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コネタ


コネタ807
 
チャリ走行中にぶつかってくる虫の数を調べる
虫をおびき寄せる

自転車に乗っていると、顔に虫が当たってくることってないだろうか。
私はある。
ものすごくある。

小さな『蛾』を食べちゃったこともあるし、鼻の穴に小バエが入ってもがき苦しんだこともある。
カナブンヒットだって、十数回におよぶことだろう。

とにかくハンパじゃないのである。

この話をすると皆が
「みんな同じだよ」
と、感心してくれないのがなんともくやしい。

私のものすごさを証明する方法はないだろうか、と考えていたら、あった。

両面テープで、それを証明してみせます。

見てろよ。

(text by 土屋 遊

虫とりマスクの下準備

「ハエとり紙(テープ)」をご存知だろうか。
田舎の大衆食堂に、よくぶらさがっている粘着テープがそれだ。

あの魅惑の「ハエとり紙」からヒントを得たのが、今回発案したグッド商品『虫ホイホイマスク』である。

市販のマスクに強力両面テープを貼りつけ、バチバチ突進してくる虫をことごとくゲットする計算だ。

マスクと両面テープを買いにスーパーに行った。
花粉症の季節は終わっているものの、あらゆる種類のマスクが陳列されている。

「でもさあ、一番ぶつかってくるのって、目だよね」

と、今回(も)、協力をかってでてくれた友人の伊藤さん。

安物のサングラスに、両面テープを貼ってはどうか、という案が出た。

「前が、見えないよね……」

マスクの中でもなるべく大きなものを、と物色していると、どうも欲がでてくる。
女性の肌ケア用品「フェイスマスク」を見て、マスクじゃ物足りなくなってしまったのだ。

ちょうどガーゼが安売りされていたので、それをマスク代わりに、鼻から下を覆ってみよう、ということになった。

これらで勝負します

これはどうかなあ?
じゃ私はこんな感じ?
育ちがいい伊藤さんはどこでも正座

早秋のベンチで虫とりマスクを制作する

公園のベンチで、マスクの制作に取りかかる。

試行錯誤しながらガーゼをグルグルと巻いているうちに、お互い、一番合理的なホイホイマスクに近づいてきた。

私はちょうど帽子をかぶっていたので、薄いガーゼを挟みこみ顔に向かってダラりと下げてみる。
その様子が、顔を思わせぶりにひた隠すアラブ諸国の女性(姫)のようだったので、日が暮れるまで、伊藤さんは私を

「姫っ!姫っ!」

と呼ぶことになった。
しかし実際は、養蜂場のおばさんのようだったと思う。

伊藤さんは、目だけ残して顔全体をガーゼで巻き込む、ミイラバージョンで勝負に出た。

私に協力してくださっているうえに

「ミイラ!ミイラ!」

とお呼びするにはあまりにもしのびないと思い、そっとしておいた。

アラブ諸国バージョン
(通称『姫』)
ミイラ男バージョン
(ピースをキメる通称ミイラ)

 

サキソフォンと遠慮深い中学生

支度の途中、吹奏楽部らしき中学生2人が、ピカピカに輝く楽器を見せびらかしながら歩いていたので、

「それはなんという楽器ですか」

と訊ねたら、

「サキソフォンです」

と誇らしげに答えてくれた。
何ごとも、自信を持つということはすばらしい。

ここで演奏してくださいと頼んでみたが、

「遠慮しときます」

と礼儀正しく断られた。

撮影も願いでたが、それも遠慮されてしまった。
私たちはミイラと姫、もしや不審者だと思われているのではないか……
とっさに、

「私たちも母です」

「息子がいます」

と事実を打ち明けたが、ことごとく遠慮されてしまい足早に逃げられてしまった。
最近の中学生は、遠慮ぶかいということを思い知った。


がんばれよー!少年ー!
見えなくなるまであたたかく見守りました

いよいよ、実験開始

気を取り直して実験をスタート。

ステージは、善福寺川周辺。
そうだ、つい先日の台風で、この川は見事に氾濫したのだった。

私たちはその様子を取材したが、予想を上回る被害におののき、公開するのを断念したほどだ。

感傷に浸る私をよそに、

「早くー行きますよー」

顔の表情はわからないものの、伊藤さんの全身から、異様なまでにはりきっているのが手に取るように伝わってきた。


全身からみなぎる闘志

20分経過

20分後。

途中経過のため両者確認してみたが、虫どころかホコリさえもついていなかった。私の伸ばしっぱなしの髪の毛だけが不本意ながらダラダラと付着している。

……。

とにかく、走ろう。


「早くしてよ〜!」
途中で目もふさがれてしまった
途中経過のチェック中
人には避けられたが犬はよろこんでいた

 

