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ノコギリ演芸を習ってみる

横山ホットブラザーズのノコギリ演芸「おーまーえーはーアーホーかー」にしびれる人は、少なくとも日本に30人はいるのではないか。

私もそのうちの1人で、いつかは自分でやってみたいと思っていた。が、きっと特別な人の特別な技術に違いないと思いこみ、あきらめかけてもいたのだった。

しかし。ある日上野で、演芸講座に「のこぎり音楽」があることを知らせる看板を発見。ここでなら教えてもらえるかもしれない。横山ホットブラザーズに近づけるかもしれない!

というわけで、高鳴る胸を押さえつつ、入門してみました。

(text by 田端 トモコ

「お江戸演芸スクール」は、上野の「お江戸上野広小路亭」の中にある。3階が寄席で、スクールは4階と5階。ほかに落語や講談の講座もあります。
「えー、お笑いを一席……」なんてやってる上で、一般の生徒さんたちが演芸の習得にはげんでいるわけ。いわば、ここは、観て、学べる、総合演芸タワーです。

毎日演芸やってます。

 

そして、こちらが、今日教えてくださるおぎ原まこと先生。ゴンチチのアルバムにも参加したことのある、今後もっとも期待されるノコギリ音楽家。
もともと楽器が好きで、「どうやって音が出るんだろう?」という興味からノコギリに惹かれたそう。じっさいにノコギリに触る前に友達に教えてもらった演奏会に行ってみたら、それが「日本のこぎり音楽協会・発足式」で、そのまま入会、今日に至るそうです。

おぎ原先生。今日はよろしくお願いします。

 

さっそく、構えを教えていただく。使用するのは、洋ノコです。

(1) 椅子に浅く腰をかけ、柄を両ひざではさむ。このとき、ギザギザの刃は自分のほうへ向ける。
(2) 左手で刃の先端をもち、床のほうへ曲げる。正面から見て45度が一番音の出やすい傾き。
(3) このとき、左手の人差し指、中指、薬指の第一関節をノコギリの先端のエッジに重ねるように。プラス、ぐっと自分側に引き寄せる。
親指はそこから5センチくらいの面に当て、グッと力を入れます。ノコギリ全体がSの字を描くように。そうしないと音が出ない。


この態勢を演奏中はキープオン。けっこう力が要ります。

 

先生がサンプルを聞かせてくださる。うわ、はじめて生で聴きましたよ、「お前はアホか」! 木琴をたたく棒(マレット)を渡され、いきなり「やってみてください」と言われる。
「あのー、音階は……」とたずねると、「ないです」とのこと。

ノコギリは地面側に刃を倒すと高音に、自分側に曲げると低音になる楽器。高音になる「お前は」の「は」と「アホか」の「ホ」のところでタイミングよく曲げればいいだけ。たたくのは一箇所だけで、いちばん音の出るポイントであるS字の山をねらいます。

何度か練習するうち、かなり音は悪いけど、たしかに鳴りましたよ!
ポイントは
「は」と「ホ」で刃を曲げたら、即もどす
ということ。「は」「ホ」で高音になったことに有頂天になり、その後のアクションがお留守になっちゃう。左手の指もしっかりね。

ということで、案外あっさりと、本日のミッションを達成してしまった。が、この講座は「のこぎり音楽を楽しむ」。ちゃんと楽器としての魅力も教えていただきました。


なんとか音だけは出るようになりました。

 

ビブラートをかけると、音がゴージャスになる。「夕焼けこやけ」をビブラート版を聞かせていただいたのだけど、この曲って、こんなにオゴソカだったっけ? というぐらい変わります。「夕焼け」というよりは「トワイライトゾーン」ですよ。超次元体験ですよ。

ビブラートは、片脚を小刻みにふるわせることで、かけることができる。貧乏ゆすりをするように左右の脚をふるわせて、ふるわせやすいほうを使う。おどろいたことに、ハッキリわかるのだ、どっちが使いやすい脚なのかが。両手を組んで、右(か左)の親指が上にくると違和感があるのと同じ感じで。ちなみに私は左脚だった。みなさんも確かめてみて!

