「あー、じゃあ、『西友』に行きたいんですけど」
「………?」
ハノイにはなんと『西友』がある。日本みたいにお惣菜も売っているらしい。これがちょっとハノイの中心地から離れている場所にあるので、行ってみたかったのだが、……却下されてしまった。
「じゃあ、あのう、皆が乗ってるバイク、バイクにいっぱいステッカーが貼ってあるじゃないですか、あれが欲しいんですけど、ステッカー屋さんってないですかね?」
「………?」
……これも却下されてしまった。
「蓮のお茶とか、雑貨とか、バッグとかは、欲しくないですか?」
「いやあ、その……じゃあ、『ブン・チャー』っていう料理が食べられる、『ダック・キム』って店の前で、降ろしてくれれば、そこで終わりってことでいいです」
「ああ、はい、ダック・キムですね! 分かりました」
なんかワケわからない日本人だけど、やっと分かること言ってくれたよ、と、小鹿のようはハンさんは、ほっとした顔をした。
「ブン・チャー、ハノイの名物です。フォーも名物です。食べましたか?」
「あ、はい、フォーは食べました。あと他に、ハノイにいるうちに、食べたほうがいいものってありますか?」
「……犬、ですね」
「あ、犬」
ベトナム、とくに北部には犬食文化がある。ちなみに中国でも韓国でも犬を食べる。
「私、韓国料理で、犬を、食べたことがありますよ」
「えっ! 日本の人、犬食べないと思っていましたが、食べる人、めずらしいですね!」
ハンさんは嬉しそうな顔になった。
「韓国料理では、薬草を入れた、トウガラシの辛いナベで犬を食べたんですけど、ベトナムではどうやって食べるんですか?」
「……焼肉ですね、それを野菜(たぶん香草)といっしょに食べます。それで、一緒に強いお酒を飲むのです」
「はー」
「犬、食べるのは月末です」
「月末?」
「ベトナムでは、その月にあった嫌なこと、月末にパーッとお酒を飲んで忘れて、新しい月を迎えるのです」
「へー」
「犬食べて、強いお酒飲んで……そういう時は、普段言えない話も、人とすることが出来ます」
「へえ〜」
『ダック・キム』に着いて、ハンさんたちと別れた。
ブン・チャーという、ミニハンバーグ&つけ麺の料理は、大変に美味しかった。
|