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セルフタイマー五種競技

ライターという仕事をしてると「自分で何かしている姿を撮る」という必要に駆られるのだけど、これがなかなか難しい。そのためにセルフタイマーというものがあるのだろうが、これがまた思い通りに撮れない。いろいろセットしたつもりでも、実際撮ったのを見てみると右にヨレたり左にヨレてたり。

人みしりのオレでも誰にも頼まず写真に写りたい!ひとりぼっちの観光旅行でも風景をバックに写りたい!いついかなる場所・態勢・時間差でもセルフタイマー撮影のド真ん中に写れる男になるために、セルフタイマーによる陸上五種を開催してみました。

(text by 大坪 ケムタ

赤のラインがセンターです。

 

シャッターを押してもカメラがブレないよう、念入りなチェックが続く。

第1種目 セルフタイマー徒競争

「快晴のシンジュク・ギョエン・スタジアム、今回2012年ロンドン五輪の参考競技を狙う新競技・セルフタイマー五種競技のデモンストレーション初日が行われます。実況はワタクシ大坪、解説は大坪さんにお願いいたします。よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。」

「今回初開催となるセルフタイマー五種、まずは代表選手による宣誓から行われます。まず自らカメラをセットして‥おッと大坪選手これはいけない、いきなり中心線からズレている!東欧の砲丸投げ選手を彷彿とさせるムッチリ体型に関わらず、右約2度ほどズレが見受けられます!解説の大坪さん、これはいきなり減点ですねぇ」


「スポーツマンシップの姿勢として許し難いですね、聖火点灯の際に点火台でなく端に停まっていたハトに火点けるようなモンですよ」

「さぁ、いきなり評価を下げた大坪選手、まずは陸上の花形『徒歩競技』からのスタートです。これは一体どういった競技でしょう?」

「セルフタイマーのボタンを押して全力疾走し、どれだけカメラから距離を離れ、なおかつどれだけ中心に写っているかを競う競技です。このダダっ広い場所でまっすぐに走るというのは結構至難の技ですよ。」

「大坪選手、入念なカメラチェックと方角確認の上でスタートラインに立ちました。このセッティングの際重要なことって何でしょう?」

「まずカメラを水平にセッティング、そしてフレームの中央に走る際の目安を作ることですね。地平線しかないような何も無いところでは、走る選手もドコ見ていいかわかりませんからね。今回の会場は比較的ランドマーク多いんですが、大坪選手は森のやや凹んでる部分を中心線に据えたようです。いい判断です!」

「はい、遂に走行許可の白旗が振られました。今回はスタンディングのスタート。‥緊張の一瞬です。シャッターボタンに手をかけて‥走り出した!」


セカンドカメラからの映像。よーい
ドン!タイマーは5秒にセット。

1走目はやや左曲がり。
2走目。気になって振り返った瞬間にシャッターが下りた。

「‥はい、早速結果が出ました。まず2走分ですね。う〜ん、ちょっと左寄り!」

「最初の右寄りだった宣誓の失敗を気にして左に気を向けたところ、見事にやりすぎたようですね。いたって単純な選手です。」

「さぁラスト3走目、大坪選手にロンドンの灯は見えるのか?シャッターボタンに手をかけました‥大坪選手、走った!5・4・3・2・1、運命のシャッターが下りた!さぁ最後のチャレンジの結果はどうだ?」

 

3走目はほぼ中央。右下は判定写真です。

「3走目いいですよ!ほぼ中央に身体が来てます。しかも頭と足が中央に並ぶ理想的な位置。あとは距離ですねッ!」

「ちょっと待ってください‥競技委員会からの発表が今ありまして『走ってしまうとシャッターの音が聞こえないから、どの地点で撮られたか分からない。だから正確な距離が分からない』との正式通達が今来たんですが‥」

「確かにシャッターが押された時は全力疾走中ですからね、どこがセットした5秒なのか5秒なのか分からないですよ、シャッター下りた瞬間ベルが鳴るとか、デカい音でも出ない限り。」

「さぁ、企画倒れの臭いがプンプンしてきましたが‥あ、でも歩数と歩幅による超ザックリした記録が発表されました。『角度0度、35mくらい』が今回の参考記録です!やりました日本代表・大坪選手!」

 

ということで、ブンブン振り回すぜ!

