待っている間、とにかくやる事がないので周りの会話ばかりが気になる。
『男性格闘技ファン、格闘界の今後について熱く語り合う』
「やっぱり今年中にはノゲイラと再戦して欲しいよな」
「今度やったらB・Sが勝つだろう」
「そうかなあ、打撃系には強いけど、スタミナがなあ」
「B・Sはスタミナもついてきてるよ」
解説しよう。
昨年の夏、国立競技場で行われた格闘技イベントに於いてB・Sはプライドヘビー級王者アントニオ・ホドリコ・ノゲイラ選手と戦っている。関節技を得意とするノゲイラ選手をパワーで圧倒したが、最後にはスタミナ切れから腕ひしぎ十字固めを決められ、惜敗した。ちなみにノゲイラにはアントニオ・ホジェリオ・ノゲイラという双子の弟がいて、彼もまた格闘家である。
「吉田との試合はあまり見たくないな。面白くなさそう」
「でも、B・Sは相手を生かして見せ場を作ってから勝つ、っていう芸当が出来るんじゃない?」
「そうかなあ」
解説しよう。
バルセロナオリンピックの金メダリスト吉田秀彦は、昨年の夏、同じく国立競技場のイベントにてプロの格闘家としてデビューを果たした。グレイシー一族の兵、ホイスグレイシーを絞め落とし鮮烈なプロデビューを飾った。デビュー以来3戦無敗で驚異的な強さをみせているが、試合に面白みがないという批判も受けている。今年、B・Sとの試合があるのでは?と噂されているが、その真相は分らない。
格闘技ファン同志の会話は解説が面倒なので、さっきの焼そばグループの会話。
「5人がかりだったら勝てるべ」
「そうだな、10人はいらねえな」
「うっそー!5人で勝てるの?」
「3人だったら無理だけど、5人だったらなんとか」
5人がかりでB・Sに勝とうとしている。
多分、10人がかりでも勝てないと思います。
その後、女の子たちは疲れて眠ってしまい、男2人はジャンケンして勝ったら相手をビンタ出来る。という遊びに没頭していた。
14時になり、会場は賑わいをみせてくる。
振り向くと凄い人だかり。お巡りさんの場内アナウンスが流れ始める。
「節分の豆は皆さんに行き渡るように用意してあります」
「年の数だけ食べるという習慣がありますが、今日はひとつ、自分は若い。その気持ちであまり欲張らずにお願いします」
妙に流暢な口調で冗談を交えながら会場の笑いをとっている。
きっと毎年言ってるのだろう。
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