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特集


ロマンの木曜日
 
拝啓、毒蝮三太夫さま

ミュージックプレゼントというラジオ番組がある。昭和44年のスタート以来現在まで、実に35年間も続いている長寿番組だ。パーソナリティの毒蝮三太夫さんがスーパーや工場、お店を訪れてそこで働く人たちから話を聞くという中継レポート中心の番組なのだが、その魅力は何といっても毒蝮さんの話術にある。「汚ねえババアだな」とお年寄りに対して平気で毒舌を浴びせるのだ。普通なら苦情が殺到してもおかしくないのに、それが本当に面白くて、毒蝮さんは「ジジイ、ババアのアイドル」として人気を集めている。

僕は学生時代から、この毒蝮さんの放送が大好きで良くラジオを聞いていた。今回、知人の紹介で毒蝮さんに会えるというので、ラジオ中継の現場にお邪魔させていただく事にした。

(text by 住正徳



今回の現場、花たきさん
毒蝮さんを歓迎するチラシ
TBS技術スタッフの車。ウルトラ警備隊っぽい
お店の外で中継の準備をするスタッフ

今回の現場は千葉県沼南町のお花屋さん

現在、毒蝮さんのミュージックプレゼントはTBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」の1コーナーとして、毎日10時30分からの30分枠で放送されている。月曜日から金曜日までの生放送を35年間続け、毒蝮さんが訪れたお店・会社は約8200軒にものぼる。

今回、僕がお邪魔する放送の現場は千葉県沼南町にある花屋の「花たき」さんだ。

「10時くらいに現場に来ていただければ、大丈夫なので、ええ」

マネージャーの千葉さんから事前にそう言われていた。
千葉さんは「はぶ三太郎」という芸名を持っていて、毒蝮さんのお弟子さんでもある。電話口のゆっくりとした喋り方から、穏やかな人柄を想像していた。実際にお会いしてもその印象は変わらず、「ハブ」という雰囲気は感じられなかった。なるべくお邪魔にならない様にしますので、と恐縮する僕を見て

「いやあ、もう、どうぞどうぞ、ゆっくり楽しんでいってください」
と優しい言葉をかけてくれた。

そんな千葉さんの雰囲気は現場全体にも共通していて、本番30分前なのにピリピリとした緊張感は漂っていない。ギャラリーもまだ集まっておらず、朝のポカポカとした日射しの中、TBSの技術スタッフさんが黙々と放送の準備をしている。毒蝮さんの姿はまだ見えない。

「いつもこんな感じですよ、うちの現場は。焦っても仕方ないでしょ」
とはいえ、ラジオの、それも生放送の現場など経験のない僕はソワソワしてしまう。本当にギャラリーは集まるのだろうか?

「みなさんお家でラジオを聞いてるんですよ。10時半から始まるって知ってるから、直前にやって来るんです」


毒蝮三太夫、名前の由来

ここで少し、毒蝮さんの経歴を振り返ります。
東京都品川生まれの68才。12才の時に舞台「鐘の鳴る丘」でデビュー。その後、劇団山王を経てテレビ、ラジオの世界へ。昭和43年、現在も続く人気番組「笑点」に座ぶとん運びとして出演。当時の司会者、立川談志さんの発案によって芸名を「毒蝮三太夫」に改名した。「毒蝮」も「三太夫」も落語の登場人物にちなんでいるらしい。
改名前は石井伊吉さん。ウルトラマンのアラシ隊員も、ウルトラセブンのフルハシ隊員も石井伊吉とクレジットされている。

笑点、ウルトラマンで顔が売れた時期、昭和44年にTBSラジオ「ミュージックプレゼント」のパーソナリティとなった。放送開始当初はその毒舌に対し苦情や避難の電話が山の様に来たらしい。あまりにもひどい、と。
どれくらいひどいかというと……

「ババア、オレが行ってあんたの葬式賑やかにしてやるよ」
「ひどい女房だね。よく亭主はこんな女毎晩抱いたね」
「うるせーな、このガキ。どっかに捨てときなさい」
「オレに会いに来たのかい、この米ヌカみたいな顔したババアは」

確かにひどい事ばかり言っている。でも、今では今ではほとんど苦情はこないようだし、言われた人たちもみんな楽しそうに笑っている。何故か? その秘密は毒舌の後のフォローにある。
「ババア、まだ生きてやがったか!」の後に「でも、長生きして良かったな」と付け加える。集まってくるギャラリーもラジオを聞いている人たちもそのフォローがくるのを知っているので毒舌が洒落になるのだ。


徐々にギャラリーが集まり
あっという間に鈴なり状態に
今日はその毒舌の現場を目の当りに出来る訳で、例えば米ヌカみたいな顔ってどんな顔なのか? ラジオを聞いてるだけでは分らない毒蝮さんの世界にどっぷりと浸りたい。

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放送開始10分前。お店の周りに人が集まって来た。やはり年齢層は高めで、みんなお店から少し離れて遠慮がちに様子を伺っている。

「どうぞー!ラジオの放送はこっちですよ」
スタッフが大きな声でみんなを呼ぶ。その声に触発されて、ゆっくりとお店の中に入っていくギャラリーのみなさん。

そろそろ放送が始まります。

 

※参考文献「ラジオの鉄人」山中伊知郎著、風塵社



 

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