第2種目 セルフタイマーハンマー投げ

「続いて第2種目『セルフタイマーハンマー投げ』ですが解説の大坪さん、この競技を説明していただきますか?」

「これはカメラというと本体の部分とストラップに分かれてるのは言うまでもないわけですが、このストラップの部分を掴んでブンブン振り回して空中にあるカメラでどんな風景が撮れるのか?を競う競技ですね。各国審査員による芸術点によって競われることになります。」

「じゃあ『ハンマー投げ』とついてはいますが、本当に『投げ』るわけではないと?」

「さすがに投げると大変なことになりますからね。周りの家族がこれまで以上にヒくのはもちろん、カメラがブチ壊れます。ここは見た目で満足していただければ、という妥協の産物ですね。」

「大坪選手、ほぼ休憩なく第2種目に挑みます。セルフタイマーのタイムは再び5秒、スピード感のある映像をモノにするためにも、シャッターが下りる瞬間までしっかり遠心力をつけて回したいところ。ストラップを掴んで回転が‥速くなるッ!」

「体重が乗っていいスピードですよ。あとはレンズどこ向きの時にシャッターが下りるかですね。空中か地上か‥」

「残り2秒、1秒‥そしてシャッターが‥いま下りました!」


三半規管がノックアウト。

「‥はい、最初の第一投目から30分近くになりますが‥セルフタイマー投げの結果はいかがなりましたでしょうか?」

「大坪選手、デモンストレーションということで意気込んで30本以上グルグル回ってたんですが、やや気分を悪くしたようです。勢いをつけるためにスタジアムに入る前に飲んでいたライフガードのウォッカ割が回転に悪影響を及ぼしたと思われます。」

「日頃の運動不足と酒好きがたたった結果となりましたね。本人は『ロシア人は皆コレ飲んで現場行ってンだよ!』とありもしない事を言ってましたが。では、その30本近くの撮影の結果はいかがでしょうか?」

「‥あッ、審判団からその中のベストショットっぽいのが配布されています。こちらでご確認ください!」

 

 

「‥スピード感のある空中写真ぽさを期待したんですけど、今の大坪選手同様に酔っぱらいの見てる光景みたいになってますね‥正直、見てるとコッチも気分悪くなります。」

「うっかりオシャレ写真と勘違い、というよりは単にオートフォーカスがついていけてない感じが丸出しですね。シャッタースピードなど調整しての明日以降の巻き返しに期待したいところです。」

「さて、本日2時間に渡ってお送りしてきたセルフタイマー五種競技、初日はこれで終了です。明日2日目はセルフタイマーのシャッターの瞬間に合わせてジャンプし、その瞬間一番高い位置にいる選手を競う『セルフタイマーハイジャンプ』。続いて三脚を付けたカメラを放り投げ、刺さった位置からどんな光景が撮れたかを競う『セルフタイマー槍投げ』が行われます。」

「最終日には10kmを延々セルフタイマーで名所を撮影しながら走る『セルフタイマー長距離走』が行われます。こちらも楽しみですね。いい風景を見つけて撮ろうとした時にはセルフタイマーだから通り過ぎてる、そんなもどかしさが人気の競技です。」

「それでは今日は解説の大坪さん、ありがとうございました。」

「ありがとうございました!」

2日目はとりあえず予定ナシです

何度か取材したさるドキュメント監督は、使い慣れてるビデオカメラなら一切ファインダーを覗かなくても何が写ってるか分かるそうだ。その氏はカメラを持って約20年。わざわざ走ったり振り回したりせずとも、20年近くセルフタイマー人生を続ければ達人になれるのかもしれない。

ただ第2種目『セルフタイマーハンマー投げ』のように振り回したりすることで、普通に手に撮って撮影する映像とは、また違う光景が見えてくる可能性を感じることができた。

セルフタイマー、それは未来が撮れるカメラ。「意図しない何かを撮れる可能性」はLOMOなどのトイカメラに通じる所がある。その可能性を広げることがブン回したり投げたりなのかは、後生の人たちに委ねることにしたい。たぶん違うけど。

セルフタイマーハイジャンプと槍投げ(参考映像)


 

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