カラオケのCDにあわせて、平井堅の「瞳を閉じて」を先生に演奏していただいた。お、たしかに平井堅が歌ってる! ノコギリに平井堅が宿っている!

胡弓などもそうだけど、ノコギリの音は、人の声に似ているかもしれない。そういえば、先生は「夕焼けこやけ」の2番を、歌うのと同じリズムで弾いておられましたっけ。というか、「お前はアホか」じたいが人の声だ。

もちろん、ノコギリは主旋律だけでなく、伴奏もできる。映画『デリカテッセン』ではホヨ〜ンとした音で主人公と恋人が二重奏をしていましたよね。


大きなのこぎりは音階が広い。

 

ここで素敵な道具たちを紹介。左手の関節をぐっと刃エッジに食い込ませるのは、正直、長くやっているとしんどい。そんな時のお助けグッズが、先生考案のバンド。第一関節あたりにはめて刃をつかめば、長時間の演奏もへっちゃら。


これ1本あると助かります。

 

さらに便利なのは、ハンドル。握力がないって人は、これでなんとかなります。


だいぶラクです。

 

肉体矯正系でいくと、きわめつけはこちらの脚用バンド。ふつうの和装バンドなのだけど、これで脚をくくると、膝で柄をがっちりつかむことがでる。生徒さんが個人的に持参したもの。みなさん工夫されてます。


和装バンドに意外な利用法。

演奏のさい、ほかの生徒さんたちが使っておられたのは、棒ではなくこちらの弓。チェロやバイオリンを弾くのと同じ道具です。これを使う時は、一箇所を弾きつづけるのではなく、場所を変えながら音階を調節します。

これまた、演奏姿が優雅! 『101回目のプロポーズ』の浅野温子に負けてません。

弓を使うとぐっとエレガント。

 

おっと、ノコギリ本体の紹介を忘れてはいけません。今回使わせていただいたのは、音楽用のノコギリ「ミュージカル・ソウ」。ぱっと見は普通のノコギリと同じ。違いはといえば、音楽用のほうが曲げやすく演奏に適したサイズに作られているということと、刃の目を立ててないということぐらい。

逆に、やろうと思えば、ふつうのノコギリでも音が出せるそう。先生は100円ショップののこぎりも試したということです。


右が音楽用、左が普通のもの。普通のものもモノによっては音が出ます。

 

ところで、私は横山ホットブラザーズきっかけだったけど、ほかの方はどんな動機で習いはじめたんでしょ? 受講している生徒さんに聞いてみました。

にこやかな20代の山中さんは、ドラムもできる方。ケブ・ホッパーなどの現代音楽が好きで、彼らがノコギリを使って演奏しているので、興味を持ったそうです。課題曲の「アメージング・グレイス」、すてきでした。


山中さん。現代音楽が入り口でノコギリへ。

 

きっぷのいい50代の齋藤さんは、中学生の時に『私の秘密』というテレビ番組を見て興味を持ったということ。大道芸人がノコを使って芸をしていたそうです。なんと40年ごしの挑戦! 「孫のピアノとセッションをすることが夢だねぇ」と目尻を下げる齋藤さん。ぜひ夢をかなえてください!


斎藤さん。熱心に演奏していらっしゃいました。

まとめ

習いはじめて約10分でできてしまった「お前はアホか」。

が、ノコギリは、それだけで済ませるにはもったいない、かなり美しくて繊細な音色をかなでることを発見。外見のシンプルさと違って、曲げかたと弓の入れかた次第で何通りもの音が出る、奥の深い楽器です。

それに、競技人口が少ないのもねらい目。「ピアノ弾けます」「ギター弾けます」はよく聞くけど、「ノコギリ弾けます」は滅多にありません。何か楽器を習いたいナーって人は、迷わずノコギリです。

ノコギリは歌います。確かに。

今回ご協力くださったおぎ原先生と生徒さん、本当にありがとうございました!

永谷お江戸演芸場サイト
おぎ原まこと先生サイト

 

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