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コネタ


コネタ689
 
そこに、愛知万博があるから。
そこに、山があるから。(スイス館)

みなさんは、愛知万博「愛・地球博」をご存知でしょうか。
ご存知だとは思いますが、会場へ行ってみたものでなければわからないご存知があるのではないでしょうか。

正々堂々と「存じております」と言うために、むしろ言うだけのために、愛知まで行ってきました。

(text by 土屋 遊

すべては, 「予約でいっぱい」からはじまった

実は、最初に息子が
「夜行バスで愛知万博に行く」
と言いだしました。

「うっわー、万博か〜混んでんだろうなあ、疲れにいくようなもんだなー」

すでに私は中年の域に達してますから、想像しただけでもうんざりです。長距離バスも車中泊も、聞けば聞くほど疲れてきます。ドッときていた私の耳に、希望日は予約でいっぱいだから翌週にする、と息子の声。

それを聞いた中年女の脳内は混乱し、なぜか「私も行く」と口走ってしまいます。更年期障害でしょうか。

とにかく、「予約でいっぱい」その一言に私は発奮しました。
自己分析によりますと、私はミーハーではないはずです。むしろ絶対多数を逆走してきたと思い続けてきたものですが、いやでもしかし、"予約でいっぱい"にコーフンし、踊らされている私を、ミーハーではないと誰が言えるでしょうか。
私には言えません。

東京駅に浮かぶ万博オーラに武者震い

夜行バスの集合場所は、東京駅。
小雨が降る中、深夜の丸の内周辺は愛知オーラが……。

もしや、と、思いましたが、中央郵便局の前に長蛇の列。
まさか、と、思いましたが、みなさん夜行バスで愛知に臨む方々。
同志たちの気迫に圧倒され、二三あとずさりした私ですが、自分たちが列の最後尾につくことも忘れ、ずいぶんと勇敢な人がいるもんだなあと感心しきりでした。

順番をまちながら「愛・地球博ガイドブック」を熱心に読みあさっている方もいます。イメージトレーニングでしょうか。並ぶコツはすでにパーフェクトなまでに習得なさっているようでなによりです。試験開始ギリギリまで単語帳を目にしているような秀才タイプだとお見受けしました。
『人生、一生勉強』
これは誰の名言でしたか。


万博オーラに霞む丸の内周辺

こちらのバスで出陣します

点呼をすませ、バスが発車したのは深夜12時をまわっていました。
運転手さんのアナウンスによると、名古屋に到着するまで、合計三回の休憩があるとのこと。
私は毎回バスを降り、徐々に万博モードになっていくであろうサービスエリアの様子を撮影・レポートしようと意気込みましたがどうやら空振りにおわります。

7号車コーフンの一番乗りです

それを他人様のせいにするわけではないのですが……

・ヒザ掛けをカラダにぐるぐると巻く人
・手品のように、いきなりバックから空気まくらを取りだす人
・隣の友人と一言も発しないままアイマスクをする人
・ものの見事にカレの腕に密着する人

流れる景色に意識が遠のく

すでに電気も消され、バスの中は彼らのプロフェッショナルな「安眠体制」。ド素人の私がノンレムモードの中でひとりらんらんと目を見開き、レポートすることなどできましょうか。できるかもしれませんが私にはムリです。

おやすみなさい。

みな、心はひとつ「愛・地球博」
最寄りのサービスエリア

 

"ようこそ"がそびえたつ
早すぎやしないか到着時間

浮上リニモを初体験

終点は会場近くの大型バス専用駐車場。

わたしたちはここからリニモに乗って、観覧車が「ようこそ」と待ちかまえるあの場所に向かいます。
まったく知らなかったのですが、リニモは日本初の磁気浮上式リニアモーターカーだそうで、正式名称は愛知高速交通東部丘陵線。
高速というほどスピードはありませんでしたし、ジャンプしてチェックしましたが浮いている実感もありません。"磁気"というからには、大量の磁石を持って行って、日本初である証を確認してみればよかったとひどく後悔しました。
しかし真の後悔とは、こんなナマやさしいものではありませんでした……。

