列車に乗ってトンネルをくぐる
外から見ているだけでは感動しないのかもしれない。
実際に電車でトンネルをくぐってみなくては。
樽沢トンネルの最寄り駅である、川原湯温泉駅から次の駅の岩島まで電車に乗ることにした。
川原湯温泉は、湯かけ祭りというのが有名らしい。
冬の厳寒期に裸の屈強な男達が温泉のお湯を掛け合う勇壮な祭りだ。
ぜひ今度はその祭りの季節に訪れたい、そんな思いに駆られたり、いや本当は駆られなかったりしながら、田舎のローカル線に乗り込む。
しばしの間の旅気分だ。
紅葉にはまだ少し間があるが、風光明媚な吾妻渓谷を電車は走る。
車内は部活帰りの楽しそうな高校生たちで賑わっていた。
きっと彼らはまだ、人生の暗いトンネルを経験していないのだろう。
屈託のない彼らの笑い声を聞きながら、屈託だらけの毎日を送るボクはそう思った。
青春っていいな。
通学電車で他人のことなんか考えずに大騒ぎできるような、そんな青春の日々がまた来ないかな。
川原湯温泉を出発して程なく、電車はトンネルに入る。
いくつかの普通の長さのトンネルを抜けると、目指す樽沢トンネルだ。
そろそろだろうか。車窓から少し顔を出してみる。
お、短い。
このトンネルは短いぞ。
ここぞとカメラを構えるが、いかんせんトンネルは短い。
あっという間に通り過ぎてしまい、カメラに収められない。
オーバーランだ。
運転手さんバックしてください。
仕方がないので岩島駅で折り返す。
今度は動画を撮影だ。
短さ、おわかりいただけただろうか。
あっという間に通り過ぎる暗闇を。
この刹那のトンネルを。
けれども、ボクにはやっぱりわからない。
短いから何なのだ。
それがどうした。
いやいや、待てよ。
トンネルは人生なんかじゃないんだ。
トンネルはあくまでトンネルなんだ。
自分の人生を切り開くのはいつでも自分自身。
短いトンネルなんかに何も期待してはいけない。
確かにそこには短いトンネルがある。
それだけで充分素敵なことではないのか。
そんな風なことをボクに気づかせてくれた今回の旅だった。 |