に、普通のスーパーに買い物に行ったりする。

 そして、その普通のスーパーで売っているのを見つけたのが「サーファー丼」だ。

 土地の特色にちなむのはいいが、なんだかわからない迫力があるサーファー丼。その実態に迫ってみる。

(text by 小野法師丸

●イマジネーションにおけるサーファー丼


ウェブマスター林さん(イメージ画像)

 波を謳歌する若者たちが集まる海。そんなサーフスポットの近くにあるスーパーに、「サーファー丼」なるものが売っている。

 しかしどうだろう、サーファー丼。言葉の響きがそもそもあやしくもあるのだが、一体どんなどんぶりものなのか想像しがたい。「サーファー」と「丼」とが無理につながった異常さを感じるばかりで、その実体が見えてこない。

 人は「サーファー丼」と聞いてどんなものを想像するのか、デイリーポータルZ関係者に聞いてみた。

 


 

◎ウェブマスター・林さんが思うサーファー丼

「僕は、ハムとウインナーでウインドサーフィンのカタチになっていると思います。」

 迷うことなくそう答えた林さん。笑いを取りに来ているのかどうなのか判別がつきにくいが、もし本気ならハムやウインナーに対する思いは相当のものだと思う。

 サーフィンの話なのに、結局ハム類に帰結するのがすごい。

 絵の心得のある知人に頼んで林さんが思うサーファー丼を絵にしてもらったのだが、予想以上に本気で描いてくれて驚いた。教科書にでも出てきそうなタッチだ。

 これがサーファー丼なのだろうか。絵にしてみるとその異形ぶりが際立ってくる。

 


 

◎月曜担当ライター・高瀬さんが思うサーファー丼

 デイリーポータルZで食べ物と言えば…ということで、食べ物関連を積極的に取材している高瀬さんにも聞いてみた。

「刺身(できればマグロの赤身)が波のように重ねて並べてあるのです。そして真ん中あたりにヒト型のワサビが置いてあります。これがサーファーです。ワサビ人形はボードに見立てた大葉(シソ)の上に乗せてもいいですね。

隅のあたりに大根のツマを配置。これは砕ける波しぶきを表しています。乾燥岩海苔をゴハンの上にビッシリ敷いても美味しそうです。もちろんこれは海底の様子となります。

これが正解だと思います。賭けてもいいです。」

 さすが、ディテールまではっきりとイメージできている。絵画的なサーファー丼と言ってもいいと思う。

 こちらも絵にしてもらった。このままどこかの店で気の利いた丼物として出てきてもおかしくない。普通においしそう、サーフィンのことなど忘れて食べてしまいたい。

 それでもやっぱりワサビのサーファー人形は無理があるか。うつろなマンドラゴラのようになってしまっているのは否めない。

 

●現実を目の当たりにして



 さて、やってきたのはサーファー丼を販売しているスーパー。全く普通のたたずまい、惣菜コーナーにも一見これといったものはない……。


 いや、あった!これがサーファー丼、そう書いてある。

 湯気の水滴がついたフタがあるのでその全貌はまだはっきりとはわからないが、思ったより地味だろうか。それにしても310円というのはずいぶん安くないだろうか。

 店の人に「これはこの辺の名物なんですか?」と聞いてみたところ、「いや、別にそういうわけじゃないけど…」と、語尾をぼかした返事が返ってきた。

 意外とひっそりした感じで売られているサーファー丼。名所にちなみ、勢いでそう名づけてしまったというコンセプトなら共感できる。



 気分を盛り上げるため、サーファー丼をもって海にやってきた。これまで勝手に断絶を感じていたサーフスポットだが、今日だけは私も仲間だ。頼むから仲間に入れてくれ。





 フタを開けてサーファー丼の実態が登場。豚肉とキャベツのピリ辛味噌炒めがご飯の上に乗っている。

 これがサーファー丼…。

 なんだろう、キャベツの白い部分が波をイメージしているのだろうか。あとは…あとは……。ダメだ、思い浮かばない。これは、サーフィンに対する私のイメージが貧困だからなのかもしれない。

 どんな言葉を費やそうとしてもダメだ。上で紹介した2人が考えてくれたどんぶりとも遠くかけ離れている。

 サーフィン好きの方なら「おっ、サーファー丼だね!」と、腑に落ちるところがあるのかもしれない。そういう希望の持ち方があってもいい。

 

 おなかも空いてきたので食べてみる……もぐもぐ、うん、普通においしい。

 見た目からの想像とまったく違わない味。海辺に座っている私の頬をなでる海風。別にそういったものに詩情を感じるでもなく、とことん普通のおいしさのサーファー丼。

 これから先、自分の家で味噌炒めを作って同じような食べ方をすることもあるだろう。そのたびに「サーファー丼…」と、この日のことがよぎるのだろうか。

 よぎったあとにどういう気持ちになるかは自分でもよくわかないが、変に心を乱されることなく、淡々とした気持ちで食べていければと思う。


 

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