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はっけんの水曜日
 
ここ日本じゃないのかも、という学園祭

「あ、東京外語大学の学園祭、『外語祭』が今度あるんですよ。結構面白いと思いますよ。是非遊びに行ってやってくださいよ」
と教えてくれたのは、チェコ語の出来る外大卒の知人・梶原さんであった。
「各国料理の屋台が出るとか……?」
「出ます出ます、外語大って26の専攻語があるんですけど、それぞれが料理を出すんです。
民族舞踊とかもやりますよ」
「わあ、いいですね。遊びに行きたいです」
「じゃあ一緒に行きましょう!」

……そんなわけで、ごくごく気軽に行ったのだ。しかし、予想していた何倍も、その学園祭は大変なことになっていた。

なんというか……そこは、日本じゃなかった。

(text by 大塚幸代

東京外語大学といえば、
・東京にある、とてもあたまがいい学校で
・外国語をみんなが学んでいる
ということしか知らない。校舎がどこにあるかも知らなかった。
中央線・武蔵境駅から乗り換えて、多磨駅というところで降りる。初めて降りる駅だ。
「実は、私が卒業してから移転しちゃって、ここになったんですよねえ。でも前あった場所も、巣鴨から徒歩20分っていう、アレな場所にあったんですけどね。ははは」
梶原さんが笑う。
入り口には頭文字をとったモニュメントが。



「このSのところ、よく人がはまって寝てるんですよねえ」
「ほー」

しょうもない情報を喜んで聞きつつ、中に入っていく。最終日の昼間、祭日なのだけれど、「人がめちゃ混み!」という感じではなかった。交通の便との悪さと、敷地の広さのせいだろうか。

パンフを見ると、



タイトルが「世界を、食え。」だった。
「私が知ってる大学祭のパンフって、もっと浮わっついてて、タイトルはダジャレなんかだったりするけどなあ……観光促進イベントのパンフみたいだなあ」なんて思いながら、表紙を見ていると、

「私、在学中、このパンフの広告とりやってたんですよねえ」と梶原さんが言った。
「……え!」


パンフにはこんなチラシもはさまっていました。

そ、そんなことやってたんだ……と思いながら中まで歩いていくと


こんな看板がずらり。

「わあ、世界の料理の看板! すごい、すごい!」
と喜ぶ私をみて、
「何が?」という表情の梶原さん。



看板には、クイズラリーもああった。全部、語学にひっかけたクイズだ。どれひとつとして分からない。

丸い中庭に入っていくと、ずらり、見渡す限り食べ物の屋台が並んでいた。
「……うひゃあ」
まるで、代々木公園なんかで行われている、タイフードフェスティバルのようだ。
「これ、それぞれの語学を学ぶ人が、それぞれの料理を作ってるわけですか?」
「そうですねー」
「……英語を学ぶ人は、どこの料理を作るんですかね?」
「あ、今年はハワイみたいですよ。毎年、英語圏のところの料理を、じゅんぐりに作っているみたいです。去年は英国料理だったらしいです」
「へ、へえー」


確かに、ハワイ屋台が出ていた。


民族衣装を着た女子大生達が、楽しそうに料理をして、呼び込みをしていた。
「女の子、多いですね」
「学校自体、女子の割合が多いんですよねー」



「うおおおお、アオザイ!」
「ああ、やっぱりアオザイって、淡い色のほうが可愛いですねえ〜」
「うわあ、あのコはフラメンコの衣装だあ! なんか、フツーに着てますねえ」
「お祭りですからねえ」

……しかし、雰囲気が何か違う。着飾っていても、他大学にはある「女子大生!」「ギャル!」という匂いが、全くといっていいほどしない。「男の子を喜ばすために着てるんじゃなくて、着たいから着るんだもーん」というように見える。
茶髪の子も少ない。

「あのね、やっぱり語学別に、国の雰囲気って出ちゃうんですよ。フランス語のところとか、まったりしてるでしょう?」



……そう言われれば、そんな気もする。フランス語を学ぶ=フランス文化が好きな人たち=フランス人っぽい動き、になっちゃうんだろうか。

白い衣装に赤いネクタイをしたフランスブースとは対照的に、パキスタン語のところでは、ブロックで作ったカマドで、羊肉をジュージュー焼いていた。



「うおおおおお、カマド! つーか肉!」
つい肉を購入するわたし。

「ところで、ビールとかって売ってるんですか?」
「当然ですよ。あ、外大祭でいちばん美味しいって評判の、チェコビール飲みましょう!」

チェ、チェコビール?

彼女に連れられて、チェコ語ブースまで移動。おお、売ってる売ってる、チェコビール。



「うわあ、初めてみた」
「実はチェコ本国では、ビールってめちゃくちゃ安いんですよー。1本80円とか、そんななので、皆飲んでます」
「へえー」

梶原さんは、チェコブースで作業している女子大生たちと、「私、*期生なんですよー」「ひょっとしてあのチェコのホームページやってる方ですかあ!?」「そうそう」「わー、見てます!」なんて会話してた。

私には学生時代のタテの繋がりなんて……全くない。
語学は、それがマイナーな語学になるほど、教えている人も学んでいる人も少ないわけで、それで自然に仲間が出来ていったりするんだろう。そんな青春もあるんだなあ、なんて感心しながら、チェコ料理をつまむ。



牛肉を煮た「グラーシュ」という料理(味はビーフシチューっぽい)と、スイトンっぽい味の「クネドリーキ」というもっちりしたパン。美味しかった。

「梶原さーん!」
また女性がやって来た。彼女はウルドゥー語(パキスタン語)をやっていた人で、梶原さんの友だちだという。
「あ、ウルドゥーの料理、買ってきたんですよ。これ、一緒に食べましょう」



ウルドゥーの「ビリヤニ」を食べながら、チェコビールを飲む。わけがわからない。
というか、私以外の人たちが皆、日本語以外の言語ができる人ばっかり、という状況がまず、なんだかワケがわからない。



 

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