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コネタ


コネタ624
 
「斬る」を検証する〜スライスは薄いほど美味いのか?

オニオンスライスは薄ければ薄いほど美味しいと言われる。

ふぐやカラスミといった高級食材も、その多くが薄くスライスされている。

タマネギを丸ごと食べたって美味くなさそうだし、ふぐやカラスミもブロック肉になっていたら有難みが全然なさそうである。

…ということは。

どんな食材も、薄くスライスすれば有難くなり、みちがえるように美味しくなるんではなかろうか? 薄く切るだけで高級食材になるんだったら、こんなにいい話はない。

そこで今回は、いろんな食材をできるだけ薄くスライスしてみました。

実は包丁とかナイフとかの刃物が個人的に大好きなもんでねえ。ウヒヒヒ。

(text by ステッグマイヤー名倉

菊一文字の鋼鉄包丁。研ぎ具合をチェックするため、刃先に油性ペンをひく。
包丁を研ぎ上げる!

モノを薄く切るにあたって何より大切なのは、刃をよく研いでおくことである。

そこでまずは、砥石を用いて包丁に刃をつけ直すことに(スティック状の研ぎ棒は一時的にしか刃がつかないうえ、かえって刃先を傷めるので、あまり常用しないほうがいいです)。

ちなみにぼくは、研ぎ具合をチェックするため、刃先に油性ペンをひいております。ちゃんと研げてたら、インキが刃先まで残らず削られるハズでしょう?

刃がちゃんと付いてるかどうかは、研ぎ終わったあと、指の爪に刃を当てるとよく分かります。これでずり落ちなければ、よく切れる証拠。

裏側の刃にも油性ペンをひく。
十分に濡らした砥石でまんべんなく研ぐ。
裏側の刃もまんべんなく研ぐ。
うっとりするような刃の光沢。指の爪に刃を当てて、ずり落ちなかったら、ちゃんと刃が付いてる証拠。

塊のままだと不味そうなタマネギ。
タマネギを斬る!

まずは王道、オニオンスライスに挑戦する。

なるべく薄く、薄く…と心がけながらスライスしていく。学生時代に長らく調理場でバイトしていたので、こういうのは割と得意なんであります。

いざやってみたら、そこそこ薄く切ることができた。食べてみると…。

うん、確かに薄いほうが美味い。タマネギの風味が消えているだけかもしれないけど。

半分に切って芯を取る。
繊維と同じ方向に切っていく。
タマネギが残り少なくなると切りにくいので、どうしても我流の手つきに。
氷を作り忘れてたので普通の水にさらす。
向こう側が透ける位が美味いというので確認してみる。やった、透けてる!!
自分で言うのもナンだけど結構美味い。

キャベツも塊のままだと食指が動かないけれど。
キャベツを斬る!

スライスといえば千切りキャベツの存在も忘れてはならない。

丸ごとそのままだと、ちっとも食指が動かないキャベツであるが(青虫になった気分)、がんばって薄く薄く千切りしてみたら…。

急に食べたくなってきました。

そういやキャベツの千切りって、太いと妙にゲンナリするんだよなあ。

リズミカルに千切りしていく。ついでに指まで切ってしまいました。
薄く切ると急に食べたくなってくる。

このセロハン、どうやって剥くかいつも迷う。普段は爪楊枝を刺して剥いてます。

魚肉ソーセージを斬る!

お次は庶民派食材の代表、魚肉ソーセージであります。

長いまま皿に並べると貧乏くさくてミジメな気分になってくるけれど、薄くスライスたらどうだろう?

薄さ0.5ミリくらいにスライスしてみたら、さながら珍味のような外観になりました。おおっ!

ちょっとつまんで食べてみると…。ううむ。見た目が珍味っぽいだけに、期待との落差に思わずガッカリ。

来客にこれを出したら、なんとも気まずい雰囲気になりそうな予感です。

細くて長いものをスライスしていく快感。
さながら珍味のようになりました。京漬物の「日の菜」っぽい。

スーパーの惣菜コーナーで買ってきたものですが。
だし巻き卵を斬る!

これまたありふれた一品であるが、薄くスライスすれば何かが変わるかもしれない。

…と奮起して包丁を当ててみたものの、素材が柔らかいので、薄く切ろうとすると身が崩れてしまう。

結果として厚み3ミリ程度の、どうにも中途半端なだし巻き卵になってしまいました。

でも、皿に並べてみるとパーティー気分になってくる。だし巻き卵でもパーティーはできるのだ。

薄くしすぎると崩れてしまう。
こうして並べてみるとパーティー気分に。だし巻きパーティー。

京都で売っているのはどれも「京とうふ」。たまには違うのを食べたい。
とうふを斬る!