35分経過

それから15分後。
ちょうど目の前には芝生があった。そうだ、芝生には虫がいる。
このさい、バッタだってアリンコだって毛虫だっていいじゃないかということで、思いっきり横になってみた。

なんということか、じっとしていると首やウデは蚊に狙われるのに、両面テープにはまるっきり近よってこない。

 


このまま寝ちゃおうかな……
おびき寄せるために黄色いTシャツ
どこまでも無防備ですね。芝生と一体化
このツラ構えでおすましの伊藤さん

 

よく見たらすごく不審者
トイレの前で携帯中

公衆トイレで反則技

再スタート。

「きたよきたよ」

伊藤さんがいきなり急ブレーキをかけた。
何ごとかと思えば、目に虫が入ったのだと言う。

私は一目散に、目よりもテープを確認したが収穫はゼロ。
よりによって、このすき間をねらうとは……。

この努力はムダにしたくない。
姫やミイラになったかいがないのも悲しい。

私たちは公衆便所にいって、小バエを探してみた。
このさい、自転車に乗ってなくてもいいや、なんだってつけばいいや、などと考えていた。
ヤケクソである。

いつもならうっとうしいはずの小バエにさえ見放されたのか。

 

ブランコに乗って気分転換をはかっていたら、なんだかもうどうでもよくなってきた。

帰ろう。


よく見たら危険人物

伊藤さんは、虫のことはすでにどうでもいいようで、ひたすら

「誰か、『あら?伊藤さんでは!?』と声かけてくれないかなあ……」

と、虫どころか人ばかり捕まえようと、人のいる方へ人のいる方へと吸い込まれて行った。

サマになっています
こういうとこって意外と虫多いんですよ、と伊藤さん

皆の待機する伊藤家に戻って確認してみると、私のホイホイマスクアラブ諸国バージョンには、小さな何かが11個もくっついていた。
顕微鏡で見てみようと思ったが、顕微鏡はおろかルーペも虫メガネもない。
しかたなく肉眼で検証。

虫のようではあるけれども

『多分虫ではないなにか』

が付着したという結論に至った。私だけである。

ほらあった。


羽があるようにも見えるんだけど……
正体がわかった方はご連絡を

私の吸収力は実証された。か。

実は、私がここまで自信に満ちていたのには裏づけがあった。

じっとしていても、私には虫が寄ってくるのである。

クモが足を這い上がっていたり、気がつくと腕でアリが働いていたりする。髪の毛で数日ハエを飼ったりもした。
トカゲもカマキリも、カナブンもよく目にする。

砂糖の過剰摂取のせいだろうか、理由は不明だが、生き物が寄ってくる。痴漢にはあったことはないが、露出狂にも何回も遭遇した。
これはすべて、周囲も認めている事実だ。

今回の検証で、生き物や露出狂のほかにも、

『虫のようなナニか』

も寄ってくるということを立証したので私は満足だ。

唯一寄ってこないのは人間のまともなオスだけのような気がする。今後はこの件に関してなんとかしたいと思う。


勝者は私。でもなんだか負けたような気がすごくします。

後日談

その後、伊藤家長男と私は、自転車で笹塚の我が家までいっしょに帰宅しました。
すでに日は暮れています。
ガーゼ一枚では視界が悪く、私は環七の交差点でスッ転んで流血……。
ちょっとした渋滞を招きました。

「家に着くまでが遠足だ」
小学校の担任の教えを忠実に守り、家までひきつづき調査を実行していたのです。
ひじょうにサバイバルな帰路でしたが、なんとか虫を捕らえたい、その一心でした。

その夜、伊藤さん宅へ、ご近所の方から電話があったと報告を受けました。

『ちょっとー、あぶない人と○○君と一緒にいたけど……大丈夫なの?』

事情を話すと
「まあそうだったの?あぶない宗教の人だと思ったわ」

アラブの姫を捕まえて、あぶない宗教とはなにごとでしょうか。
そしてそれは、いったいどんな宗教なのでしょう。

闇夜に消える伊藤さん

 

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