 


リニモから下車し、改札を抜け、30歩歩いたあたりで私たちが目にしたもの、それは、私がもし貧血持ちだったら、まちがいなくその場でぶったおれるだろうと安易に推測できるような、あるいは私がもし人間恐怖症だったら、まちがいなくその場で踵をかえし猛ダッシュで逃げだすような、あるいは私がもし今コンタクトをしていなければ、ただのアリの大群だと思いその場をやりすごすような、そんな妄想が次々に浮かぶ光景でした。


彼らが見守るなか……

当日までの一日来場者数3位に輝く155,476人。VIPシートのモリゾー&キッコロにかるく嫉妬をおぼえる

 

やっと列に到着。すでにどんよりと疲労感
あっというまにうしろにも人ばっかし
雨が降ったらご覧の通り
恐れ多くも金属探知機

万博だってテロ警戒中

帰りのバスの時刻に間に合わないのではないかと思われた入場口でしたが、どうやら先が見えてきました。

世界中がテロの恐怖におびえている昨今、心おきなく観覧できるようにと、来場者ひとりひとりに荷物検査が行われます。

開催者サイドの心配りは徹底していました。2、3歳児が肩にかけているピカチュウポーチまでチェックしてこそ、安心して万博を満喫できるというものです。

おおきなダンボールに、ペットボトルが山のように積まれていました。

私はまったくの予習なし、万博予備知識といえば、
「『植物の種子を蒔くこと』は禁止」
ということくらいでしたが、そういえば、保安上の理由から「ペットボトルの持ち込み禁止」だということも小耳にはさんだような気がします。

お気の毒なことに「これがもし危険物なら中の飲み物を飲めないはずだろう」と、警備員の前でゴクゴクとミネラルウォーターをがぶ飲みしていた外国人の方がいらっしゃいました。
異国でのパフォーマンスのかいなく、5本のペットボトルをすべて没収されていましたが、このままでは悶々と会場入りしてしまうのではないか、どうせなら5本全部飲み干せば気が晴れるのでは……といらぬアドバイスを申し出たい気になってしまいます。

 

 

これが、これこそが万博の醍醐味だった

さて。私が持参していた植物の種子もチェックされることなく、無事検問を突破し入場することができました。
子供たちが目当てにしているパビリオンひとつくらいは見たいと、足早に向かいましたが、幻としか思えない看板が私たちを出迎えてくれました。


やっと入場。みなさんコーフンをかくせません

東京〜名古屋までのバス所要時間とほぼ同じ。これ、開場直後です

 

翌日にも余韻が残るわたしの万博物語

思い起こせば私の万博は、敗北感を味わったこの列の最後尾が終点だった気もするし、あるいは始点だったような気もします。
6時間という幻を目にしたあと、私たちはとっととスケジュールを変更。雨に打たれながら、少しでも人の流れが早そうなパビリオンを躍起になって探しだすことを極めていくこととなります。なにかに取り憑かれたように、食事する間も惜しんで13もの館に次々に入館。日も暮れる頃にはかけずりまわっていました。早流れパビリオン探しにかけてはセミプロの域まで達していることでしょう。

冷凍マンモスもゴミ掃除ロボにも、本物のモリゾーとキッコロにも出会えなかったけれども、世界13カ国を存分に楽しむことができた愛・地球博。この達成感は、もしかして山登りにも近いのではないか、でもって山登りの良さは、登った者でしかわからない、しかし下山したはいいが、翌日階段が上れなくなるほど筋肉痛になることもあるので30代後半は注意が必要、というわけで、このへんで私のレポートをおわりにします。


「信じられないような寝相をしてたよ……」とは同行者談。目覚めた時は見なれた西新宿でした。

 

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