もっとも斬り甲斐のない食材のひとつ、とうふにも挑戦してみた。

いざ包丁を当てると、柔らかいだけにどうしても身が崩れてしまう。タマネギやキャベツなんかより、ずっと強敵である。

包丁片手に、必死になってとうふと格闘している自分にふと気づく。情けない。

それでも薄さ数ミリにスライスして皿に盛りつけてみる。おー、なんだか高級な生チーズのようではありませんか!

でも、箸で取ろうとするとつぶれるので、非常にイライラします。

必死になってとうふを斬ってると情けない気分になってくる。
一見すると生チーズのよう。でも箸で取ろうとするとつぶれる。

そのままでも十分に高級。
フライを斬る!

トンカツやエビフライといったフライ物は、ぼくにとってはそのままでも高級料理なんでありますが。

薄くスライスしたら、高級感がさらにアップするんではないだろうか?

というセコい魂胆でがんばってみたんですが、結果的にはなんとも貧乏くさいことになってしまいました。

「今夜はエビフライよー!」と言われて駆けつけてみたら、食卓にはこんなエビフライが…。心的外傷になることまちがいなし。

コロモを崩さぬよう慎重にスライス。
…切るんじゃなかった。

まな板にあんぱん載せたの初めてかも。
あんぱんを斬る!

食パンは切るのに、あんぱんは切らないというのもおかしな話である。

そこで一念発起、あんぱんも薄切りにしてみました。気分はパティシエ(あんぱんだけど)。

いざスライスし終わってみると…。

確かになんとなく「ごちそう」感はあるんだけど、それが逆に哀しくなってくるというか。あんぱんが「ごちそう」になってしまう家庭のような。

でも、ひとくち食べてみると妙に美味かった。哀しさが口元いっぱいに広がる。

気分はパティシエ。あんぱんだけど。
「哀しさ」がガツンと効いていて妙に美味い。

「生」と書いてあるけどタタキです。意味がよく分からず。
カツオのたたきを斬ってるときに、ふと気付く!

おかしなモノばかり切ってると感覚が麻痺してくるのでいけない。ここはひとつ原点に立ち帰って…。

というわけで、カツオのたたきをスライスすることにしたわけですが。

「魚だったらもっと薄く切れるハズなのになァ」と憮然としながら包丁を当てていたら、ふと根源的な問題点に気がついた。

家庭用の「万能包丁」は、プロ用の柳包丁なんかと比べると刃が厚いから、いくら研いだところで寿司職人のように薄くは切れないのだった。ああ、こんな基本的なことを忘れていたとは!!

おかげでカツオのたたきも、ごく普通の仕上がりになってしまいました。しょんぼり。

柳包丁があれば、とうふやアンパンも、もっと薄く切れたのかもしれません。

「万能包丁」の限界を痛感。もっと刃が薄い柳包丁が必要だった。
すげえ普通。とくに言うことはありません。

ネギは切れる万能包丁。
ションボリしたときはネギを斬る!

万能包丁で薄く切れるモノなど限られていたのだ。畜生。

というか普通の万能包丁は、とうふを薄切りにすることなど想定していないのだろう。とうふを薄切りにできる細身の包丁は、魚を骨ごと斬ったりができない(刃が折れてしまう)。これでは万能包丁とは言えない。

でも、ネギなんかであれば、万能包丁でも十分に薄く切ることができる。

要するに「用途に合った包丁を選びましょう」という、至極当たり前の結論に達してしまったのでした。

薄く切れると気分がいい。ぼくのストレス解消法です。
でも、あまり薄いネギはかえって不味そう。

シイタケで恨みを晴らす。
最後にシイタケを斬る!

といっても万能包丁、薄切りが想定されていない食材であっても薄く切れるものもある。

たとえばシイタケ。普段は薄切りなんてしないけれど、切ってみたら…どやっ! 薄いじゃろうて!!

それがどうしたという話である。

そして、ただ勢いだけで薄切りしてしまったシイタケの山を前にして、しばらく茫然と。

せっかくなのでちょっとだけ食べてみたら、たいそう不味くて余計に気が滅入った。

どやっ! どやっ!
…これ、どうやって食うよ?

でも、こうやって薄切りを並べてみると、
韓国あたりの宮廷料理っぽくないでしょうか。無理ですか。

すっかり干からびた魚肉ソーセージ

今回は家庭用の包丁を用いたので、食材によっては中途半端な薄切りになってしまいましたが。

「薄く斬る」ことの良し悪しが、これで少しは分かったような気がした。

薄くスライスすると美味くなるものもあるが、だからといって高級感が出るわけではない。逆に貧乏くさくなって、かえってイメージダウンしてしまうものもある。

でも、その貧乏くさい哀しさが、妙なスパイスになる面もあるわけでして。ちょっと倒錯した美味しさというか。

***

ちなみに、スライスした魚肉ソーセージを一日放置していたら、すっかり干からびてチップス状になってました。

食べてみたら濃厚な味わいで、これはいける。

豆腐も薄く切って乾かせば「珍味」になるかもしれません。


 

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