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はっけんの水曜日
 
バッチャン探訪とメコンデルタで泣いた話

蓮茶などをサービスされながら、買い物をしていたら、あっというまに時間になった。
「ハイ、ではハノイに戻りますー」
ちなみにこういうツアーだと、ツアー会社と提携している、1つの窯元でしか買い物が出来ない。もし「みっしりバッチャン村をまわりたい!」というのであれば、タクシーのみをチャーターしたほうが良さそうだ。ちょっと失敗。



犬を食べるのは月末に?

帰りの車中、「マダ時間ありますから、どこか買いたいものあれば、ガイドしまーす」と言われた。

……実は、この日の前日、自力でかなり歩きたおしていた。有名なガイドブックに載っているような店、「キャットウォーク」も「イパネマ」も「マエナサイン」も「カナ」も、チェック済みであった。


キャットウォークで買ったシルクバッグ。雑貨の話は、来週書きます……たぶん。

「あー、じゃあ、『西友』に行きたいんですけど」
「………?」

ハノイにはなんと『西友』がある。日本みたいにお惣菜も売っているらしい。これがちょっとハノイの中心地から離れている場所にあるので、行ってみたかったのだが、……却下されてしまった。

「じゃあ、あのう、皆が乗ってるバイク、バイクにいっぱいステッカーが貼ってあるじゃないですか、あれが欲しいんですけど、ステッカー屋さんってないですかね?」
「………?」

……これも却下されてしまった。

「蓮のお茶とか、雑貨とか、バッグとかは、欲しくないですか?」
「いやあ、その……じゃあ、『ブン・チャー』っていう料理が食べられる、『ダック・キム』って店の前で、降ろしてくれれば、そこで終わりってことでいいです」
「ああ、はい、ダック・キムですね! 分かりました」

なんかワケわからない日本人だけど、やっと分かること言ってくれたよ、と、小鹿のようはハンさんは、ほっとした顔をした。

「ブン・チャー、ハノイの名物です。フォーも名物です。食べましたか?」
「あ、はい、フォーは食べました。あと他に、ハノイにいるうちに、食べたほうがいいものってありますか?」
「……犬、ですね」
「あ、犬」

ベトナム、とくに北部には犬食文化がある。ちなみに中国でも韓国でも犬を食べる。

「私、韓国料理で、犬を、食べたことがありますよ」
「えっ! 日本の人、犬食べないと思っていましたが、食べる人、めずらしいですね!」

ハンさんは嬉しそうな顔になった。

「韓国料理では、薬草を入れた、トウガラシの辛いナベで犬を食べたんですけど、ベトナムではどうやって食べるんですか?」
「……焼肉ですね、それを野菜(たぶん香草)といっしょに食べます。それで、一緒に強いお酒を飲むのです」
「はー」
「犬、食べるのは月末です」
「月末?」
「ベトナムでは、その月にあった嫌なこと、月末にパーッとお酒を飲んで忘れて、新しい月を迎えるのです」
「へー」
「犬食べて、強いお酒飲んで……そういう時は、普段言えない話も、人とすることが出来ます」
「へえ〜」

『ダック・キム』に着いて、ハンさんたちと別れた。
ブン・チャーという、ミニハンバーグ&つけ麺の料理は、大変に美味しかった。



薬草は山もりだ。もちろんドクダミが入ってる。


このミニハンバーグみたいなのを、パパイヤが入っている、ヌクマムベースのつけ汁に付けて食べる。とうがらしとニンニクはお好みで。なんかもう、肉と、香草と、ヌクマムと、とうがらしとがせめぎあって、非常に立体的なお味。


女子だらけの市場に潜入

その日の午後は、ハノイの女子高校生が集うという噂の、ホム市場まで歩いて行った。


 

ここには服、バック、布地、美容院などがあって、ほんとにいるのは若い女の子ばかりだった。甘いもの屋もずらっと並んでいて、「どこの国でも女子は甘いもんが好きなんだな〜」と思った。

そこで売っていたバッグは、税関も笑って許しちゃうんじゃないかというくらいの、粗悪な偽ブランドもののほかは、合革のシンプルなデザインが多かった。
日本人が喜んで買う、シルクバッグは無かった。
「ああそうか、あれはミヤゲ物として成立しているもので、よく『バッグの値段をボラれた』とか『現地人が買う値段では買えない』とかって言うけれど、そもそも現地人は、普段は買わないんだな、きっと」……ということに気がついた。

市場の上の階にのぼってみたら、エアロビ教室になっていた。
「超ハイレグのレオタードが町中でよく売ってたけど、ひょっとしてエアロビ流行ってるのか…?」と思いながら、かかっている音楽を聴いてみたら、「ブルー・マンデイ」で、倒れそうになった(ニューオーダーというバンドの、1983年のヒット曲、この頃、ベトナムはカまだカンボジアと戦争中)。
ボーカリストが自殺しちゃって「もう駄目なんじゃないの」と言われていたバンドが、残ったメンバーで頑張って作って、大ヒットさせた曲……歴史に残る大名曲。
……しかし、よく聴くと、これが、あのカイリー・ミノーグがカヴァーした「Can't get blue Monday out of my head」というヴァージョンで、もういっかい倒れそうになった。
そんな曲で、ベトナム女子は、スタイル維持にいそしんでいるらしい。

市場より北側には、仕立て屋さんがダーッと並んでいた。……ベトナムでは、まだ人件費よりも布代のほうが高いのだろう。だからみんな、布を買って仕立てる。
「そういえばウチの母が若い頃は、日本でも、服は仕立てるものだったんだよなあ、あれは60年代だから、戦後15〜20年ころかあ……」なんて、ぼんやり思った。



その夜テレビを見たら、「中秋節」のイベントの様子がニュースで流れていた。


開けてベトナム4日目、10月1日。
「ハノイ市解放50周年記念日」を祝うためにだろうか、そこらじゅうに赤い旗がかかっていた。


ついでに伸びた街路樹も、ばんばん切られていた。

「ハンさんは、昨日、犬を食べたのかなあ……」と思いながら、私は首都ハノイを出て、飛行機で、ベトナムでいちばんきらびやかな街、ホーチミンに向かった。


 

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