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特集


フェティッシュの火曜日
 
声に出して読みたい

私たちは、日本語に囲まれて暮らしている。さまざまな言葉が日常目につくし、おびただしい種類の言葉に毎日接している。

ところで、読み物以外の「社会的」な日本語、つまり何かの注意書きや表示、説明書などは平易な、無難な日本語で書かれているのが普通だ。

そんな状況に慣れた目で、あらためてある種の日本語を読み返すと、「ぐっ」とくるときがある。

ほんの、ごくわずかな揺れ。妙だからといって雑誌に投稿するほどでもない、でもなんだか放っておけない言葉をほじくりだして、ごくささやかに鑑賞してみたい。声に出して。

乙幡 啓子

きっかけは故郷の味

「ある種」の言葉とは、簡単に言えば「和菓子の能書き」である。「簡単に言えば」と言われても困るだろうから、例を挙げてみよう。きっかけはこの我ら群馬県人が誇るせんべい、「旅がらす」のパッケージの裏に書いてある一文だ。


「アイスボックス」?「格別でございます」?

ずっと昔から、この文を見るたび私の幼い胸に、妙な気分がふっとわいていたものだった。

「アイスボックス」って、冷蔵庫のことでいいんでしょうか?「また格別でございます」と言ってるのは、どこの番頭さんでございましょうか。

まあ、つまりここにあるのは「妙に丁寧な、唐突なる日本語」というだけの話になるだろう。しかし、こっちは学校から帰ってきて「お笑いスター誕生」を見ながら、すいた小腹をちょっと満たそうと手を伸ばした旅がらすにいきなり「格別でございます・・・」とへりくだられるのは、なんとも奇妙なものだった。

 

デパ地下に唐突な日本語を探す

そうなると、他の和菓子の能書きも知りたくなる。よく菓子箱に1葉の紙が封入されてて、「創業元禄ウン年・・・」などと記されている紙が入っているだろう。あれを集めてみようと思った。あれなら、すごく「いい」日本語が詰まっているかもしれない。

しかし、全部箱で自分用に和菓子を買うわけにもいかず、買ったからといってその能書き紙が入っているとは限らず、仕方がないので、デパ地下でパンフレットを集めてきた。

能書き紙(ここでの「能書き」は否定的な意味ではありません、念のため)。

あったあった。ぐっとくるものが。ただし、共有していただけないものも多数含まれていることと思う。心していただきたい。

以下、一時はナレーターを目指していたわたくしによる、うれしはずかしの音声読み上げファイル付きである。心していただきたい。

>聞く<

鑑賞のポイント:やはり「こめてございます」だろう。「おります」という謙譲語でも十分なところ、「ござる+ます=ござります」の転である「ございます」を出してきた。ひらがなの多さもよい。

>聞く<
鑑賞のポイント:やはり「いかようにも」であろうか。いまどき、漢字にすれば「如何様にも」などと声をかけられたら、殿中かと思うぞ。


いや、単にパンフの表紙にこの一言だけあり、潔いなと思ったということだ。苗字は高橋さんでは?という趣もある。

>聞く<

鑑賞のポイント:へりくだってんだか、面白がってんだかわからない。そう、「珍菓」である。チンカ。でも今辞書でひいたら載っていてびっくりだ。読んで字のごとしだ。

>聞く<
鑑賞のポイント:これは途中からの引用である。この前にひとくさり逸話を語った後の文章であるが、大河ドラマのナレーターを気取りたくなってくるではないか。ぜひとも尼の格好などして謹厳に読み上げたい。


おまけ。上のお店のパンフにトピックが載っていた。春についてはこんな感じだが・・・


夏になるといきなり解放状態だ。「恋がめばえます」と断言!まあそうですわね。ここには憲二や拓哉ではなく、裕次郎や雄三の匂いがする。

他にもまだアプローチの仕方があるのではと思えてきた。古きよき生きた日本語を求めるなら、あそことあそこに行ってみよう。

 

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