路面標示には道路の管理者(国や地方自治体)が設けるものと、公安委員会(警察)が設けるものの2種類ある。現状標示の補修などは道路管理者からの依頼で、新規に設置する場合は警察からの依頼による。それぞれ、入札後に受注先が決定して施行に至る。
今回お話を伺った双葉ライン株式会社(東京都葛飾区)はその施行業者さんで、都内の道路に数多くの路面標示やラインを描いてきている。
早速、代表の御厨(みくりあ)さんに「止まれ」の値段を聞いたのだが、その算出方法がややこしい。
「まずは塗り面積を15センチ幅のメーター数に換算して、そこに土木施行単価本で設定されている単価を掛けると直接工事費が算出されます。その費用に共通仮設費、現場管理費、一般管理費、安全費がかかりますので、最終的な合計は直接工事費の1.8倍になります。また、夜間作業の場合は補正係数が変わりまして……」
すっかり頭が混乱してしまったので算出方法は置いといて、ざっくり「止まれ」はいくらなのか改めて聞いた。
「1文字で約8000円ですね。なので、“止まれ”で24,000円です」
業者間での価格競争や施行条件によって変動はあるものの、一般的な「止まれ(1文字の長さが1メートル80センチ)」の場合、1文字8000円が相場らしい。
という事は「止まって下さい」とした場合、4文字分の32,000円ほど余計にかかる計算になる。一カ所で32,000円なので、これを全国規模に換算すると大変な金額になりそうだ。全国に「止まれ」の路面標示が何カ所あるのか、調べがつかなかったのだが、東京都港区内での数は分かった。港区内6カ所の警察署によると、同管轄内には概算で1600個所の「止まれ」がある。(路面標示に関しては指導標示なので警察では完全に把握しきれていないので、あくまでも目安です)
つまり「止まれ」を敬語表記にすると、東京都港区だけでもおよそ5120万円も余計にコストがかかる訳だ。
「まあ、コストの面というよりは、可読性の問題が大きいですよね」
とは御厨さん。確かに「止まって下さい」は長過ぎる。道路上が文字だらけになってしまい、かえって腹が立つかもしれない。
だったら「止まる」はどうでしょうか?
「はははは。それはいいかもしれませんが、お上の言葉ですから“止まれ”ってなるんでしょう」
なるほど、お上は偉いから命令口調でいいのだ。 |