「はい、ではベトナム往復航空券、当選した方は……中野区の、おおつかゆきよさーん! いらっしゃいますかー!」
それは今年6月の、ベトナムフェスでの出来事だった。思い返してみると、ベトナムコーヒーを飲みながらステージをながめていた時、「……あ、当たる」という予感があった。眉毛と眉毛の間くらいの部分に、サーッと光がさすような、へんてこりんな感じがしたんだ。
正直に言うとベトナムは、「心のベストテン内・行ってみたい国ランキング」では、「今週のスポットライト」くらいの下位であった。
フリーになってからはお金がないので、旅行自体を控えていた。もしも行くならタイのバンコクとか、上海とか香港とか、バリとかハワイとか……気楽に楽しく遊べる場所に行きたかったんである。
ベトナムは、どちらかといえば気合いを入れて行く国だ。
もともと紀行文が好きなのだが、ベトナム関連本を集めて、読み返してみると、
「スリ、ひったくりに注意」「とにかくボられる」「サービスが悪い」「女の人がこわい」「腹をこわす」「だからリピーターが少ない」……とか何とか、もう悪いことしか書いてない。あとは雑貨・戦争・雑貨・戦争・グルメ・戦争・アオザイ・戦争・雑貨……。
出発の日を決めてから、プレッシャーで鬱になってしまった。アジア圏途上国へのひとり旅も初めてだったし、なにせ初・社会主義国入りだ。
「大丈夫、トラベルブルーってありますよ、行っちゃえばなんとかなりますって」
と知人に言われたが、楽しみより、恐怖のほうがぜんぜん上回っていた。
前日は眠れなかった。徹夜のまま、成田に向かう。スカイライナーでおにぎりをかじっていると、手が汗でしめってきた。
(text by 大塚幸代)
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